第10話ダブルサイズのベッドをねだった4年目の彼女
部屋の外はもう明るくなっている。
俺の部屋が防音対策がしっかりとした鉄筋コンクリート造に加え、遮音性の高い窓、遮音カーテン、角部屋であったことを今日ばかりは恨んだ。
「水くれ……。干からびてしぬ……」
枯れ果てた俺は冷蔵庫にペットボトルの水を取りに行って欲しいと夏樹に頼んだ。
眠気でめがとろんとしている夏樹は冷蔵庫から水を取り出して俺にくれる。
夏樹はペットボトルを俺の方に向けながら申し訳なさそうに言う。
「ごめん。さすがにヤリ過ぎた」
やり過ぎた自覚はあるらしい。
4年目の彼女に格好つける必要がないことを俺は知っている。
夏樹から受け取った水でのどを潤した後、俺は夏樹の方を見た。
「ま、気持ち良かったからいいけどさ」
キツかったけど、それでもまあ悪くはなかった。
毎日はやりたくないけど、たまにならこういうのもいいって感じだ。
「……そっか。なら良かった」
「ただまぁ、やられっぱなしってのもなぁ……」
攻守逆転もしてみたい。
そんなことを口走ったら、夏樹は呆れた声で俺に言った。
「私がヤメてって言ったら、ヤメるのはそっちでしょ」
「……はい、すみません。にしても、もう朝か」
アドレナリンが出ていることもあり、気怠さこそあれど眠気は感じない。
でも、疲れているのは間違いないので目を閉じて寝ようと思ったら、すぐに意識は落ちてしまうと思われる。
「朝だけど寝る?」
「ああ、寝る」
「じゃあ私も寝よ」
俺と夏樹はベッドに敷いていた湿ったバスタオルを片付けて眠りについた。
※
なつきに朝までコテンパンにされた俺の目が覚めたのはお昼を過ぎたころだった。
責める側で消耗が軽かった夏樹はというと、すでに起きていた。
しかも、どうやら家をでてコンビニに行っていたらしい。
「昼ごはん食べるでしょ?」
「食べる。めっちゃ腹減ってる」
「凄くカロリー使ったしね」
「まあな」
二人でご飯を食べ始める。おにぎりを齧り、眠気覚ましにコーヒを飲んだ。
そして、腹ごしらえを済ませた俺は夏樹に告げる。
「俺はこれから金を調達してくる」
「……どうして?」
「お前が留学に行く前にもうちょっと遊びたい。バイト代が入るのはもうちょっと後だしな……。だから、母さんから金を借りてくる」
夏樹が留学に行くとしても、俺は別れる気はない。
けど、俺の気持ちは離れることはないかもしれないが、半年もあれば夏樹の方が俺から気持ちが離れてしまい、向こうから別れて? なんて言われるかもしれない。
もしかしたら、夏樹と恋人で居られるのは本当にこの夏まで。
それを考えたとき、夏樹との思い出をつくらないという選択肢はない。
「金欠って私がわがまま言わなかったら、まだマシだった感じ?」
「まあ、ダブルサイズのベッドは買って正解だっただろ」
そう、俺は家庭の事情で夏休みのちょっと前から一人暮らしを始めた。
もちろん、それなりに母さんから支度金は貰った。
家具にはそこまで拘りがなく、貰ったお金で全てを賄えるはずだった。
でも、ベッドを選んでいた俺に夏樹がこういったのだ。
『シングルかセミダブルだと動きにくいしダブルサイズの方がいい。あと、ギシギシ音がするのも嫌……』と。
確かにと納得した俺は高性能なダブルサイズのベッドを買ったわけだ。
これが金欠になってしまった本当の理由である。
「てか、本当にお金借りられるの?」
「全然平気だ」
俺の母親は数年前まで海外で働いていたバリバリのエリート。
毎年のようにふるさと納税の返礼品が凄い量が届いているし、専用の冷凍庫が家にあるくらい。
そんな人が稼いでいないわけがないのだ。
「実家が太いのは羨ましいね」
「お前の家も大概だろ……」
前に夏樹の家に遊びに行ったことがあるが、都内なのにめっちゃデカい家だった。
ちょっと気になり夏樹の家がある周辺の土地相場を調べてしまい、気絶しそうになったくらいである。
「まあね」
「というわけで、金を借りるためにこれから実家に行ってくる」
「りょうかい。ただまあ、本当に無理しなくていいから」
彼女とイチャイチャするために親に金をせびる。
そんなクズみたいなことをする必要はないと夏樹は言うが……。
『夏に遊びに行けないのは残念だけど、代わりに湊とたくさんデキるからいい』なんてことを夏樹は夜の情事中に口走っていた。
そう、このままいけば俺は毎日のように夏樹に絞られてしまい、本当に死んじゃうかもしれない。
さらに、俺は親からお金を借りてでもお金を確保しようと思ったもう一つのワケを話した。
「いや、母さんが『あんたは糞陰キャなんだから夏樹ちゃんは絶対に逃がしちゃだめよ? いい、絶対に逃がしちゃだめよ? 』ってうるさいからな。普通に夏樹と半年会えなくなるから、遊びに行くための金を貸してくれって言ったら、喜んで貸してくれると思う」
「なるほどね」
なんて、話していたときだった。
俺の部屋に誰かがやって来た。
インターホンを確認すると、そこには俺の母さんの姿があった。
あー、俺が夏休みの間に一回くらいは様子を見に来るって言ってたな。
「噂をしたらなんとやら、俺の母さんだ」
「あー、帰る?」
と夏樹が言っている間にも、俺の母さんは合鍵を使って俺の部屋に入って来た。
「お邪魔します。って、居るなら早く開けなさいよ。どう元気にしてた?」
「ん、ぼちぼち」
「あら? 夏樹ちゃんがいるじゃないの。こんにちは、いつもうちの馬鹿息子のお世話をありがとね?」
部屋にいた夏樹に気が付いた母さんは普通に挨拶をした。
「いえ、気にしないでください。今日は何をしに来たんですか?」
「夏のボーナスが思った以上に貰えたから、息子にお小遣いをあげようと思ってね」
母さんはカバンから封筒を取り出し、俺に渡してくる。
中身をちょろっと確認すると、そこには少なくとも数枚の諭吉さんがいた。
「こんなに貰っていいのか?」
「まあ、湊の気持ちを無視して家から追い出したお詫び代も含まれてるわよ」
俺が一人暮らしを始めた理由は、再婚した相手の連れ子が女の子だったから。
家族になるとはいえ、いきなり年頃の男女が一緒に住むのは拒否感も強いだろうということで、大学生な俺は家から追い出されたわけだ。
そのことに対して母さんは、わりと引け目を感じていたらしい。
「いや、別に気にしてないって。マジで、お金が必要だったから助かります」
こうして、俺は無事に都合よく金欠を脱することに成功した。
遊びに行けなくて体力のあり余った夏樹にベッドの上で毎晩のように絞られる。
そんな
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