第28話デカくなったのを気にしてる4年目の彼女
夏樹の父親と食事を終えて部屋に帰ってきた。
心労からか一気に老けた気がする。
着替えながら、ふぅとため息を吐いたときだった。
いきなり、背後から夏樹が俺に抱き着いてくる。
「お父さんの前で緊張してて可愛かったよ」
「で、婚約はどこまで本気なんだ?」
「冗談じゃないから」
婚約状態にあると言えなくもない俺と夏樹の関係。
どこまで本気なのか尋ねてみたら、夏樹は割と本気らしい。
「婚約状態にあるっていえる関係に持ち込んで何かいいコトでもあるのか?」
「あー、湊は知らないんだ」
冷静沈着な声で夏樹は囁いた。
嫌な予感がして、背中がヒリヒリとする。
「な、何を?」
「婚約者には慰謝料を請求できるってこと」
ちゃんとした答えが返ってきて俺は鳥肌が立った。
後ろから抱き着く夏樹はそのままで、俺はスマホで婚約者について調べる。
そして、俺は色々と知った。
「浮気したら慰謝料を請求できるし、婚約破棄もそう簡単にできないのか……」
恋人関係のちょっとした延長線上にあるのが婚約者。
そう思い込んでいたが、実際は法的な観点からみると問われる責任の重さが全然違った。
恋人関係では浮気したら慰謝料の請求はできないが、婚約していたら慰謝料を請求できる可能性が非常に高くなるらしい。
からっからに乾いた喉で俺は夏樹に聞く。
「……どこまで本気なんだ?」
「私、本気じゃないことないんだけど?」
そう言って、夏樹は俺を抱きしめる腕により一層と力を入れた。
重いなぁ……。人によっては、こんな重い奴ごめんだ! ってなる。
まあ、俺はならないからいいんだけど。
「浮気したら慰謝料か……」
婚約関係にあるという状況証拠は十二分にある。
十中八九、浮気で訴えられたら俺が負ける。浮気するつもりはないけれども、浮気したらヤバいんだという実感が俺を襲ってきた。
夏樹は愛おしいモノを
「湊には請求しないよ。ただ、湊の浮気相手は慰謝料を請求したうえ、会社員なら会社にばらすし、学生なら友達に言うし、既婚者なら相手の夫や家族に言う」
「俺には慰謝料は請求しないんだな」
「そ、優しいから許してあげる。まあ……」
「おしおきはするけど、ってか?」
「よくわかってるじゃん。たとえば、こんな風にね?」
夏樹は俺の胸にある突起物をギュッと指で潰す。
「痛いからやめような?」
「ううん、やめない」
「なんで?」
「最近、湊のせいでちょっとデカくなったからね。お返ししようと思って」
ここ最近は爛れた生活を送っていた。というか、送っている。
俺は毎日のように夏樹の胸を触っている。
弄ると胸はデカくなるという。
ただまぁ、夏樹の口ぶりからして胸のカップ数が上がったわけじゃなくて……
別のところがデカくなったんだろう。
クールで素っ気ない彼女は外見を気にする子なわけで、どうやらデカくなったのが結構ショックだったらしい。
俺はデカくなったなんて全然気が付かなかったし、そもそもデカいというほどでもないと思うんだけど……。なんて言ったら、怒られそうだ。
俺はちゃんと言葉を選んで夏樹を慰める。
「お、俺はデカい方が好きだぞ?」
「じゃあ、私もデカい方が好きだから」
言葉選びは大失敗。
俺の胸にある突起物を夏樹はより一層と激しく弄り出す。
しかし、俺は男だ。
隠せる女の子と違って海やプールに行った際、周囲に見られるわけで……。
「ちょっ、やめっ! マジで伸びるから、そんなに引っ張ったら伸びるって!」
必死に抵抗して夏樹から逃げようとする。
でも、夏樹は相当ショックだったらしく、俺を逃がしてくれない。
「ダメ。私の悲しみを湊にも味わって欲しい」
「いうぞ。お前の父さんに娘さんがとんでもないことをしてくるって!」
さっきのお食事会で得た俺の新しい切り札を使うと言った。
すると、夏樹は呆れた顔で俺を見る。
「お父さんに今の状況を言えるの?」
「い、言えないけどさぁ……」
「そろそろ大人しくしたら?」
「……無理。俺にも恥ってもんがある!」
「いや、私にもあるから。だから、湊にお返しをしてあげるんでしょ?」
話は平行線。このままじゃ、確実にヤラれる。
俺はどうにかこうにか逃げ道がないか探す。
そして、一筋の光を見つけた。
「そもそも、デカくなったってのは夏樹の勘違いじゃないのか?」
そう、最近弄られ過ぎているからデカくなったと感じるだけ。
実際はデカくなってないかもしれない。
デカくなっていたとしても、デカくなってないだろと言って押し切って見せる!
「はぁ……、じゃ、確認して」
そう言って夏樹は上着を脱いだ。
で、ブラを外して俺の前に胸を曝け出した。
小ぶりではあるものの、膨らんでいる夏樹の胸を俺はじっくりと観察した。
ほら見たことか、やっぱりお前の勘違いじゃ……というつもりだった。
しかし、4年も付き合っていて、何度も見ていたら、彼女の変化くらいわかる。
たぶん、俺が気にしてなかったから、気が付かなかっただけだ。
うん、これは『勘違いだろ?』なんて言ったら、絶対にぶん殴られる。
取り敢えず、コトを軽んじてたのを俺は謝ることにした。
「……すみませんでした」
「で、まだ逃げる?」
「こうなったら……」
このまま襲われるのではなく、襲ってしまえばいい。
そうすればきっと夏樹は俺に何もデキナイ。
やられる前にやってやる! 俺は夏樹を押し倒そうとした。
「あのさ、湊が私に勝てると思ってた?」
が、夏樹はとんでもないフィジカルお化け。
気が付けば、体格差があるのに俺が逆に押し倒されていた。
「すみません。許してください」
「てかさ、今、湊から襲ったよね?」
「いや、それはそのー……」
「今日はやる気あるみたいだし激しくして平気でしょ?」
ベッドに押さえつけられた俺は為すすべもなく、夏樹に襲われるしかなかった。
※
深夜2時。俺はトイレに行きたくて目が覚めてしまった。
1時まで、めちゃくちゃにされていた俺はベッドで寝ている夏樹を見る。
夏樹は体力を使い果たしてスヤスヤと眠っている。
「今なら勝てるんじゃないか?」
寝ている夏樹の手足を縛って身動きを封じる。
そして、さっきの復讐をしてやる!
なんて悪いことを考えてしまった俺は、そろりそろりと夏樹の手足を縛るための紐を用意した。
まずは足を縛ろうと思い、そっと夏樹の足に触れたときだった。
「ふーん。そういうことするんだ」
夏樹が目を覚ました。
「いや、そのえっとですね……」
「今日は、朝までは勘弁してあげるって譲歩してあげたのにね」
「出来心だったんです。本当に許してください。明日、バイトもあるんで朝までコースだけはどうか……」
俺は嘘を吐いた。明日は普通にバイトなんてない。
でも、夏樹は常識のある大人だ。
俺がバイト先で迷惑を掛けるようなことはさせたくないはずだ。
「明日ないでしょ」
「……はい」
そういや、夏樹にこの前、色々な予定を合わせたいからシフト表見せて? と言われて見せるどころかコピーをあげてたっけ……。
夏樹は俺の頬を触りながら告げる。
「嘘つく悪い子にはおしおきしないとね」
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