第12話エプロン姿の4年目の彼女
目を擦りながら起きると、いい匂いが俺の鼻をくすぐった。
俺は匂いに釣られてキッチンへと向かう。
「おはよう」
キッチンで俺におはようと言ったのは夏樹だ。
いい匂いの正体は夏樹が料理をしていたから。
しかも、夏樹はいつもはしていないエプロンをしていた。
「そのエプロンはどこから盗んできたんだ?」
「盗んでない。普通に家にあったのを持ってきただけ」
俺は夏樹のしているエプロンに改めて目を向けた。
色は白でフリフリが付いていて、わりと可愛目なデザインをしている。
「で、どう?」
「あー、あれだ。夏樹のいつもと違う姿が見れてめっちゃ嬉しい」
「そっか」
「ちなみに、裸エプロンだったらさらに良かったぞ」
お馬鹿なことを言ったら、夏樹は冷ややかな目で俺を見る。
「……裸エプロンになれってこと?」
「いや、冗談」
裸エプロンなんて恥ずかしいからしたくないと言われるに決まっている。
本当は見せて貰いたいが、冗談だってことに俺はしておいた。
だがしかし、夏樹は口元を手で隠しながらぼそぼそと俺に言った。
「……してもいいけど」
「な、なんか変な物でも食ったか?」
「食べてない。ほら、あれ、最近、ちょっとイジメすぎてるし……」
だマジでそう思うと俺は頷いた。
合宿が終わった日の夜なんて、夏樹にイジメられすぎて俺はちょっと情けない声をあげてしまったくらいだ。
「持ちつ持たれつか……」
相手から一方的に搾取するだけの関係は軋轢を生む。
それが分かっているからこそ、夏樹は俺の裸エプロンが見たいという欲求に応えてくれようとしてくれているわけだ。
「で、あれ。裸エプロン見たいの?」
俺は唾をごくりと飲んで無言で頷いた。
夏樹は、ふぅと軽く呼吸を落ち着かせてから服を脱ぎはじめる。柄にでもないことをしていることもあり、頬は少し赤くて脱ぐ動作もぎこちない。
そんな彼女が可愛いくて俺はニヤニヤが止まらない。
そして、夏樹はフリルの付いたエプロンだけを身に纏った。
「満足?」
夏樹の姿をよく見る。エプロンだけでそれ以外は何も着ていない。
胸元と脇と太股が大胆に晒されていて、非常に男心をくすぐってくる。
「後ろ姿は……」
「はいはい」
夏樹は後ろを向いてくれる。
正面は布地でそこそこガードされていたが、背面は全然違った。
シミ一つない綺麗な背中と、キュッと引き締まったいい形をしたお尻が丸見えだ。
「なんか、あれだ。性格的に裸エプロンなんてしてくれないよな~って思ってたから感動が凄い」
気が付けば、俺は手を合わせて夏樹を拝んでしまった。
「何してんの?」
「クールで素っ気ない彼女の裸エプロン姿なんて滅多に見れないからな……。ほら、
「ヘンタイ……」
夏樹は冷ややかな目で俺を見てくる。
そんな目をするほどか?
ちょっとムカついたので、俺は夏樹にカウンターを放った。
「彼氏の情けなくて苦しそうな姿がみたくて、執拗以上に責めるお前も大概だろ」
「…………」
ぐうの音もでない正論に夏樹は黙った。
そして、何事もなかったかのように裸エプロンのまま料理を再開する。
「で、夏樹はさっきから何を作ってんだ?」
「フレンチトースト」
ああ、確かに言われてみればフレンチトーストだな。
フライパンの中にある黄色く染まったパンを見て俺は納得した。
「へー、美味しそうだな」
「……いつまで私の後ろに居る気?」
「料理が終わるまで」
クールで素っ気ない彼女の裸エプロン姿に俺は釘付けである。
※
「「いただきます」」
二人していただきますと言って朝ご飯を食べ始める。
夏樹が作ってくれたフレンチトーストを齧ると、ふわふわとろとろな食感が口いっぱいに広がった。
「めっちゃ美味しい」
「大袈裟だから」
「いやいや、本当に美味いって」
「はいはい。てかさ、昨日、同じシフトに入ってたバイト先の先輩がマジであれで気持ち悪かった」
俺にやたらと褒められるのがこそばゆかったのか、夏樹は話題を変えてくる。
ほんと、こういうとこ可愛いよなぁと思う。
「なんかあったのか?」
「ほら、留学に行くからバイトをやめるでしょ?」
と言われた時点で俺は察した。
夏樹は可愛いし、男なら誰もがお近づきになりたいような子である。
「わかった。お別れ会的なあれで一緒にご飯いこ? ってか?」
「そそ。でさ、私が他のバイト仲間も誘ったの? って聞いたら、誘ってないって言われて、本当に鳥肌が止まらなかった」
「……まあ、夏樹は可愛いからしょうがない。てか、海外に行ったらマジで気を付けろよ? 日本よりも治安が悪いんだからさ」
今でさえ男から狙われやすい夏樹。
海外に行こうものなら、もっとナンパされるかもしれない。
変な奴に絡まれないようにと心配をしたら……。
「そんなに心配なら一緒に来たら?」
「いやいや、さすがに無理だ」
「……だよね」
しゅんとした顔で夏樹は答えた。
半年間は離れ離れになるのは覆らないのを、改めて実感すれば落ち込んでしまうのも無理もない。
「言っておくが、仮に一緒に留学できたとしても絶対にしないと思うぞ?」
「なんで?」
圧強めに夏樹は俺に聞いて来た。
待て待て、別にお前と一緒に居たくないからじゃないっての……。
私のことがやっぱり好きじゃないの? と威圧してくる彼女を俺は宥める。
「せっかくの語学留学なのに、身近なやつが横に居たら成長の邪魔だろ」
「……たしかに」
「会えないのは寂しいけどさ、お前には夢を叶えて欲しい」
胸を張って夏樹の夢を応援していると告げた。
「そっか……。というか、湊は将来はどうするの?」
「お前に養って貰う」
別にこれといった夢のない俺は、何とも情けないことを言ってお茶を濁した。
もちろん今のは冗談で、俺は大学を卒業したら給料が良くて楽なところで普通に働くつもりではある。
それだというのに、夏樹はというと、
「わかった。お小遣いは最低5万円くらいあげられるように頑張る」
俺を養ってみせるという気概を見せつけてきた。
最近、夏樹に冗談が通じなくなってきてるのは、き、気のせいだよな?
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