第25話責められるのも好きな4年目の彼女

「はい、召し上がれ」

 俺の前にはオムライスが置かれた。

 そして、夏樹は裸エプロンからミニスカメイド服に着替え始める。

 俺はその間、綺麗な形をしているオムライスを観察して待った。

 夏樹はガーターベルトを着けながら、一向にオムライスを食べない俺に言った。


「食べていいんだけど」


「まだオムライスにケッチャプで字を書いて貰ってない」


「はぁ……、はいはい」

 ちょうどガーターベルトを着け終えた夏樹はケッチャプを手に取った。

 飛び散らないように気を付けながら、夏樹は丁寧に字を書いていく。

 一文字目は『あ』

 二文字目は『い』

 三文字目は『し』

 四文字目は『て』

 五文字目は『る』

 全てつなげると『あいしてる』と凄く普通な文章を書いてくれた。


「夏樹のことだから、殺すとか怖い事を書かれると思ってた」


「じゃ、そっちも」

 夏樹は自分のオムライスにケッチャプで字を書いた。

 今度は『ニガサナイ』と。

 で、さっき書いた『あいしてる』と書かれた俺の前にあるオムライスと交換した。

 殺すといった非現実的な言葉じゃないのが、これまた怖い。

 まあ、夏樹から逃げる気なんてないし、俺の方が夏樹に逃げられないように努力をしなくちゃいけないんだけどな。


「あの……、食べる前にもう一つだけ夏樹にお願いが……」

 夏樹は呆れた感じで俺を見てくる。

 そして、俺が求めているモノに自分で気が付いたらしい。


「あー、恥ずかしいから無理」


「そこを何とかお願いします……」

 メイド服を着た夏樹に頼み込む。

 すると、夏樹はため息吐いた後、手で♡の形を作っておまじないを唱える。


「おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えキュン……」

 すっごく棒読みだが、夏樹は美味しくなるおまじないをオムライスに掛けた。

 柄にでもないことをする夏樹の姿が本当に可愛くて、俺はニヤニヤが止まらなくなる。


「……こっちみんな」

 夏樹は口元に手を当てて、恥ずかしそうに俺から目を背けた。

 さてと、せっかくの出来立てだし遊ぶのはこのくらいにしておこう。

 俺は手と手を合わせた。


「いただきます」

 スプーンでオムライスを掬って口に運ぶ。

 ケッチャプライスの程よい酸味と塩気がとても美味しい。

 この前まで料理なんて全然してこなかったと言ってたが、料理もそつなくこなせる夏樹は凄いとしか言いようがない。

 俺は口の中に入っていた物を飲み込んだ後、拗ねている夏樹に味の感想を言う。


「ケッチャプライスの味付けが凄く美味しい」


「ありがと……」


「正直、留学に行ったら夏樹の手料理が食べれなくなると思うとマジで悲しい」


「結婚したら毎日食べれるんだから、わがまま言わないでよ」

 

「あー、結婚するのは本当に決定事項なんだな」

 しれっと凄いことを言われたのでツッコんだ。

 そしたら、夏樹は不機嫌そうに俺を威圧してくる。



しないの?」



「そ、そんなことはないです」


「なら良いんだけどさ、仮に結婚したくないって言うなら覚悟はしといて」


「な、なにを?」


「私と結婚するって言ってくれるまで『おしおき』をやめないってこと」

 どう足掻いても『夏樹と結婚する』という選択肢しか俺にはないのか……。

 にしても、一体どんなおしおきをされるんだ?

 怖いもの見たさで俺は夏樹に聞いてしまう。


「ぐ、具体的には何をする気……なんだ?」


「まず、湊の交友関係を壊して孤立させて、私以外の人との接点を絶つ」


「お、おう」

 するっと具体的な例を出してくるあたり、夏樹はわりと本気なのかもしれない。

 この前、『半年間、海外に留学に行っちゃう私となんて付き合ってられないよね?』と儚げな顔で俺を見てきた夏樹とはまるで別人だ。

 まさか、今俺の目の前に居る夏樹は偽物……なのか?

 そんな馬鹿げたことを考えていたら、夏樹はスプーンで掬ったオムライスを俺の口に押し当ててきた。


「あ~ん……」

 差し出されたオムライスを俺はパクリと食べる。


「急にどうしたんだ?」


「……さすがに言い過ぎた」

 夏樹は俺が別れるって言ったら『お前を孤立させる』なんて脅迫をしてきた。

 俺は慣れっこだから気にしないけど、普通だったら『脅してくる奴とは付き合えない』なんて言う人も多いのは事実だ。

 で、俺に嫌われないようにと、男の子が女の子にされたら嬉しい『はい、アーン』をしてくれたわけか。

 強い言葉を使った後に日和っちゃうのもまた夏樹の可愛いところだよな……。


「今さらだろ。お前には何を言われても傷つかない自信があるし、気にすんな」


「そっか。はい、あーん」

 ちょっと酷いことを言い過ぎたかもしれないと反省した夏樹は、甲斐甲斐しく俺の口にオムライスを運んでくれた。


   ※


「痛くない?」


「ん、大丈夫」

 オムライスを食べた後、俺は夏樹に耳かきをして貰っている。

 ミニスカメイド服を着ているし、今日はとことん甘やかして貰うつもりだ。

 耳かきが終わりそうな頃、俺は恐る恐る夏樹に言う。


「な、舐めて貰ったりは……」

 最近、動画投稿サイトで耳舐め音声がおススメ欄に表示された。

 再生数も多いし、コメント欄も絶賛の嵐だったこともあり、興味本位で聞いてみたのだが……。

 いまいち良さがわからずに5分も経たないうちに音声の再生を止めた。

 が、しかし、現実でやって貰ったら違うかもしれない。

 夏樹が遠慮しなくなったこともあり、俺は今まで言えなかったお願いをした。


「……いいよ」


「お、お願いします」

 俺がそう言うと、夏樹は俺の耳を舐め始める。

 くすぐったくて体がびくびくと震えてしまう。

 Sっ気たっぷりな夏樹は、そんな俺の耳をお構いなしに激しく舐めてくる。

 ハッキリと言おう。


 音声で満足してる奴らは馬鹿なんじゃないの?


 そのくらいに現実の耳舐めはとんでもない行為だった。

 だがしかし、ぞくぞくとした感じで気持ち良いが、凄くくすぐったい。

 俺はちょっとだけ休憩をと思い、逃げようとするのだが……。



「にらさないひゃら」



 舌を俺の耳に突っ込んでいることもあり、夏樹は舌足らずに小さな声で『逃がさないから』と口にした。

 そして、より一層と激しく舐めだした。

 舌をとがらせたり、わざと唾液を流し込んで来たと思えば唾液を吸ったり、耳たぶを唇ではむはむとしたり、ありとあらゆる手法を使って俺の耳を責めてくる。

 動画投稿サイトが健全とは言えないがR18指定されるような行為ではないはずなのに、淫らな行為だと勘違いして広告を剥がしたり、動画を削除したりしてしまうのも納得できる。

 なんて考えている俺の余裕を夏樹は見抜いたのだろう。

 より一層と激しく責めてくる。


「ちょっっ、夏樹。やめっ……て、く……れ」

 俺はあまりのくすぐったさに体をくねらせ抵抗した。

 すると、夏樹は昨日は俺を責め過ぎた反省もあるのだろう。

 耳を舐めるのをやめてくれた。


「んっ、じゅるっ……。ごめん」

 汚れた口元を拭った後、ミニスカメイド服を着ている夏樹は物欲しそうな目でボソッと言う。


「……して」


「えっと、なんて?」


「……私にもして」

 なんというか、意外な発言に俺は戸惑いを隠せない。

 すると、夏樹は頬を赤らめながら俺に言った。


「なんか気持ちよさそうだし……」

 されるのを期待しているカノジョ。

 俺は恐る恐る、夏樹の耳を俺は舐めた。

 すると、くすぐったそうな震えた声をあげる。


「んっ、あっ、そこっ……んっ~~~!!!」

 あまりにも凄い反応をしたので、俺は耳を舐めるのをやめてしまう。

 すると、夏樹が俺の袖を引っ張りながら甘えた声を出す。




「もっとして?」




 責めるのが苦手な俺でも、こんな風に甘えられたら逆らえるわけがなかった。

 





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