第31話ご褒美という名のおしおきをくれる4年目の彼女
理沙ちゃんとの出おかけを終えて俺は家でのんびりしていた。
そして、とあることを思い出した。
「なつきの裏垢……」
理沙ちゃんにこの画像の人に似てませんか?
と言って見せられたツエッターのアカウントである『なつき』
十中八九、俺の彼女であるクールで素っ気なくて、スケベで変態な夏樹さんに間違いがない。
しれっと、アカウント名とは別のユーザーIDも覚えておいたので、俺は改めて『なつき』というアカウントがどんな投稿をしているのか確認する。
なんというか、あれだ。
『まだこれでも我慢してるんだけど?』
と脅されたことがある。
その時は冗談だからと言っていたけれども、冗談とは思えなかった。
どうやら、それは正解らしい。
なつき
『最長7時間ちょいだけど、そのうち24時間が目標』
こんな投稿が何十回もされているのだから。
俺、本当に夏樹に壊されるんじゃないか?
なんて心配をしながらも、『なつき』というアカウントの投稿を遡っていくと、他アカウントであるSARI@裏垢とやり取りをしている痕跡を見つける。
なつきが『そうだね』と返信しているのはわかる。
でも、SARI@裏垢のどんな投稿にそう返信したのかはわからない。
SARI@裏垢は鍵垢という状態で、投稿を見るためにはSARI@裏垢に、俺のアカウントをお気に入り登録をして貰えないと無理だ。
それにしても、夏樹はどんな投稿に『そうだね』と返したんだろうな。
俺は陰キャ特有のねちっこさを発揮して、夏樹の裏垢を調べ尽くした。
※
21時を過ぎた頃、俺の部屋の玄関の鍵が開いた。
そして、友達と買い物に行っていた夏樹が入ってきた。
「お帰り」
と言ったが、夏樹からの返事はない。
夏樹はよそ行き用のおしゃれ着から動きやすい部屋着へ着替えた。
で、俺の横に座ってスマホを弄り出す。
お帰りといっても、返事がないから不機嫌? かと思ったらそうじゃないのか?
そんな風に疑問に思ったときであった。
「ねぇ、この写真なに?」
夏樹に向けられたスマホを見る。
スマホに写っていたのは、顔の部分が丁寧に塗り隠された男女の写真だった。
それを見た俺はサーっと血の気が引いて行った。
なにせ、写真に写っているのは、理沙ちゃんと俺の二人なのだから。
もしかして、理沙ちゃんがSNSに投稿したのを見つけてしまったのか?
「そ、その写真はどこで?」
「ん、この投稿で」
夏樹が俺にツエッターのとある投稿を見せてくる。
SARI@裏垢
『今日はお義兄さんとデート! 胸大きいから下着も高いんだよねって話したら、お義兄さんが買ってくれた♡』
……は?
ポカンと俺の口が空いた。
数秒間、間抜けな顔をしてしまった俺は、ハッと我に返り思考を張り巡らせる。
やばい投稿しかしていない『なつき』というSNSのアカウントを理沙ちゃんが知っていたのか謎に思っていた。
答えはハッキリと分かった。
そう、理沙ちゃんもヤバい子だったからだ。
理沙ちゃんのことをウラオモテがなさそうで本当にいい子だと思っていた。
しかし、そうではなかったらしい。
それにしても、理沙ちゃんはなんてヤバい悪戯を義兄に仕掛けて……。
っと、危ない危ない。
まずは夏樹にフォローを入れないとな。
「夏樹、怒らずに聞いてくれ。いや、聞いてください」
「まあ、いいけど」
「まず、第一に写真は俺だ」
「……」
夏樹の眉がぴくっと動いた。
これはもう、おしおきか?
と覚悟を決めたが、まだ、夏樹は俺の話を聞いてくれるようだ。
「でな、その写真は俺は記念撮影で撮ろうって言われて理沙ちゃんと撮った」
「下着は何で?」
「胸のサイズがでかいし、繁華街にあるお店じゃないと欲しいのが買えない。交通費を掛けて買いに来るのもあれなのでお金を貸して欲しいと言われた」
「お金を立て替えただけで本当は買ってはあげてないと」
夏樹は淡々と俺に言う。
俺はそれにぶんぶんと首を縦にして頷いてから、色々と説明を付け加えた。
「投稿は嘘だ。たぶん、あれだろ。なつきっていうお前の裏垢がお前だと理沙ちゃんは感づいていて、悪戯でやったと思う」
「……あー、やっぱりSARI@裏垢って湊の義妹だったんだ」
「え?」
「この前、なんで義妹である理沙ちゃんがこの部屋に来ただけなのに、私が浮気だって勘違いしたと思う?」
唐突に問題を出されるも、俺は答えが出せなかった。
すると、夏樹はスマホを弄り俺にSARI@裏垢の投稿を見せてきた。
SARI@裏垢
『義理の兄ができるみたい! 名前は海に関係する感じ!!!』
他にも、夏樹はSNSに上げらているSARI@裏垢の投稿をみせてくる。
それを見た俺は言う。
「投稿されたタイミング的に、夏樹からしてみたら、もしかしたらSARI@裏垢が俺の義妹かもしれないって思えてくるな」
「そういうこと。で、その義妹がこんな投稿してたらどう思う?」
SARI@裏垢
『お義兄さんは童貞っぽい顔。せっかくだし、奪っちゃおうかな♡』
夏樹が髪の毛の持ち主が義妹だって言った後も、浮気だって勘違いし続けていた意味がわかった。
そりゃあ、こんな投稿してる子が俺の部屋に来てたら、俺が手を出してないかというか出されてないか心配にもなる。
「ハッキリ言うが手を出してないし、出されてもない。写真は本当にごめん。撮られた後にくっ付ぎすぎたと反省してる」
誠心誠意を尽くして俺は夏樹に謝った。
すると、夏樹は大きな溜め息を吐いた。
「はぁ…………」
やばい、これはおしおきコースか?
と思ったら、落ち着いた様子で夏樹は俺に聞いて来た。
「別に、義妹と浮気はしてないってことでいい?」
「当たり前だろ? 俺はお前一筋だ」
「これからは、異性と写真を撮るときは必要以上にくっ付かないのと、義理の妹に下着を買ってと言われても買わない?」
「あ、ああ。気を付ける」
「気を付ける?」
夏樹は違うよね? と怖い目で俺を見た。
「も、もうしません!」
「ん、わかった」
夏樹は外で食事をしてきたものの、今日はお酒を呑んでいないみたいだ。
冷静な状態であれば、こんなにも聞きわけがいい。
前回は本当に災難でしかなかったわけだ。
そして、俺はずっと気になっていたことを自ら聞いてしまう。
「それでその、おしおきは……」
事の経緯を全て知り、比較的落ち着いた様子の夏樹の顔色を
理沙ちゃんに下着を買ってあげたのも、近い距離で写真を撮ってしまったのも、紛れもない事実である。
普通に、おしおきされてもおかしくはない。
心臓をバクバクさせながら、俺は夏樹の返事を待った。
「されたいの?」
「いえ、勘弁してください」
なつきの裏垢の投稿を見てしまった今、おしおきをされるのは怖い。
「わかった。おしおきはしない」
意外な返答をされたこともあり、俺はなんだか落ち着かない。
どこか腑に落ちないが、た、助かったってことでいいのか?
俺はホッと胸をなでおろしたのだが……。
夏樹は立ち上がり、俺の部屋にある棚をゴソゴソと漁り出す。
パチン。
部屋にゴムが弾ける音が響き渡る。
音の正体は、夏樹が黒い薄手のゴム手袋を装着した音だ。
よく動画投稿サイトで料理をしている人が付けていそうな黒いゴム手袋を見ながら、俺は夏樹に聞いた。
「あの~、夏樹さん? そのゴム手袋は?」
「素手よりも、こっちの方がよく滑るし傷つけないって聞いた」
黒い薄手のゴム手袋を嵌めた手を俺の方に向けながら夏樹は言った。
何も明言されていないのに、気が付けばお尻にキュッと力が入ってしまう。
まるでソコを守るためにと言わんばかりに。
「……お、おしおきはしないんじゃ」
「今日の湊は正直で余計なことは言わず、すぐにちゃんと経緯を説明して謝ってくれたでしょ?」
「まあ、そうだな」
「だから、私は優しいし今日はご褒美をあげなくちゃって」
「やっぱり、理沙ちゃんとくっ付いて写真を撮ったり、下着の代金を立て替えてあげたのを怒ってるだろ!?」
夏樹はゴム臭い手で俺の頬を撫でる。
そして、嫉妬した感じを露わにして言う。
「ねえ、私からの
「ごめん、ほんとごめん。でも、それだけは本当に勘弁してください! それ以外は何でもするから!」
おしおきされるようなことをした俺が悪いのはわかっている。
でも、俺は綺麗なままでいたいと必死にジタバタと逃げた。
まあ、当然フィジカルお化けな夏樹から逃げられるわけもない。
あっという間に、俺は部屋の角に追い詰めらた。
夏樹は悪い顔でスマホを見せながら、俺に告げる。
「SARI@裏垢のこと、湊のご両親に教えてもいい?」
理沙ちゃんが使っているSARI@裏垢ではやばい投稿が多い。
義兄である俺の童貞を奪っちゃおうだの、お義兄さんに下着を買って貰ったなど、本当に色々と親に見られたら不味い投稿がたくさんある。
「お、脅すのか?」
「で、ご褒美は貰ってくれるの?」
万事休す。もう俺には何もできることはない。
諦めかけていたその時、俺は夏樹を退ける妙案を思いつく。
俺は偉そうに意気揚々と胸を張って夏樹に言う。
「俺にしたら、同じことを夏樹にもするからな?」
ふっ、勝ったな。
さすがの夏樹も弄りたくても、弄られるのは勘弁だと思っているはずだ。
俺が清々しいまでの圧倒的な勝利を確信していたときだった。
「別にいいけど? てか、湊にして貰えるの普通に嬉しい」
何食わぬ顔で夏樹は言った。
いや、今なんて言ったんだ?
夏樹の思いがけない返答のせいで、俺はきょとんとして動けなくなってしまう。
「さてと、湊の合意も取れたし準備しないとね。あと、今日は指だけの予定だから安心していいよ」
沈黙は肯定と解釈した夏樹は、俺へのご褒美の準備を始める。
「ちょっ、待った。俺はOKとは言ってないからな!?」
俺は慌てて準備を始めた夏樹の行動を阻止する。
漫画やアニメだったらなんやかんやあって、やられずにおしまいで終ってしまうことがほとんどだ。
しかし、ここは紛れもない現実である。
俺は夏樹の魔の手から逃げることは――
できなかった。
※
全てが終わった後のベッド。
弄られたせいで落ち着かない俺に、横で寝ている夏樹が囁きかけてくる。
「……あーあ。とうとう、湊も大事なモノ捨てちゃったね?」
彼女にいい様にやられて、情けない姿を晒した俺は悔しくて涙を流す。
俺の変な声がたくさん聞かれたし、夏樹は『感じてるでしょ? ねえ、こんな場所弄られて気持ち良くなってるの?』なんて、言葉責めしてきた。
正直、夏樹に弄られていた俺の顔はめちゃくちゃ真っ赤だったと思う。
もう、二度とあんな思いは本当にしたくないものだ。
そんな傷心気味な俺を夏樹は励ます? かのように言う。
「明日は湊が私の初めてを奪っていいから」
いつもなら、俺にはそんな趣味はないと言って『やらない』と言っただろう。
でも、悔しかった。夏樹に情けない格好で醜態をさらすのが。
だから、俺も同じことを夏樹にして泣かす。
恥ずかしくて俺の顔がまともに見られなくなっちゃうくらいに、夏樹をたくさん責めてやる。
今日やられた分は、きっちりと夏樹に仕返しをする。
俺はそう心に決めて眠りについた。
――はずだったのだが、俺は寝ることはできなかった。
今日の夏樹は俺を責めるのが多めだったこともあり、欲求不満を解消できていなかったらしい。
夏樹は着たばかりの服を脱ぎ捨てながら言う。
「まだデキるよね?」
どうやら、俺は今日も寝れないらしい。
返事をする前に、目を爛々と輝かせている彼女に俺は襲われた。
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