第18話女の子に無視された彼氏を慰める?4年目の彼女

 夏樹はシたくなってきたから帰ると言い、本当に俺の部屋から帰っていった。

 しかも、お昼ご飯を作っている途中で。

 フライパンの中には、大量のケチャップが和えられた野菜が入っている。


「チキンライス? いや、これはナポリタンだな」

 俺は作りかけで放置されているナポリタンを完成させることにした。

 あらかた、調理が終わっていたこともあり、すぐにナポリタンは完成する。

 お皿にナポリタンをよそって、ローテーブルの前に座り一人で食事を始める。

 そして、すぐに食べ終わる。


 で、食事を終えるとすることが無くなった。


「……寂しい」

 俺はベッドで枕に顔を押し当てながらボソッと呟いた。

 ここ数日間はずっと夏樹と一緒に居た。まるで、一緒に住んでいるかのように。

 今のこの状態こそが普通なはずなのに、どこか落ち着かない。

 夏樹が留学したらこれ以上の寂しさを味わうと思うと辛い。

 まあ、だからと言って『行かないでくれ』なんて言えないし、『俺も行く』だなんてことは言いたくもない。

 どう足掻いても、6ヶ月の間は会えない。

 この事実は絶対にくつがえらないし、くつがえす気もさらさらない。


「はぁ……。考えても意味ないってのにな」

 答えは出ているのに、意味もなくあれやこれやと考える。

 そんな無駄な行為をしてしまう自分に呆れてため息が出た。

 これ以上、意味のない時間を消費したくない俺はベッドから起き上がり、パソコンの前に座って夏樹と一緒に行ったら楽しそうな場所の候補を調べ出す。


「俺の金欠は解決したけど、留学前の夏樹にはあんまりお金を使わせたくないんだよなぁ……」

 よくよく思えば、留学を控えている夏樹はあまりお金を使わない方がいい。

 夏樹の留学先は別に物価なんて安い国じゃないのだから。

 そんな事情を考慮して、夏樹とのデート場所を選んでいた時であった。


「もしもし?」

 同じサークルの先輩から電話が来た。


『あー、今日の夜って予定空いてるか?』


「空いてますけど……」


『飲み会するんだけど来る?』


「なんかヤバい予感がするので止めときます」

 先輩から急に飲み会に誘われる。

 危険な香りがプンプンするんだよな……。

 と、すぐにお断りをしたのだが、先輩は弱腰で頼んできた。


『本当に頼む! 今日の飲み会は合コンなんだよ……。なのに、男側で急に一人来れない奴が出てな……』


「いやいや、それなら猶更無理ですって。俺、彼女いるんですよ?」


「そこをなんとか! 俺が持ってる講義の過去問を全部お前にやるから!」

 何とも魅力的な報酬に俺は生唾を飲みこんだ。

『留学に行くから秋学期に取れる単位はほぼ0。でさ、4年で卒業するためにも、これからは単位をあんまり落とせない。だから、秋学期で湊が受けた講義のテスト問題とか教えてよ?』

 この前、夏樹にこんなことを頼まれた。

 合コンに行く気はなかったが、これは夏樹のために行くべきなのかもしれない。


「あの、先輩ってどんな講義を取ってるんですか?」


『そうだな、えーっと……』

 先輩は今現在と過去に受けていた講義を口にする。

 その中には履修登録者のうち4割が落とすという難しい講義も含まれていた。

 これは行くしかない。

 ……とはいえだ。俺は馬鹿じゃない。


「返答なんですけど……。彼女に、講義の過去問を貰うお礼として、数合わせで合コンに参加しても平気? って聞いてもいいですか?」


『なに、お前の彼女そんな怖いの?』


「……わりと」


『わかった。んじゃ、折り返し電話をくれ』


「それじゃ、また……」

 先輩との通話を終える。

 そして、俺は夏樹に電話を掛けた。

 2年の秋学期の単位がほとんど取れなくなっている夏樹に、合コンに参加したら色んな講義の過去問やノートを貰えると伝えた。


『女の子に触ったり触られたりしたら殺すから』


 かなり怖い冗談が帰ってきたが、合コンに参加することは許してくれた。

 俺は数合わせだ。

 気合なんて入れず、合コンが開催されるおしゃれな居酒屋に向かった。


   ※



夏樹Side



「合コン、終わったのかな?」

 夜の10時頃。

 彼氏である湊から電話が掛かってきた。


「もう無理だ。夏樹、俺を慰めてくれ……」

 夏樹が電話に出るや否や、湊が悲しそうな声で泣きついて来た。

 唐突に慰めてくれと言った理由を知っているのに、夏樹は知らないふりをする。


「合コンで酷い目にでもあった?」


「あからさまに無視されて、マジで辛かった……」

 湊がそう言ったので、夏樹はちょっと笑ってしまう。

 だって、合コンであからさまに無視されたのは……


「ふーん。そうなんだ」

 紛れもなく、自分のせいであるのを知っているのだから。

 湊があからさまに合コンで女の子から無視された真相はこうである。

 夏樹は、湊が参加するであろう合コンに心当たりがあった。

 そう、いつぞやか友達の一人が合コンをすると言っていたのだ。

 夏樹は興味本位で合コンに行くと言っていた友達に連絡をし確認を取った。

 予想は的中だった。

 湊が参加する合コンに、夏樹の友達が参加するのは間違いがないと判明した。

 そして、夏樹は友達に――

 湊って奴は数合わせだから無視してもいいよ。

 と告げ口したのだ。

 結果として、何気にちゃんと恋人を探しに来ていた女子勢から、数合わせで合コンに参加すんな! と湊は総スカンを食らったわけである。


「気が付いたら、俺はずっとフライドポテト食べてた……」


「ぷっ、なにそれ」


「いや、だって誰も話してくれないし……。食べるしかなくて……」

 結構ガチ目にトラウマを抱えてしまっていそうな湊。

 それに対して、夏樹は負い目を感じていた。

(さすがに可哀かわいそ……。女子から総スカンを食らった理由を教えてあげないとかな……)

 と夏樹は思ったのだが、


「俺、やっぱりお前がいないと無理……。絶対に別れない、お前と結婚する……」

 しかし、夏樹は湊の甘えるような声を聴いて気が変わってしまった。

(かわいい。ネタバラシやめよっかな……)

 女の子に傷つけられたので、彼女である自分に甘えてくる彼氏。

 もし、ネタバラシをしたらきっと『なんだ、そう言うことだったんだな……』と自分に甘えてくるのをやめてしまうかもしれないのだから。


「はいはい」


 今まででにないくらいに、ベタベタと彼氏が甘えてくる。

 それが嬉しくて気持ち良くて心地よい夏樹は、ネタバラシをせずに合コンに参加して傷ついた湊を慰め続けた。

 


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