第21話修羅場
サウナデートをした日から2日後の夜。
珍しく俺の部屋のインターホンが鳴った。
夏樹は合鍵を持っているし、鳴らして部屋に入ってくることはない。
母さんはこの前に様子を見に来たばかりだしな……。
どうせ、セールスマンか変な勧誘だろうと思いながらインターホンについているカメラの映像を確認した。
――
そう、インターホンを押したのは……、
母さんの再婚相手の連れ子である理沙ちゃんだった。
珍しい来客なので、何かヤバいことでもあったのだろうか? と思いながら俺はドアを開けた。
「あ、お
礼儀正しくぺこりと頭を下げて挨拶をする理沙ちゃん。
血の繋がらない妹ということもあり、俺と顔は全然似ていない。
今年に高校1年生になったばかりで、髪型は綺麗な黒髪ロングで、あどけなさが残っているものの凄く可愛い顔をしているし、夏樹とは比べたら可哀そうになるくらい大きい胸をお持ちである。
母さんもお義父さんも、思春期だから一緒に住むのは気まずいだろ? と言って、俺を一人暮らしさせることにしたと言っていたが……。
理沙ちゃんが物凄く可愛いしスタイルが凄く良いということもあり、俺が悪さするかもしれないという不安もきっとあったに違いない。
義妹とはいうものの、ほとんど他人なスタイル抜群な可愛い女の子がいきなり部屋を訪れた。
そりゃまぁ……。
「あ、ああ。ひ、久しぶり……」
ビビり散らかすに決まっている。
さっきから、妙な震えが止まらないんだが?
「あの、お義兄さん。お願いがあって来たのですがぁ……」
「な、なんだ?」
「今日、泊めてください!」
ペコっと頭を下げながら、理沙ちゃんは言った。
泊めて欲しいのならしょうがないと言えるわけもない。
取り敢えず、俺は冷静に理沙ちゃんの事情を聞くことにした。
「外はまだ暑いし、ひとまず部屋にあがるか?」
「あっ、はいっ!」
今の時刻は22時を過ぎているとはいえ、今日は熱帯夜。
まだまだ外は熱いので、
理沙ちゃんは部屋に入るや否や、物珍しそうに俺の部屋を見ている。
そんな理沙ちゃんに適当に座っていいよと言うと、理沙ちゃんは俺の部屋でちょこんと縮こまるように座った。
さてと、ひとまずは……。
「んじゃ、母さんと
いきなり、『今日、泊めてください!』ってセリフが出てくる時点で、家出していて、親と連絡を取ってない非行少女感が半端ないからな……。
もし、本当に理沙ちゃんが家出していたとしたら、俺の義理の父である
というわけで、俺がすべきはまずは母さんと
スマホを取り出し、母さんに電話を掛けようとしたら、
「そ、それだけは!」
ちょこんと座っていた理沙ちゃんが立ち上がり、俺が持つスマホを奪おうとする。
「その様子的に、誰にも言わずに俺の部屋に来たんだな」
「……」
理沙ちゃんは俯いて黙ってしまった。
さてと、このままだと俺が母さんと
で、消息不明になられたら困ったもんだ。
「わかった。わかった。電話しないから」
ま、メッセージは送るけど。
俺が電話しないと言ったら、ぱぁっと明るい顔をする理沙ちゃん。
無邪気過ぎて、悪い人に騙されないかちょっと心配になっちゃうんだけど……。
俺はスマホで母さんにメッセージを送りながら、理沙ちゃんに詳しい話を聞く。
「で、家出の理由は?」
「い、家出じゃないですよ。た、ただちょっと家に居たくないだけです……」
人はそれを家出と呼ぶんだぞ?
なんて思いながら、俺は理沙ちゃんが家出した理由を問い詰めていく。
「んじゃ、家に居たくなくなった理由を教えてくれ」
「高校1年生になったのにお父さんが厳しくて……」
「具体的には?」
「門限が19時なんです!」
「……まじか」
さすがに、今時にそれはかなり厳しすぎると思うぞ?
「きょ、今日は門限を破ってさっきまで遊んでたんです。でも、鬼のように着信履歴があって……」
「怒られるから帰りたくないと」
「そういうことです……」
とまあ、今聞いた話を俺は全て母さんにメッセージで送った。
で、理沙ちゃんが抱えている不満を聞いてあげていると……。
母さんからメッセージが届いた。
『ひとまず、無事でよかったわ。私からもさすがに19時門限は早すぎるって紀明さんに言ってるんだけどねぇ……。また、しっかりと相談してみるわ』
うん、マジで叱ってやってくれ。
さすがに、19時の門限は理沙ちゃんが可哀そうすぎる。
そして、俺は今日のこれからについてを母さんにメッセージで聞いた。
『で、今日はどうする? 理沙ちゃんを家に送った方がいい?』
すぐに母さんから返事が来た。
『今からそっちに迎えに行くわ』
ま、さすがに俺の部屋に泊めてあげるわけにもいかないわな。
スマホに夢中になっていたら、理沙ちゃんが俺を見る。
「もしかして、お父さんに連絡してませんか?」
「ん、お義父さんにはしてないから安心しろ」
俺は間違ったことは言っていない。
母さんに連絡しているだけで、別にお義父さんには連絡をしていない。
「怪しいです……」
「いやいや、返事をすぐに返さないとキレる彼女がいてな……」
怪しまれたので適当な理由をでっちあげた。
そして、俺は夏樹とのやり取りの中でも、夏樹が色々とやきもきしていた時期に俺へと送って来たメッセージの一部を理沙ちゃんに見せた。
なつき『暇?』
なつき『暇でしょ?』
なつき『返事は?』
なつき『ねえ、既読ついてる』
なつき『……あのさ』
なつき『もしかして浮気してる?』
とまあ、夏樹との過去のあれなやり取りを見せた。
そしたら、コロッと理沙ちゃんは騙された。
「なんか疑ってすみません」
「いや、気にしないでいい。にしても、よく俺の部屋の場所を知ってたな」
「緊急連絡先として教えて貰ったんですよ」
「なるほど。一応、家族だもんな」
「そういうことです」
「そういや、高校はどうなんだ?」
理沙ちゃんを迎えに母さんが来るまでの間、せっかくなので俺は雑談をすることにした。
別のところに住んでいるとはいえ、家族になったからにはこれから先は嫌でも関わらなくちゃいけない。
まだまだ義理の兄妹になってからは日が浅い。
互いの理解を深めておくことには越したことはない。
「勉強が難しいです……」
「勉強なら母さんに教えて貰えばいい。頭いいから何でもわかるぞ?」
「そうなんですね」
「というか、母さんとは上手くやれてるのか?」
「えっと、お父さんよりも優しくて好きです……」
理沙ちゃんは、綺麗な長い黒髪ロングの髪の毛をくるくると指で弄りながら、照れた感じで言った。
うん、上手くやれてるみたいで何よりだな。
「ま、母さんも娘ができて嬉しいみたいでさ、もっと仲良くなりたい~って言ってるから何でも頼ってあげてくれ」
それから、急にやってきた理沙ちゃんと色々と世間話をしていたら……
「ハロー、理沙ちゃん。帰るわよ?」
連絡して、1時間30分ほどで母さんが理沙ちゃんを迎えに来た。
理沙ちゃんは恨めしそうな目で俺を見る。
「やっぱり連絡してたんじゃないですか……」
「誰も、母さんに連絡はしてないと言ってないからな。ほら、帰った帰った。母さんに門限に厳しい紀明さんを叱って貰うように頼んであるから」
「そうよ。今日という今日はあの人にしっかりと分からせなくちゃ……。今時は19時門限は早すぎ! 厳しくし過ぎると逆にグレちゃうわよ? ってね?」
母さんは心強い味方だと理沙ちゃんへアピールする。
その甲斐あってか、理沙ちゃんはおどおどしながら母さんに聞いた。
「えっと、お父さんから守ってくれるんですか?」
「もちのろんよ! 理沙ちゃんは私の可愛い娘だもの。さ、帰りましょ?」
母さんはそう言って理沙ちゃんの手を握った。
理沙ちゃんはというと、お父さんへの切り札を手に入れたこともあり、素直に今日は家に帰る気になったようだ。
「……お義兄さん。今日は帰ります。急に来てすみませんでした」
「義理とはいえ妹だからな。また何かあったら遠慮なく頼ってくれ」
「はいっ! それじゃあ、お邪魔しました」
無事に理沙ちゃんは、迎えに来た母さんと家に帰っていった。
※
理沙ちゃんの襲来があってから1時間後。
時間にして23時を過ぎた頃のことだ。
今日も今日とて、ほぼ俺の部屋に住んでいる夏樹が俺の部屋にやってきた。
「ただいま」
「ん、お帰り。飲み会はどうだった?」
夏樹から今日はバイト仲間が送別会を開いてくれると聞かされていたので、俺はそのことについて聞いてみた。
「楽しかったよ」
「それはよかった」
「なんか色々貰っちゃった」
夏樹は座って手に持っていた袋から色々と取り出す。
筆記用具、石鹸、メモ帳、などなど。いくらあっても困らないようなものだ。
バイト仲間といえど、辞める時にこんな風にプレゼントをくれるということは、夏樹が周りから相当に好かれていたのがわかる。
「良かったな」
「まあね」
どこか照れたように夏樹は笑った。
そして、疲れているのか、ぺたんとカーペットに寝転んだ。
「ほらほら、くつろぐ前にシャワーを浴びて来い」
「めんど……、んっ……?」
床に寝そべった夏樹は何か不思議そうな声をあげた。
かとおもいきや、急に立ち上がる。
そして、俺の後ろに回った。
「急にどうしたんだよ」
と言ったときだ。
夏樹は背後から俺に抱き着いてくる。
そして、耳元で俺の油断を誘うかのように甘く囁いた。
『ちょっと恥ずかしいから湊に目隠しをしていい?』
「あ、ああ?」
俺はどういうことか分からず、やや呆気に取られた感じで返事をした。
すると、夏樹はタオルで俺の目を覆い隠した。
何をされるんだろ……。
意味の分からない状況にビビっていたときである。
夏樹が俺の手をひも状の何かで縛ってきた。
「……あの、夏樹さん? 何をしてるんでしょうか?」
「……」
俺の質問に夏樹は答えない。
そして、気が付けば手を縛られた後、足も縛られてしまった。
何が起きてるんだ!? と焦る中、夏樹は俺の目隠しを取った。
俺の目の前にいたのは――
冷ややかな目をしている夏樹だった。
そんな彼女は、かつてないほどに蔑んだような声音で俺に言った。
「ねえ、この毛って誰の?」
夏樹は絶対に俺を逃がさないと言わんばかりに手足を縛られて動けなくなった俺を踏みつけながら、
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