第15話競泳水着な4年目の彼女

 友達と通話しながら一緒にゲームをする人は増えた。

 俺もその一人で今日は数名の人と通話しながらFPSをする約束をしている。

 待ち合わせ時間に通話アプリを立ち上げ、ゲーム仲間と使っているサーバー内にあるボイスチャンネルに接続した。

 すると、先に待っていた顔をしらないゲーム友達であるサクラさんが俺に話しかけてきた。


「こんちゃ~す」


「どうも。今日もサクラさんが一番乗りですね」


「ニートだからね。そう言えば、ミナっちは夏休みはどこか行ったん?」

 俺をミナっちと呼ぶサクラさんが、ゲーム友達が全員集まるまでの暇を潰すための話題を俺に振ってくる。


「あー、ゼミ合宿に行きました」

 ミナっちと俺を呼ぶサクラさんに答えた。


「へー、ゼミ合宿かぁ……。で、他には?」


「後はこれからって感じです。サクラさんは?」


「夏と言えば開放的な季節だし、水着の女の子を私は見に行く予定かな~」

 顔が見えないゲーム友達相手との通話。

 どうせ会うこともない相手なこともあり、割とな発言をする人が多い。特にサクラさんはそんな典型的な例だ。

 

「楽しそうっすね」


「なんなら一緒に水着女子を拝みに行くかい?」


「あー、遠慮します」


「なんか、今日のミナくんってノリわる~~~」

 などと言われるも、そりゃあそうだ。

 今現在、俺の部屋には夏樹が居るのだから。

 イヤホンマイクを使っているのでサクラさんの声は夏樹には聞こえてないだろうが、俺の発言は筒抜けだ。

 変な事を言おうものなら、即座に夏樹の蹴りが飛んで来てもおかしくない。


「いやー、気のせいだろ」


「怪しい~。にしても、まだ他の人が来ないか~」

 他の奴らが来ない。まあ、所詮はゲーム友達だ。

 待ち合わせ時間なんて、普通に破っても怖くはないわけで……。

 時間通りに集まる方が珍しいくらいだ。


「まあ、適当に話しながら待ちましょ」


「あいよ~。んでんで、夏と言えばやっぱり水着だけどさ、ミナっちはどんな水着が好み? ちなみに私はヒモだね」

 顔の知らない相手だからか、サクラさんは怖いもの知らずだ。

 さてと、俺も答えを返したいところだが……。

 PCモニターの黒いふちには、海外留学に向けて事前学習を進めている夏樹が反射している。

 うん、迂闊な発言は不味いよな……。


「普通のが一番好きだ」


「いや、普通のってなんだよう!」


「だから、普通のだって」


「なるほどね。ミナっちはピッチリな競泳水着が好みと」

 サクラさんの発言と同時に、別のゲーム友達である、ゴリさんがボイスチャットに参加して来た。


「なるほどなぁ、ミナはピッチリな競泳水着が好きなのか」


「いや、違うから」

 俺はゴリさんに慌てて否定を入れた。


「んで、二人は何の話をしてたんだ」

 ゴリさんが俺達に聞いてくる。

 すると、サクラさんが答える。


「好きな水着のタイプについて話してた」


「へー、ちなみに俺は黒ビキニだな」


「わー、わかる~。シンプルにエロくていいよね……」


「だろ?」

 話はどんどん盛り上がっていく。

 サクラさんは、水着は『普通のが好き』と言った俺をからかってくる。


「にしても、ミナっちはピッチリな競泳水着が好みなんてフェチ強めだね~」


「いや、俺は普通って言っただろ」


「私の普通は『ピッチリな競泳水着』だから」

 いくら何でも、夏樹が居るから迂闊な発言をしまいと気にし過ぎたな。

 雑にビキニとでも答えておけばよかったと後悔する。

 そして、一向に今日一緒に遊ぶゲーム友達は集まらないこともあり、水着の話題はどんどん膨らんでいった。

 しまいには、サクラさんは画面共有機能を使い……


「この画像の中だと、ミナっちが好きな競泳水着ってどんなん?」

 勝手に競泳水着好きに仕立て上げられた俺は好みを問い詰められる。


「だから、そもそも好きじゃないから」


「うそつけ~。ほれ、これなんてエロくていいと思うよ?」

 サクラさんは、とんでもなく股の部分が深くカットされているハイレグな競泳水着の写真を画面共有で俺に見せてきた。

 それと同時だった。

 背後から夏樹が軽く抱き着いて来た。

 夏樹は、俺のゲームしているところをたまに覗きにくることがある。

 まさかこのタイミングとは……。

 俺の体から一気に変な汗が噴き出た。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「いってら~」

 サクラさんに見送られながら、俺はマイクをミュートにした。

 ミュートするや否や、後ろから急に抱き着いてきた夏樹に話しかける。


「きゅ、急にどうした?」


「何してるのかなって。で、なんで競泳水着の画像を見てたの?」


「水着の話をしててさ、ゲーム友達のサクラさんに、こんな水着が好きでしょ? ってからかわれてた」

 きわどい競泳水着を着たお姉さんの画像を見ているところを夏樹に目撃されたので冷汗をかいたが、俺がしていたことはよくよく思えば別にやましいことではない。

 焦る気持ちはどんどん落ち着いていく。


「そっか」

 後ろから抱き着いて来た夏樹は、そっと俺から離れていく。

 さてと、マイクのミュートを解除してっと。


「悪いな。お待たせ」

 トイレから戻ってきた風に会話に参加する。

 俺がミュートしていた間に来ていなかった残りのメンバーもボイスチャットにやって来ていた。

 そして、俺は5人がフルパーティーな大人気FPSを始めた。


   ※


「ふぅ……」

 ゲームを終えた俺は安物のゲーミングチェアから立ち上がった。

 ふと、ローテーブルの方を見ると夏樹がいない。

 あー、そういや『ちょっと用事を思い出したから家に行ってくる』って言って、部屋から出ていったっけ。

 今日は戻って来ないかもな、まあそりゃあ俺の部屋に何連泊もしているしな。

 さすがに、そろそろ家に帰るよな、なんて思っていた俺が馬鹿だった。


「ただいま」

 夏樹は手提げ袋を持って俺の部屋に戻ってきた。


「お帰り。で、何をしに家に戻ってたんだ?」


「別に……」

 夏樹はもじもじと体を動かしながら、俺に言った。


「どうかしたか?」


「……っっ」 

 夏樹は小さく吐息を漏らし、少し恥ずかしそうな顔で着ていた服を脱ぐ。

 おいおい、いきなり何を……。

 いつもなら、ブラとパンツがお目見えになるのに今日は違った。

 その代わりに見えたものは、ラインが何本か入っているツルツルとした生地で出来ている競泳水着だった。

 夏樹は運動好きなこともあり、たまにプールに泳ぎに行く。

 おそらく、そのときに着ているやつだ。


「どう?」


「いや、どうって言われても……。てか、なんで競泳水着を俺に見せに?」


「さっき見てたから」

 クールで素っ気ないとはいえ、夏樹は彼女。

 可愛らしい彼女の行動を見て俺はどんどん昂ぶっていく。

 だがしかし、夏樹の可愛げのない発言で一気に冷めた。



「昨日ちょっと元気がなかったし、これなら元気も戻るかなって」



 くっ、そんなことだろうと思ったよ。

 きわどい競泳水着のお姉さんの画像に鼻の下を伸ばしている俺を見て、嫉妬して対抗心で競泳水着姿を見せつけにきた。

 そんな可愛げのある行動じゃないってことくらいな。


「てか、あれだ。きょ、今日もなのか?」

 今日で4日連続。もう限界が近い。

 さすがに今日は……と思っていた。

 夏樹は俺の体のある部分をねっとりとした手つきで触ってくる。


「もう、こんな風になってるのに?」


 そ、それはそうだけどさ……。

 でも、無理だ。

 いよいよ、俺を襲う可愛い獣に対して、心を鬼にするときが来たのかもしれない。


「夏樹よ。さすがに無理だ。今日は勘弁してくれ」


「……」

 夏樹は無言で俺を見ながら、競泳水着の股の部分をきゅっと引っ張った。

 さっき俺が見ていた写真と同じくらい凄い食い込みを夏樹は見せつけてくる。

 まるで、俺の気分を煽るかのように。

 こんなの見て我慢できるの? と。


「シないぞ」

 夏樹は俺の手を取る。

 そして、俺の手を競泳水着と肌の隙間に突っ込んだ。

 夏樹の柔らかくて少し熱のこもった肌と競泳水着のつるっとした生地に挟まれる感触は凄くいい。




「……本当にシなくていい?」




 部屋に夏樹のか細い声が響いた。

 くっ、俺は絶対に流されない……と覚悟していたはずだった。

 でも、こんなの卑怯だろ。


「あ、明日は絶対にシないからな!」

 負け惜しみを言うと、悪い顔をした夏樹はねっとりとした手つきで俺に触れてきた。




 

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