第34話彼氏を感じたい4年目の彼女

 夏樹に絞られない日は4日ほど続いた。

 絞られ過ぎて干からびかけていたこともり、当分は夏樹とシタくないと思っていたのだが……。

 なんだかんだで、シタくなってきている。

 夏樹からのお誘いを楽しみにしていたのだが、その気が一瞬で失せるような光景を俺は目撃してしまう。

 そう、夏樹は俺をイジメるための道具を準備をしているのだ。


「あのー、夏樹さん? それは何のために用意して……」


「今日の夜に使うやつ」


「……俺って夏樹に何か悪いことをしたのか?」


「してないよ」


「じゃあ、なんでそんなエグイ形をした道具を……」


「別にいいかなって」


「何がだ?」


「おしおきとかご褒美とか関係なくても」

 夏樹はおもちゃを弄りながら淡々と告げた。

 裏垢を俺に知られた今、もはや夏樹は怖いものなしになったらしい。

 

「いやいや、おしおき以外で夏樹に弄られるのは無理だから!」

 

「ダメ?」


「だめ」


「……本当に?」


「ほんとに」

 押し問答を繰り広げた後、夏樹は渋々、俺に使おうと思っていた道具を仕舞った。

 かとおもいきや、諦めきれていなかったのだろう。

 夏樹はメイド服を取り出して、体にあてがいながら頼んできた。


「やらせてくれるなら、メイド服また着てあげる」


「……諦めてくれ」


「ちっ。ケチな男……」

 舌打ちして夏樹はメイド服を棚に仕舞った。

 いや、ケチならそもそも弄らせないと思うぞ……。

 真昼間から激しい欲求を夏樹にぶつけられた俺はというと、部屋に飾ってあるカレンダーを見てしまう。


「あと1週間か……」


「まあね」

 気が付けば早い物で、夏樹が留学するまで後1週間を切ってしまった。

 ほぼ同棲状態だったこともあり、夏樹が居なくなると思うだけで切ない。

 本当に夏樹と半年も会えないなんて俺に耐えられるのか不安だ。

 だけれどもまあ、夏樹には夢を叶えて欲しい。高1からひたむきに頑張っていたのを知っているからな……。

 会えないのを我慢して、俺は夏樹の帰りを待つしかない。


「荷造りは順調か?」


「ぼちぼちってとこ。後は新しい服を買い足すくらい?」


「向こうで買うってのもいいんじゃないか?」


「高くない?」

 海外での買い物に慣れていない夏樹は不安そうに俺に聞いた。

 こう見えて、俺は3の夏前まで海外に住んでいた。

 それまでの経験を思い出して、夏樹に答える。


「母さんに服を買って貰ってたからわからない」


「はー……、使えないやつ」


「悪いな。帰国子女でも俺が住んでたのは中3まで、海外でしたことがないことなんて、普通にたくさんある」


「じゃ、したことないこともあるなら一緒に来る?」


「行きたいけど、行かない。2年とか3年とか長期になるなら、話は別だけどな」


「そっか」

 夏樹はどこか寂し気だ。

 俺は包装紙に包まれたプレゼントをカバンから取り出して、夏樹に渡した。


「まあ、あれだ。向こうでもがんばれ」


「なにこれ」

 夏樹は綺麗に包装紙からプレゼントを取り出していく。

 そして、中から出てきたハンカチを広げた。


「柄はお前が好きそうなのを選んでみたけど……、どうだ?」


「ほんと、最悪」

 夏樹はボソッと呟いた。


「え?」


「こんなことされたら、湊から離れたくなくなるでしょ……」

 最悪と言われて、柄が気に食わなかったのかと思った。

 でも、違うようで俺はホッとした。


「あー、ちなみにハンカチが入ってた箱にはメッセージカードも入ってるから暇な時に読んでくれ」


「……」

 夏樹は無言でハンカチが入っていた箱からメッセージカードを取り出した。

 3回くらい書き直した俺の力作である。

 夏樹はメッセージカードを読んだあと、俺の頬をつねってきた。


「いひゃいんだけど?」


「私のを乱してくる湊が悪い」

 むすっとした顔の夏樹は俺の頬をつねって遊ぶ。

 これから、留学に行く夏樹への応援となったようで何よりである。

 頬をつねられながら、俺は笑う。


「がんばれよ?」


「うん、絶対に留学は無駄にしない」

 クールな夏樹は格好良いことを言った。

 きっと、その言葉に嘘偽りはない。


「ああ。信じて待ってる。そして、あれだ。お前が向こうで頑張れるように、残りの1週間はとことんお前につきあってやる」

 どんと来いと俺は夏樹に胸を張る。

 そしたら、夏樹はまだ諦め切れていなかったことを俺に言う。



「湊のアソコ責めていい?」



 湿っぽい空気が一気に台無しである。

 とことん欲望に正直な夏樹に苦笑いをしながら答えた。


「いや、ごめん。それは無理」


「……とことん付き合ってくれるって言わなかった?」

 夏樹は眉をひそめた。

 いやいや、そうは言ったけど限度ってものがあるから。

 苦笑いが止まらない俺は夏樹に軽くデコピンした。


「最近、わがままが過ぎるぞ?」


「DVされたし、おしおきで」


「おまっ、今のは別に痛くないだろ!」


「……はいはい。まあ、いいや。湊のアソコを責めるのはひとまず置いといて、それ以外でちょっとお願いしてもいい?」


「できる範囲でな」

 釘を刺して置いた。

 じゃないと、何を言われるかわからないからな。


「キスマーク付けてほしい」


「あー、前にも言ったけど、キスマークってなんか見てると痛そうに見えるんだよな……」

 夏樹にキスをする時、なるべくあとが残らないようにと気にしているし、そもそも俺は夏樹の綺麗な柔肌を傷つけたくない。


「ダメ?」


「てか、なんでキスマーク?」


「湊から離れても湊を近くで感じたいから。まあ、すぐ消えちゃうだろうけど」

 寂しさを誤魔化すために、俺にキスマークを付けて欲しい。

 俺は夏樹のために頑張ることにした。


「……わかった」

 どこに付ける? という目で俺は夏樹を見た。

 すると、夏樹は服を脱いで下着を脱ぎ、ベッドに寝転んで俺を誘う。


「胸、太もも、お尻、背中、お腹」


「見えないところ全部か。てか、後から文句言うなよ?」

 そう言いながら、俺はベッドで待つ夏樹に近づき。

 あとが残るように激しくキスをする。

 胸、背中、太ももの内側、お尻、本当に色んなところだ。

 さすがにそろそろと思って俺は夏樹から離れようとするも……。


「もっと」


「いいのか?」


「いいよ。だから、もっとして?」

 俺が辞めようとしても、夏樹から、もっと欲しいと言われ続けた。

 夏樹の透き通るような白い肌に俺が付けたあとが増えていく。

 そして、それは30分も続いた。

 改めて、俺は見るも無残にけがされた夏樹の肌を眺める。

 夏樹にやって欲しいと言われてやったものの、これはちょっとな……。

 俺は普通に後悔した。でも、夏樹は後悔はしていないようだ。


「湊のあとがこんなに……」

 夏樹はうっとりとした顔で、俺が付けた痛々しいキスのあとを我が子のように可愛がっていた。

 そんな彼女に俺はボソッと呟いてしまう。


「今日も彼女の愛が重いなぁ……」


「嫌い?」

 聞こえていたのか、夏樹に聞かれた。

 そんな彼女のお腹あたりにあるキスのあとを撫でながら俺は笑う。



「全然嫌いじゃない」



 相手から愛されているか不安で不安でしょうがない俺にとって、こんなにも愛してくれているとわかりやすく教えてくれる夏樹は――

 最高のパートナーだ。






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