第2話チャンスを狙っている4年目の彼女
「んー、さっぱりした」
シャワーを浴びた夏樹は1枚のタオルを体に巻いて、もう1枚のタオルで髪の毛を拭いている。
なんとも贅沢なタオルな使い方をしているが、汗にまみれた夏樹の服を洗ってあげるために洗濯機を回すので問題はない。
それよりもだ。
タオル一枚だけって、いつ見てもエロいよな……。
「……変態。てか、服貸して」
俺の
頼まれたからにはしょうがない。俺は夏樹が着れそうな服を探した。
ものの1、2分も経たずに夏樹が着れそうなTシャツと紐でウエストを調節できそうなハーフパンツを見つける。
そして、夏樹の方に向かって投げた。
「ん、ありがと」
夏樹は俺が
何度も見ているけどの裸はいつみても綺麗だ。
ただ、初めて見た時は本当に驚いた。
――アソコの毛が一本も生えてなくてツルツルだったからな。
本人曰く、体を動かした時に蒸れたりするのが嫌で剃っているとのことだ。
ちょっとモッサリとした感じな状態も見てみたいな~とか思いながら、俺は夏樹に声を掛けた。
「俺に着替えを見られてるのに、すっかり恥じらわなくなったな……」
「ま、こういうもんでしょ」
「そういうもんか……」
俺の目の前で着替えるたびに、恥ずかしそうにしていた夏樹はもういない。
そう思うと、何だか寂しい気分になってしまった。
「てか、湊もシャワー浴びてきなよ」
夏樹に見送られてお風呂場へ向かう。
彼氏彼女なのだから、一緒に浴びれば良いと思われがち。
だが実際は一人暮らし用の部屋にあるお風呂場なんて狭苦しくて、二人で入るなど鬱陶しくて無理なのが実態だ。
が、鬱陶しくてもイチャつきたい時もある。
そういう時は、一緒にシャワーを浴びるために、お風呂場に乱入しに行く。
いや、乱入されると言った方が正しいかもしれない。
「夜もシャワーを浴びるし、雑で良いよな」
お風呂場で俺はまとわりついた汗を簡単に洗い流した。
で、髪の毛を拭きながら俺は洗濯機のボタンを弄る。
今の季節なら、昼過ぎからだろうが洗濯物は普通に乾くからな。
洗濯機のボタンを押し、無事に動き始めたのを確認し俺は廊下に出た。
俺の部屋のキッチンは廊下にあり、そこには料理をする夏樹がいた。
「なんか手伝うか?」
「邪魔しないで」
「お、おう」
少し前までだったら、じゃあお願いと何かしら役割を与えてくれた。
しかし、今となっては邪魔しないでと切り捨てられる。
「……拗ねた?」
「す、拗ねてないし」
夏樹はくすくすと笑い、俺の背中を軽く押す。
ほら、あっちで待っててと。
「なんか手伝ってほしかったら言えよ?」
「はいはい」
廊下にある狭いキッチンに冷房はない。
夏樹が少しでも快適に料理ができるようにと、廊下と部屋を繋ぐ扉は開けっぱなしにして、料理の完成を待つことにした。
※
ほどなくして、カレーが出来上がった。
作り始めるのが少し遅かったこともあり、やや遅めの昼食だ。
しかし、大学生ともなれば普通にお昼ご飯の時間がズレたりすることが多いし、別になんてことはない。
「ふー、疲れた。さ、食べよっか」
「疲れるなら料理なんてしなきゃ良いのに」
「あー、二度と作らない」
「俺は別に良いぞ」
「……本当は私のご飯が食べたくてしょうがないくせに」
「そうです。私めは彼女の手料理が食べたくてしょうがないです。よし、これで満足か?」
「捻くれ者……。ま、いいや。いただきます」
手を合わせて夏樹はカレーを食べ始めた。
俺もいただきますと言い、スプーンでカレーとご飯を良い感じに
口の中に広がるスパイシーなカレールーと、それを支えるふくっらとしたご飯。
最近、よく食べる学食のカレーとは違って、家庭的な味付けはとても落ち着く。
「美味しいな。これって市販のルーに何か隠し味を入れてるだろ?」
「中濃ソースを一回し」
「これはもう、夏樹の手料理なしじゃ生きてけないな」
なんて冗談めいた感じで言った。
すると、夏樹は……俺に淡々と告げる。
「じゃあ、毎日作ってあげる」
「あー、それはお前に悪いからやめとく」
俺がやんわりと断ると、夏樹はちっと舌打ちする。
そう、たぶん毎日のように俺のためにご飯を作ってくれなんて言ったら……
「それは残念。毎日食べたいって言うのなら、住み込みで作ってあげたのに」
そう、夏樹は大学の近くに引っ越した俺の部屋に住みたがっている。
そして、そのチャンスを狙い続けているのだ。
「あははは……。悪いな」
「てか、なんでダメなの?」
「一人で居られるのも長くないからな」
ちょっと洒落臭い話になるが、夏樹とは結婚までする気がある。
だからまあ、今はまだ一人を謳歌したい。
「どういう意味?」
イマイチ俺の言うことが通じてなさそうなので、頬をかきながら俺は説明を付け加えた。
「そりゃあ、結婚したらお前と一緒に住むわけで……。今くらいは一人暮らしを味合わさせて欲しいって意味だな」
「……湊って意外と重いよね」
「そ、そうなのか?」
「いや、まだ私達大学生じゃん」
「そりゃ、俺が夏樹みたいな子と、また付き合える確率は宝くじを当てるよりも低いからな」
夏樹と恋人になれたのは本当に凄く運が良かっただけ。
俺達は高校2年生の頃にたまたま図書委員になった。
仕事の内容として、放課後に本の貸し出しがあった。
貸し出しカウンター内で俺と夏樹は暇をつぶすために話すようになり、結果として仲良くなって恋人になっただけ。
可愛い夏樹に比べ、俺は勉強ができるだけな根っからの陰キャである。
陰キャという根拠はある。
だって大学生になろうとも、女の子の友達は増えなかったので間違いがない……。
だからこそ、夏樹と別れたら俺はおしまいだ。
きっと、一生を孤独で終えることになってしまう。
って、重いな。
すっごい、重い考えしてるな俺……。
「わー、別れたらストーカーになりそ……」
「……ならない。てか、別れる気ないからな」
「そういう発言が危ない。ま、あれ。私と別れたくなかったら……」
「別れたくなかったら?」
「この部屋の合鍵をくれてもいいと思う」
媚もせず、淡々とした口調で夏樹は言った。
やはり、大学に近い俺の部屋に入り浸りたくてしょうがないのだろう。
俺も夏樹の家が大学から遠ければ、別に合鍵を渡したって良いと思っている。
でもさ……
「いや、お前の家、大学からそんなに遠くないだろ……」
そう、別に俺と違って夏樹の家は大学からそう遠くない場所にある。
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