第13話やる気まんまんな4年目の彼女
バイトを終えて家に帰っている途中、俺は家にあるトイレットペーパーが少なくなってきたのを思い出した。
夏樹が俺の部屋に入り浸るようになって、本当に減りが早くなった。
そんなことを考えながら、俺は近所にあるドラッグストアへ。
店内に入ると、買い物かごをぶら下げて歩いている夏樹を見つけた。
軽く夏樹の肩を叩くと、ビクンと背中を震わせて俺の方に振り向いた。
「……驚かさないで欲しいんだけど」
「悪いな。で、何を買いに来たんだ」
「あー、あれ」
言い淀んでいる夏樹が持っている買い物かごの中を覗いた。
かごに入っていたのは、
用途があからさま過ぎる中身を、俺に見られた夏樹はぶっきらぼうに答えた。
「さすがにそろそろね……」
お前もよくわかってるだろ? と言わんばかりだ。
毎日のように見てるというか、触ってるので夏樹が何が言いたいかよくわかる。
「ちょっとチクチクしてきたもんな」
「さのさ、そういうこと外で言わないで」
「すみません……」
4年目ともなれば気が緩む。
咄嗟にしてしまったデリカシーのない発言を夏樹に叱られた。
「で、湊は何をしに来たの?」
「トイレットペーパーを買いに来た。後、夏樹にハンドクリームでもあげようかなって。ほら、料理をしてくれてるし」
料理をする人の手は洗剤に触れる時間が長いから荒れやすいと聞きかじった。
夏樹の綺麗な手を守るためにも買ってあげようと思ったわけである。
「……ありがと」
「どういたしまして。ま、あんまり高いのはあげられないけどな」
なんて話ながら、ドラッグストアで出会った夏樹と俺は一緒に店内を歩きだす。
まずはトイレットペーパーが置いてあるコーナーだ。
適当に安いのを選ぼうとしたら、夏樹が俺に聞いて来た。
「ちょっと高いけど、2枚重ねでもいい?」
「ん、いいぞ」
「じゃあ、これで」
夏樹は2枚重ねのトイレットペーパーを棚から取った。
次に俺達が向かったのはハンドクリーム売り場。
4年目ともなれば、互いに気が知れているわけで……。
「何円まで?」
予算をハッキリと聞かれた。
俺はいくらでもいいぞ? と言いたいところだが……。
そんなことを言っても夏樹は返って遠慮して一番安いのを選ぶくらい知っている。
「2000円、いや3000円までなら何とか……」
お高いのをあげてもいいが、そしたら夏休みを遊ぶお金が無くなる。
それを考慮した値段を伝えたら、夏樹は何食わぬ顔でハンドクリームを予算内で選びだす。
で、夏樹は最安値ではないが、それでも低価格帯のやつを手に取った。
「じゃあ、これで」
「それでいいのか?」
「うん。他には何か買う?」
「二人だし持てる量も多いから、ティッシュも買って帰ろう」
「……また、わがまま言っても平気?」
「別にいいけど……」
「じゃあ、柔らかめのティッシュがいい」
「そういや、拭く時に……うぐっ」
硬いティッシュだと、拭く時にちょっと痛いし、引っ付くって言ってたしな。
なんて言おうとしたら、夏樹に腹を殴られた。
「だからさ、外でそういう話はしない」
「……ほんとすみません」
相手に慣れたら慣れたで、デリカシーがなくなり変なことを言う。
つくづく、俺って陰キャなんだなぁ……とか思いながら謝った。
「はぁ……。で、柔らかいの買っていいの?」
「大丈夫だ。てか、あれだな。まるで同棲してるみたいだな」
「いや、実際同棲してるようなもんでしょ」
と言って、ティッシュを手に取った夏樹は歩き出した。
どこに向かうんだろう? なんて思いながら一緒について行く。
辿り着いた場所はカップルが夜に使う大事なモノが売ってある場所だった。
ああ、そういや残りはそんなに無かったっけ。
「これでいっか」
「あの~、夏樹さん? それはさすがに……」
夏樹が選んだのは3箱が一つにまとまっているお徳用だった。
一箱12個入りの3個パックに試供品の新製品が1個付いている。合計すると37個。
夏樹が留学に行くまでは、後1カ月ちょっと。
日数にして、大体40日しかないわけで……、ちょっと過剰な気がする。
いや、ちょっとどころか絶対に過剰だろ……。
「こ、こっちの箱で足りるだろ」
俺は数の少ない方を手に取って夏樹に勧めた。
「全然足りない」
夏樹は頑なにお徳用を離さない。
それどころか、これ以上は俺に何も言わせまいと、俺の持っていたカゴにお徳用のやつを放り込んだ。
「じゃ、私はこっちを買ってくるから」
お手入れ用のあれこれが入ったカゴを手に、夏樹はレジへと向かう。
一人、売り場に残された俺は悩んだ。
お徳用の3個セットのパックを棚に戻して、違うのを買おうかなと。
夏樹はうようよとしている俺に気が付いたのか、レジに向かっている途中で俺のところへ戻って来て……。
「買うの恥ずかしい? なら、私が買ってあげる」
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだよなぁ……。
夏樹は俺の手からパッとお徳用の商品を取り、再びレジへと消えていった。
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