第85回 海外SFを読もう

 SFというジャンルはもともと海外のジャンル概念なので、日本にはありませんでした。(例外として海野うんの十三じゅうざ(1897~1949)がいますが)

 

 ですからSFの世界をざっくりと大まかで、核心をつくように理解するためには海外SFを読むのが手っ取り早いです。SFというのは実はサイエンス・フィクションの略ではありません。SFというのはその都度、解釈が変わるジャンルであることを覚えておいてください。

 

 サイエンスに寄ったSF作品もあるとも言えるし、ファンタジーに寄ったSF作品もあるとも言えるのです。つまりSFは科学的な知識をひけらかすジャンルではありません。科学的な知識は最低限でいいのです。たとえばSF作家は科学者ではありません。科学者からSF作家になった人もいますが、ここで言いたいのは科学のを表現するのがSFではないというところでしょうか。


 実は誤解を恐れずに言えばSFは科学的な裏付けを元に、どのような解釈を作家自身がしたかが重要なのです。そこがオリジナリティとして評価されるのです。

 SFって何から読んだら良いのだろう? 「海外SFってマジ分からん」と思う方もいると思うので簡単な読書案内をします。


 まずひとつめ。

 ジュール・ベルヌ「海底二万里」(新潮文庫)

 SFの父と呼ばれる作家の代表作です。ネモ船長が操るノーチラス号の海洋冒険譚です。私の時代の図書館にある本っていうイメージです。私自身ははっきりと申し上げますと「なんか古くさいから読みたくない」本です。読むべきだとか言うつもりもないです。ただしSF紹介するのであったら、避けては通れない作品でしょう。


 ふたつめ。

 H・G・ウェルズ「タイムマシン」(角川文庫)

 こちらはSFの巨人、ウェルズの作品です。これも「何か古くさい以下略」です。ウェルズの作品はほとんどが映画化されているのでそちらを観ている読者も多いと思います。同じウェルズの「宇宙戦争」はトム・クルーズ主演で2005年に公開されました。サブスクで鑑賞するのもいいかもしれませんね。


 もうここで難しい、つらいと思っている方はいませんか。私です。正直、SFが肌に合わないと思いました。なんか小難しいし、ビビりだから冒険とか宇宙人とかどうでもいいんですよね……。


 みっつめで気分転換しましょう。

 ヒュー・ロフティング「ドリトル先生シリーズ」(岩波少年文庫)

 え? あの話ってSFなんですか? と思われた人もいるかと思いますが、私はSFとしてあの作品に触れた記憶があります。動物と話せる人間のお話、すごい不思議でおかしくて、妙に大きな物語でって。小学生のときに読みました。


 よっつめです。

 レイ・ブラッドベリ「華氏かし451度」(ハヤカワ文庫)

 読書が禁じられた架空の世界のお話ですね。この作品はファンが多いです。読書を取り締まる仕事をしている主人公の物語です。これも名作と呼ばれていて、NHKの100分de名著で取りあげられたこともあります。ちなみにタイトルの由来は紙が自然発火する温度なんだとか。


 いつつめです。

 アーサー・C・クラーク「幼年期ようねんきの終わり」(光文社古典新訳文庫)

 古典作品を分かりやすい新訳で紹介する光文社の古典新訳文庫からの一冊です。実はクラークは私の父の本棚にある「前哨」(ハヤカワ文庫)をまえに読んだのですが、「翻訳がちょっと難しい。ムリ」って思っていたところで、読みやすさを重視するならば「幼年期の終わり」光文社版をおすすめすると思います。これを手にしたときは高校生でした。なので、「宇宙船とかピンと来ないけれど、そこは知力で読めるはず」と思ったのと、父親に放課後に書店で買ってきてというおつかいを頼まれて買いに行きました。それが発端です。


 むっつめです。

 アイザック・アシモフ「われはロボット」(ハヤカワ文庫)

「男の子はロボットが好きだから!」と言いつつ選びました。私はロボットが好きすぎるのですが、この作品は映画で観たような記憶があります。ロボット三原則はじっさいにロボットの製作の現場でも知っておくべき知識でしょう。電子工作でラジコン型のロボットを作っていた小学生の私に贈りたい名著です。ただし私は予算不足で未だに買えていません、キリッ。


 ななつめ、これで最後にしましょうか。

 ウィリアム・ゴールディング「蝿の王」(新潮文庫、ハヤカワepi文庫)

 世界文学の名著です。これってSFなの? と思った方には申し訳ありません。SFというか文学なので、人間のどうしようもなさを描いた傑作です。ひとつめに紹介したジュール・ベルヌの「十五少年漂流記」という作品があるのですが、その作品の闇堕ち版と説明したら分かりやすい(?)と思います。

 じつはこの世界観はSFになっていてこれがSFだから恐ろしい……という結末に仕上がっているんですよね。SFを読みたいし、世界文学も読みたいコスパ重視の読者に読んでもらいたいです。


 いかがだったでしょうか。大人のSF入門スターターセットというと、このへんのラインナップなのかなと思います。

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