第20話何でも試したいお年頃な4年目の彼女
今日はサウナデートの日。
俺達がやって来たのは、今流行りの貸し切りで使用できる個室サウナ。
値段はまぁまぁするものの、デートだと思えば払えなくもない金額だ。
お店のカウンターで予約している者ですと言って手続きを済ませると、店員さんによる説明が始まった。
「初回ご利用の方に当サウナ施設のご利用方法と注意点をご説明をさせていただいております。5分ほど、お時間を頂きますがこの時間は貸し出し時間に含まれておりませんのでご安心ください」
で、5分ほど話を聞いた。
大まかにまとめるとこうだ。
・サウナ内では水着を着用
・著しく部屋を汚す行為の禁止
・サウナ内にドリンクの持ち込みは禁止※飲むならサウナの外
・サウナの温度調整は店員に必ず言って変更すること※自分で温度を弄るのはNG
・アロマオイルの使用禁止
・体調不良を感じたら即座にサウナの利用をやめること
ざっくりと纏めてみたが、店員さんは本当に当たり前のことしか言っていない。
それがまぁ……、サウナブームによるモラルの悪い客の増加に困っているんだろうなぁという事情がなんとなく物語っていた。
うん、迷惑客のようにならないように俺は気を付けよう……。
「説明は以上になります。それでは、ごゆっくりおくつろぎください」
「行こっか」
夏樹に手を引かれてサウナと、その他もろもろが揃った個室へ。
部屋の構成はサウナ室、水風呂、リクライニングチェア、シャワールーム、更衣室、といったものがコンパクトにまとまっている感じだ。
確かにこの設備なら90分の貸し出しであの値段はするのはおかしくない。
「中々にいい部屋だな」
「……先に着替えてくる」
夏樹はそう言って貸し切った個室内に設けられている更衣室へ。
で、ものの数分で夏樹は着替えを終えて――
夏樹は胸元にフリルのついた黒いセクシーなビキニ姿で俺の前に現れた。
レンタル水着にするか? と話していたものの『他人が着た水着を着るのはなんか嫌だ』とのことで水着は持参したわけだ。
「その水着って本当に可愛いよな」
陰キャである俺は夏樹に何度も怒られている。
褒めろ、ひとまずは褒めろと。
気が付けば咄嗟に、水着姿の夏樹を可愛いと褒め称えていた。
「はいはい」
「んじゃ、俺も着替えてくる」
更衣室に入りパッと着替えようとする。
男なんて脱いで履くだけ。
俺は家から持参した水着に着替えようとしたのだが……。
「夏樹さん?」
俺は更衣室から顔だけを出して夏樹を見た。
だって、だってさぁ……。
俺のカバンに入っていた水着がいつの間にか違うモノになっていたのだから。
そう、膝丈上くらいまでのサーフパンツじゃなくて、ぴっちりとした膝丈上まであるハーフスパッツの競泳水着にすり替えられていたのだから。
「水着ボロボロだったし、おススメのヤツを買っといた」
クールな感じであたかも当たり前のように夏樹は言った。
俺の水着がボロボロになって来ていたのは事実だ。
しかし、ボロボロになっていたというのは本音じゃなくて建て前。
付き合って4年目ともなれば、何となく夏樹の真意に辿り着くことができる。
「俺と一緒にトレーニング用のプールに泳ぎに行きたいなら素直に言えばいいのに」
そう、夏樹はきっと俺と一緒にプールへ行きたいのだ。
遊ぶためのじゃなくて、鍛えるための方に。
「違うし」
「いや、サーフパンツだとトレーニング用のプールだと浮くから、わざわざ俺に新しい競泳水着を買ったんだろ?」
「……早く着替えたら?」
素っ気ない彼女は照れ隠しで俺を急かす。
なんというか、あれだ。ほんと、わかりやすいよな。
俺はトレーニング用のプールで泳ぐのにはうってつけな、ハーフスパッツタイプの競泳水着を着こんだ。
で、更衣室から出ると夏樹は俺をジーッと見つめてくる。
「な、なんだよ?」
「いや、下手にだるんだるんなサーフパンツよりも、そっちの方がシルエットがしっかりしてて格好いい……って」
「あー、確かにな。昔はこういうのって小馬鹿にされてたけど、最近はこういう泳ぎに特化してそうな競泳水着も結構人気あるよな」
「たださ……」
夏樹が急に近づいて来て、俺の水着の中に手を突っ込んで股間を弄ってきた。
「こ、ここはそういう行為をするお店じゃないぞ……」
「はぁ……、いいからちょっと動かないで」
呆れた顔で夏樹は俺の股間をまさぐってくる。
だが、すぐに夏樹の手は止まった。
「な、なんだったんだ?」
「アソコのポジションがちょっと変だったから直してあげただけ」
俺は下腹部を見た。
さっきよりもブツの収まりはいい気がするし、見た目も心なしか綺麗になった気がする。
などと感心していたら、夏樹は俺の脇腹を軽くつねってくる。
「ほら、そろそろ行くよ?」
「いや、その前にシャワーだろ」
マナーとしてサウナに入る前は体を綺麗にしておくべきだ。
というわけで、俺と夏樹は部屋に備え付けのシャワールームで体を洗い流した。
とうとう、俺達はサウナへと挑戦する。
「入ろっか……」
夏樹に手を引かれ、俺は熱気溢れるサウナ室の中へ入った。
俺はすぐに感じたことを口にしてしまう。
「……あっつ」
「こんなもんでしょ」
強がりな夏樹はそう言って、サウナ室にあるベンチ? にタオルを敷いて座った。
俺もマネするように夏樹の横へ座った。
サウナ内では静かに楽しむのもありとネット記事に書いてあったので、ひとまず俺達は黙って熱気に身を任せた。
サウナに入ってから1分も経たないうちに体中から汗が噴き出し始める。
俺と夏樹は二人して汗だくになりながら、暑さに耐えて耐えて耐え続けた。
そして、5~6分後が経過。
俺達は熱さから逃げるようにサウナ室から出た。
そして、軽くかけ湯というか掛け水をして、俺達は水風呂に入った。
「……さっむい。な、夏樹は平気か?」
「こ、こ、このくらい平気でしょ……」
「み、水風呂は1~2分だっけ……」
俺と夏樹は水風呂になれていないからか、ガタガタと体を震わせる。
とはいえ、サウナに来たからには満喫したい。
すぐに水風呂から出たいという気持ちを抑え込んで、俺達は目安とされている1、2分を耐え抜いた。
「よしっ、もういいだろ」
「……手、貸して」
「大丈夫か?」
俺は小鹿みたいにぷるぷるとしている夏樹の手を引いた。
「へ、平気……」
強がる夏樹は弱々しい足取りで、部屋にある外気浴のために用意されているリクライニングチェアへ寝転んだ。
俺も同じように寝転んでボーっとし始めた。
3分ぐらいリクライニングチェアで休んだ後、俺は夏樹に聞いた。
「サウナの良さってわかったか?」
「……微妙。そっちは?」
「全然わかんない」
「とりあえず、そろそろ2セット目行こっか……」
「サウナに来たんだからな。今日はとことん味わってやる……」
安くないお金を支払っている。
良さが実感できないまま終わりたくない。
俺と夏樹はサウナ、水風呂、外気浴、の工程を繰り返していく。
そして、その時は訪れた。
3セット目のリクライニングチェアで休んでいるときのことだ。
「整うって実在したんだな」
俺は得も言われぬ気持ち良さを実感していた。
さっきまではボーっとしていた頭も、今は妙にスッキリしている。
俺と同じように夏樹も気持ち良さを実感しているようで……。
「これいいかも……」
どうやら、ちゃんと気持ち良さを実感できているらしい。
そんな彼女に顔を向けて俺は笑いかけた。
「サウナって悪くないな」
「所詮サウナなんて……って思ってたけど、何事も試すのってほんと大事……」
「ああ、何事もまずは挑戦してみるもんだな……」
二人して未知なる快楽を味わった。
この世にはまだまだ知らない気持ちいいコトがたくさんある。
何事も挑戦してみて初めて得られるモノがある。
すると、サウナで整ったことで変に思考がクリアになっている夏樹は、挑戦? してみたいことをボソッと口にする。
「……今度ヤる時さ、湊の手足を縛るのに挑戦してもいい?」
リクライニングチェアで寝そべっている夏樹は、真顔で俺を見つめてくる。
どうやら、夏樹と一緒にサウナにきたのは失敗だったらしい。
未知なる経験を経て、さらなる未知なる経験を求める探究者と化した夏樹を見て、俺はただただ苦笑いするしかなかった。
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