第30話とんでもない悪戯を仕掛ける1年目の義妹
理沙ちゃんは母さんの誕生日プレゼントも無事選び終わり、俺も留学に行く夏樹を応援するためのプレゼントを買った。
せっかくなので、義妹になった理沙ちゃんに何か買ってあげよう。
そう思っていた時であった。
「恥を忍んでお願いがあるのですが……、ちょっとお金を貸して貰えませんか?」
「何が欲しいんだ? あー、嫌なら別に言わなくていい」
「し、下着を買いたくて。そのえっと、こういう大きな繁華街にあるお店じゃないと、私の好きなデザインが置いてないので……」
「本当に恥を忍んでのお願いだな……」
胸がデカい理沙ちゃんならではの問題だった。
とはいえ、貸したいのは山々なんだが……。
理沙ちゃんにクレープを奢ってあげたので俺の財布の中身は心もとない。
「あっ、すみません。そう言えば、クレープのとき現金はそんなに入ってないから、後で足さないと的なことを言ってましたね……」
「まあな、でもクレカがあるから平気と言えば平気だが……。俺が会計しないとだから無理か」
現金は確かにない。
でも、学生のうちは審査が緩いし、今の内に1枚くらいは作っておけと言われて作ったクレカが財布に入っている。
ただ、クレジットカードは本人以外は利用不可。
となると、俺がレジに買いに行かなくちゃいけない。
銀行のキャッシュカードもあるが、母さんから貰った臨時収入をわざわざ口座に入れるなんてことはしていないので、今の残高はほぼ0。
うん、今日は諦めて貰うしかないと思っていたのだが……。
どうしても、理沙ちゃんは諦めきれないようだ。
「お会計のときだけ一瞬レジに来てくれませんか?」
「さすがにそれは……」
「私、妹なので!」
やや強引に頼んでくる義妹である理沙ちゃん。
陰キャである俺は腰が引けてしまいNOと言えなかった。
「恥ずかしいから本当に直前になったら呼んでくれ」
「はい! それじゃあ、お会計の時に呼びます」
で、35分後。
俺はクレカを使って理沙ちゃんに下着を買ってあげた。
にしても、あまり見ないようにしたが、確かにこういう繁華街にある専門店でもなければ取り扱いのないようなサイズだった。
理沙ちゃんは下着を買うためだけに交通費を使うのもためらうようなお年頃。
俺に恥を忍んでお願いしてきたのも、納得である。
いや、本当に納得か?
なんかおかしいような気がする。いや、でもあり得なくはないような?
などと、理沙ちゃんに下着というかブラを買ってあげた後に、駅に向けて色々と考え歩いていたときであった。
「せっかくなので写真撮りませんか?」
さっきも、理沙ちゃんはクレープを食べる前に写真を撮っていた。
女子高生とは写真を撮りたがる生き物だ。何でも写真に撮りたがる。
しかし、俺は陰キャだ。写真を撮るのも撮られるのも何か苦手だ。
でも、陰キャは押しに弱い。
理沙ちゃんの押せ押せな雰囲気に負けて、気が付けばツーショット写真を撮られていた。
で、そんなことがあった後、わりとすぐに俺達は駅に辿り着いた。
「今日はありがとうございました。お金は機会があったら返しますね。お金のために交通費を使ってお義兄さんのところへ行くのは本末転倒なので」
「ん、わかった。また会う機会はあるだろうしな。気を付けて帰れよ?」
「はい!」
「じゃあ、俺はあっちの路線だから」
帰りの電車は違う。
俺は理沙ちゃんとは別方向に歩き出そうとしたときだった。
ざわざわとした駅構内で理沙ちゃんが俺に微笑みながら言った。
「お義兄さんも気を付けてくださいね?」
※
理沙Side
カノジョは素直で真面目で一生懸命。
それもそのはず、カノジョは生まれてこの方、男手一つで育てられてきた。
父親に負担を掛けたくない一心で、必死にいい子を演じている。
でも、やっぱり彼女は年相応な少女でしかない。
例えば、高校の教室の昼休み。
クラスメイトの男子がバカ騒ぎしていて、理沙の机に置いてあったパックのレモンティーを床に落としてしまう。
「わりぃ」
「ううん。全然気にしてないよ」
理沙は気にしてないように笑う。
でも、実際はそれは嘘。ほとんどの人は最悪だと思う。
ただ、理沙という少女はそれを顔や
(新しいの買ってくれるとかしてくれないわけ?)
凄く普通に当たり前のことを考えている。
でも、彼女はいい子。
それを絶対に口にしたら良いことなんてないし、口にするつもりはない。
そう、するつもりはなかった。
だがしかし、世は大SNS時代。
誰にも知られず、匿名で好き勝手に思いのたけを
気が付かないうちに、理沙はストレスを発散するため口にするつもりはないアレコレを呟いてくようになっていた。
理沙が使っているのは無料アカウントなら140文字までを一回に投稿できるSNSのツエッター。
彼女は今日もレモンティーを溢された恨みをそこで
SARI@裏垢
『クラスの男子にレモンティー半分以上溢されて『ごめん』だけ。普通、新しいの買ってくれるよね?』
バレたら人間関係がぶっ壊れる内容。
でも、誰にもこのアカウントのことは教えていないので問題はない。
もちろん、万が一に見つかったとしても言い逃れできるようないい訳もある。
そして、理沙は鬱憤以外にも他人には言えない本心を吐露している。
SARI@裏垢
『エッチしてみたいなー』
SARI@裏垢
『彼氏持ちってずるい。だって、Hし放題なんでしょ?』
SARI@裏垢
『他人のエッチが見てみたい』
凄く良い子で真面目な理沙。
彼女はその性格もあって、周りから『性にまつわるお話は苦手なんだろうな?』と勝手に勘違いされているが……。
普通に普通な少女なわけで、エッチなことにだって興味がある。
ただ、理沙は表じゃ言わない方がいいのを理解しているので言わないだけ。
しかし、性に興味のあるお年頃なわけで……、誰にも見つからないような場所で性への色んな想いを吐き出している。
で、エッチな事ばっか呟くような子は、他人のそういうエッチな呟きも気になるわけで……。
(エッチなこと言ってるおもしろそうな女の人いないかな?)
エッチなことを自由気ままに呟いているアカウントを見つける。
アカウント名は――なつき
プロフィール画像は身バレ対策で黒マスクに肌フィルターを掛けている。
理沙が見つけた『なつき』の主な投稿内容は彼氏へのいろんな欲求。
(うんうん、なんかおもしろそう!)
と思い、理沙は『なつき』をフォローした。
そしたら、相手も多くの人に自分の投稿を見て貰いたいのだろう。
フォローが返ってくる。
そうして、理沙となつきは、まぁまぁ、やり取りをするような仲になった。
そして、ある日。
理沙はなつきのとある投稿を見て、首を傾げる。
なつき
『彼氏に義妹ができて笑えない。めっちゃ可愛いらしい』
(あれ? なんか私と似てる。こんな偶然ってあるもなんだね)
理沙がちょうど親の再婚を聞かされて義理の兄が知って2日後のことだった。
おもしろい偶然もあったものだ、と理沙が思っていたら、投稿内容がどんどん自分の境遇と被り出した。
なつき
『例の義妹はJKらしい』
あってる。
なつき
『彼氏の名字は変わらないらしい』
あってる。
理沙は新しい継母は名前を変えると凄く不味いということで、自分の父親が婿入りという形で変更すると聞かされている。
しばらくの間、わりと自分の境遇と被る投稿が続いた。
でも、理沙はまだ信じていなかった。
なつきが義兄の彼女なわけがないと。
だが、義兄である湊の彼女の写真を見せて貰ったことで、とうとう理沙はなつきの正体を知ってしまった。
(あ、この写真の人、あの『なつき』って人だ)
プロフ写真と見せて貰った写真の目元がそっくりだったので、一瞬で確信した。
あのアカウントの持ち主は義兄の彼女のモノだと。
そして、理沙はそれを知らないであろう義兄にわざとらしく『このアカウントの画像の人と似てますね?』と言って見せた。
どんな反応するのかな? と思って。
『いや、全然知らない。目元が良く似た他人だろ』
義理である妹に引かれたくないのか、必死に義兄である湊は否定した。
(あははは、そりゃ義妹の前でこのアカウントの人は俺の彼女かもしれないなんて認められるわけないよね。あ~、もう、面白すぎ! そういや、なつきさんって私の投稿にたまに返事くれるっけ? だったら、タイムラインには私の投稿は表示されてるよね?)
理沙という少女は何度も言うが、普通の少女。
出来心で悪いコトだってしたくなっちゃうお年頃だ。
(なつきさんが焦っちゃうような、アレな投稿してみよっと)
理沙は下着のメーカーロゴが入った袋が写真に写るような感じで、義兄とツーショット写真を撮った。
写真に写る自分達の顔の部分を塗りつぶし、なつきを焦らせるような文章を添えて投稿する。
SARI@裏垢
『今日はお義兄さんとデート! 胸大きいから下着も高いんだよねって話したら、お義兄さんが買ってくれた♡』
そんな投稿をした理沙は、帰りの電車の中でほくそ笑む。
(あんなヤバい投稿する人だし、お義兄さんはどうなっちゃうんだろうね?)
素直で良い子だと信じ込んでいる義妹にとんでもない悪戯をされていることを、湊はまだ知らない。
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