第35話洋服を買いに行く4年目の彼女

「暑いな……」

 夏も終わりに向かい始めているが、それでも外は暑い。

 今日も相変わらず部屋に引き篭もっていようと思っていた。

 でも、繁華街に海外に持っていく用の服を買いに来た夏樹に俺はついて来た。


「別に無理して付いて来てくれなくてよかったのに」


「まあ、彼女の服選びを見るの好きだから」


「普通、見ていて暇っていう男がほとんどでしょ」


「いいや、世の男共は馬鹿だ。彼女の洋服について、わかろうとしてないから、ツマラナイだけで、女物の服について知識を頭に入れておけば、普通に楽しい」

 俺も最初は夏樹の服選びに付き合わされた時、全然楽しくなかった。

 クールで素っ気ない彼女は口数が少ないが、何かを聞けば教えてくれる。

 その服は流行ってるの? とか、そういうヒラヒラの部分の名前は? とか、色々と聞いていく内に、女の子が洋服をどういう視点で洋服を見ているのかが分かるようになった。

 で、それが分かると意外と楽しい。

 夏樹に今のトレンドって、こういうのだよな? とか話しあえたり、ダサい洋服をわざと勧めてからかってみたり、色々と会話が弾む。


「湊って下手したら男物よりも女物の服の方がわかるよね」


「まあな」


「男物は覚える気ないの?」


「最低限でいい。だって、見た目にお金かけるよりも……」

 うざったらしく間を溜めた。

 すると、夏樹が小突いてきた。


「早く言う」


「夏樹に貢いだ方が幸せだからな?」


「はぁ……、ほんと変わってるよね。湊って」


「まあな。でもしょうがないだろ。一時期、おしゃれをちょっと頑張ってたけど、めっちゃ疲れた。で、俺にはおしゃれは性に合わないって実感してな……」

 高校2年生の時、おしゃれを頑張っていた時期がある。

 陰キャなりに頑張ったが、あのときは本当に凄く疲れた。

 過去の思い出に浸っていたら、夏樹が俺の耳たぶを触ってきた。


「さすがにもう塞がってるね」


「おしゃれと言えば、ピアス! って感じでピアスの穴も開けたっけ……」


「私に開けてみたら? って言われてね」

 おしゃれをしたい! と夏樹に相談したら、手っ取り早くおしゃれに見られたいならピアスでしょ、と言われた。

 そして、俺はドン〇でよく売ってるピアッサーで夏樹に穴を空けて貰ったのは懐かしい思い出だ。


「もしかして、ピアスをしたらおしゃれに見えるよって言ったのは……」

 最近の夏樹は叩けばいくらでも埃が出てくる。

 バレンタインチョコに毎年のように仕込んでいた。

 もしかして、俺の耳にピアス用の穴を開けたのも……


「あのときは、ピアスしたら、おしゃれに見えるんじゃ? なんて私の適当な言葉にコロッと騙されてびっくりした」


「俺の苦しむ顔が見たかったからなのか……」

 遠慮しなくなった今、どんどん溢れ出る夏樹のヤバい過去。

 怖いなぁとか思っていたら、夏樹は何食わぬ顔で俺に教えてくれた。


「ちなみにピアッサーについてたピアスをまだ持ってる」


「なんでそんなもん保存してるんだよ……」


「いや、さすがに嘘だから」

 何、私の冗談を真に受けてるんだ? という顔で夏樹が俺に呆れた。

 いやいや、最近のお前を見てると普通に冗談に聞こえないから……。


「俺の苦しむ顔が見たくて『おしゃれしたいなら、ピアスでも開けたら?』って言ったのは?」


「そっちは冗談じゃない」


「だと思った」


   ※


 夏樹は海外に持っていく服を無事に買った。

 俺は夏樹に背中を向ける。


「そういや、今日はショルダーバッグじゃなくてリュックを背負ってたね」

 夏樹は俺が背負っているリュックに買ったばかりの服を仕舞う。

 そう、せっかくの夏樹とのお出おかけだし、俺はぶらぶらしようと思っていた。

 服を買ったら邪魔になるだろうと思い、リュックを背負ってきたわけだ。


「暑い中外に出たんだ。夏樹とちょっとぶらぶらしようと思ってな」


「で、どこ行きたいの?」


「せっかくだし久しぶりにゲームセンターとか?」


「クレームゲームでお金使いすぎそうだから嫌」


「ドン〇は?」

 俺の部屋で料理する夏樹は俺に教えてくれた。

 最近、ド〇キのプライベートブランドの食品が個性的で激アツだと。

 なので、行ってみようと俺は夏樹に聞いてみた。


「今日はデートじゃなくて適当にぶらぶらだし、ちょうどいいかもね」


「じゃ、行くか」

 そうして、俺と夏樹はドン〇へと向かった。

 本当になんでも売っている店内をぶらぶらと歩いていたら、夏樹がコスプレグッズのコーナーで立ち止まる。

 そして、俺を見た。


「な、なんだよ。その目は」


「湊って裸よりも服着てた方が喜ぶタイプでしょ?」


「それがどうしたんだ?」


「着てあげよっかなって」

 夏樹はナース服のコスプレセットを俺に向けながら言った。


「別に彼女にコスプレさせる趣味はないぞ」


「ウソつかなくていいから」


「さすがに制服姿の夏樹やメイド服の夏樹にあんだけ反応してたらバレバレだよな……。というか、夏樹が乗り気ならマジでコスプレして貰えると嬉しい」


「なんで?」

 俺は周りに人がいないか確認した後、念には念を入れて声を抑えて言う。

 

「夏樹に付けたあとが痛々しく見えて、シテルときに元気が無くなっちゃうかもしれない……」

 多分大丈夫だとは思うが力が抜けてふにゃふにゃになる可能性があると伝えたら、夏樹は鋭い目つきで俺を脅してくる。


「萎えたら私に失礼だし、おしおきするから」


「じょ、冗談だよな?」


「……」

 夏樹は何も答えてくれない。

 いや、マジで途中で萎えたらおしおきなの?

 確かに好きな人に萎えられたら、傷ついてもおかしくはないけど……。

 ちょっと今日の夜が心配になってきた俺は嫌な汗をかき始めた。


 

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