第6話課題に追われる4年目の彼女
制服姿の夏樹に
夏樹は、すでに制服を脱ぎシャワーを浴びて普段着姿。
そして、何食わぬ表情をしていて、まるで何もなかったと言わんばかりに澄ました感じを装っていた。
さっきまでのあれこれは、俺よりもお前の方がヤバかっただろ……と言いたくなるが、言えば怒られそうなので黙るしかない。
変に弄ったら……、それを気にしすぎちゃうのが夏樹だ。
まあ、さっきのあれこれは夏樹の容赦ない感じが、いつもと違って良かった。
俺が変に指摘を夏樹にしようものなら、さっきのような過激なプレイはしてくれなくなるかもしれないからな。
「そういや、明後日からゼミ合宿だけどお前は準備終わったのか?」
ふと、俺は思い出したことを夏樹に尋ねた。
ゼミでは夏に学生を集めて合宿が行われることがある。
合宿の内容はいつもと違った場所で行う勉強会のようなものだ。
教授によっては勉強会はおまけでメインイベントは『歴史的価値のある観光地を訪れたり、自然豊かな場所で川下りしたり、学校が提携している保養所にあるスポーツ施設で運動をしたりする』な場合もある。
ちなみに、俺と夏樹の所属しているゼミはガチガチな勉強会だ。お遊び少な目で、学生による小論文の発表がメインでとてもつまらないと有名だ。
そして、この合宿は普通に成績に関わっている。
要するに大学生である俺達にとって、わりと重要なイベントなわけで……。
その準備が夏樹は済んでいるかが気になったわけだ。
「荷物は準備できてるけど?」
「いや、俺が心配してるのは荷造りじゃなくてな。ほら、合宿で発表する小論文の内容をまとめたスライドが出来てるのかをだな……」
「あー、そっちね……」
急にバツの悪そうな顔になった夏樹。
それは間違いなく、用意ができていないのを物語っている。
「荷物の準備は終わってるのに、そっちは終わってないのな……」
「普通に忘れてた」
「最近、なんか抜けてるよな。夏樹ってさ……」
「大学生って意外と雑でいいってわかったからね」
夏樹の気持ちは凄くわかってしまう。
講義なんて3分の1休もうがテストで合格点を取れたら普通に単位が出るし、高校に比べたら勝手が全然違うんだよな……。
と俺が頷いていると、夏樹は俺の部屋にあるPCデスクの前に座った。
「……ここでやる気か?」
「クラウドにデータは保存してあるからね」
「俺、普通にゲームしたいんだが?」
パソコンを使われてしまってはゲームができない。
その不満を伝えると、夏樹は真顔で俺に告げた。
「一人だと完成させられる自信がない」
彼女の言うことを要約すると、ゼミ合宿の発表で使うスライドを完成するのを後ろから見守って欲しいという感じだろう。
「あのなぁ……」
「わかった。あとでまた着てもいい」
夏樹はさっきまで着ていた制服をまた着てもいいとすんなりと言う。
どうやら、本当に夏樹は一人で完成させる自信がないようだ。
「てか、そのパソコンは俺が使いたいから、お前はこっちを使え」
大学から購入を推奨されたので買ったのだが、あまり使っていないそこそこ高性能なノートパソコンを夏樹に手渡した。
「あー、確かにこのパソコンでやる必要はないか……」
夏樹は部屋の真ん中に置いてあるローテーブルにノートパソコンを置いて、課題を完成させるために指を動かし始める。
今現在、どれくらい進んでいるのかを後ろから見たのだが、あまりの酷さに俺は頬を引き攣らせてしまった。
「それ終わるのか?」
「忘れてたって言ったでしょ? ……ま、最悪の場合は謝る」
と言って、夏樹は目の前の課題に取り組み始めた。
※
夏樹がゼミ合宿で使うためのスライドを作り始めてそれなりに時間が経った。
俺はあまり進捗が芳しくなさそうな夏樹を気にかける。
「大丈夫そうか?」
「明らかに内容が間違ってたところがあったせいでキツい……」
どこか遠い目で夏樹は言った。
どうやら、スライドを作るために作成した小論文の内容に間違いがあったらしい。
それを直すのに相当な時間を取られたというわけだ。
「そういや、何も食べてないけど腹は平気か?」
「……気にしないで」
「あいよ」
気にしないでと言われても、夏樹を置いて一人で外にご飯を食べに行くのは気が引ける。
なので、俺は買い置きしておいたカップ焼きそばを食べることにした。
「いただきます」
俺は眉間にしわを寄せながら頑張る夏樹の横で、完成したカップ焼きそばをずるずると啜る。
簡素な食事だが、お金のない学生の食事はこんなもんだ。
何口かカップ麺を食べ進めていくと、夏樹は俺の方を向いて大きく口を開けた。
ひな鳥のように餌をねだる仕草をされたら、無視することなどできない。
俺は夏樹の口に焼きそばを運んであげる。
もぐもぐと夏樹の口が動く。
可愛いなと思いながら、俺は夏樹に文句を言う。
「ったく、俺がさっき聞いたときに食べるって言えばよかっただろ」
「いや、湊が食べてるの見たら食べたくなった」
私は悪くないと言いたげに夏樹は言う。
そして、また大きく口を開けて俺にねだってくる。
「……はぁ」
しょうがないので、俺は違うカップ麺を食べよう。
わがままな彼女に、残りの焼きそばを全て食べさせてあげることにした。
「で、終わりそうか?」
「あと、4時間は掛かるかも」
「長いな」
再び、夏樹の口に焼きそばを運ぶ。
夏樹はそれを咀嚼した後、俺に答えた。
「色々と準備段階でのミスが多かったから」
「てか、なんで忘れてたんだよ」
「……まあ、最近は色々としたいことが多かったから」
何が色々となんだ?
どこか歯切れの悪い夏樹の発言に俺は違和感を覚えてしまった。
「色々ってなんだよ」
「あー、色々……」
「俺に言ったら不味いことでもあるのか?」
あまりにも言い淀んでいたので俺は強めに聞いた。
すると、夏樹は少し辛そうな顔で俺に告げる。
「うん、凄く不味い。だから、聞かないで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます