第79回 売れる商品と「捨て色」

 書籍化を目指す作家にとって作品が書店に並ぶ鮮明なイメージを持つことは大切かもしれません。きょうは消費行動から見た売れる作品の考察です。

 書店に新文芸の棚ができるようになってしばらく経ちます。家の近くの書店ではライトノベルの裏側にカドカワBOOKSのコーナーが出来ています。小さな町の書店ですからそこまで大きくないですね。秋葉原の書泉グランデのように一フロアまるごとライトノベルや新文芸のコーナーはありません。しかしカクヨムが発足してから消費者の手に届く範囲に新文芸のコーナーがあるということ自体、好ましい結果でしょう。


 書店に行って、みなさん新文芸を買っていますか? パラパラと捲ることはあるでしょうが、私は「横浜駅SF」くらいしか触ったことはないですね。もちろん、買いたい本があると思ってくる人も多いでしょうし、そういう方を否定するわけではありませんが、書店で買いたい本を決める人も少なくないでしょう。

 

 消費行動は基本的に比較から入ると思ってください。あの本とこの本どちらが満足度が高いか? 価格は適正かなど色々な基準で選ばれます。その結果、買わないで帰ることもありますよね。比較された結果、売れる本があります。しかし、一方でこれは売れないという商品も存在します。


 たとえばユニクロを初めとしたアパレル業界では「捨て色」という概念があります。「捨て色」というのは、無難な色や好まれる色、定番の色とは違い、比較されるだけのために置かれる売れない色のことです。原色の派手派手しいピンクやオレンジなどです。書店でも似たようなことはあると思います。挑戦的な作品やマニアックな作品はそれほど売れない商品でしょう。

 売れ筋というのは売り出す前の評判やネットの評価で前もって決まっていると言っていいでしょう。つまり売り出したい商品は部数を多く出したり書店でも手書きPOPを付けたりするわけです。

 

 こうした「捨て色」の概念、カクヨムでも応用が利くと思います。たとえば作品が多い作家はどれもこれもが売れ筋ではないので、色の設定を用いて、捨て色を選んでおくのです。どれもこれも自分の愛おしい作品ですから決断は難しいかとは思いますが、そういう捨て色を選ぶことで、優先的に読んでほしい作品を作家側が選べます。これは売る技術なのです。すべての色を同じにしていると比較対象がないのでお客さんを逃します。

 

 捨て色のお話を考えていると思い出すのは、とある評論で書いてあったことです。多様性のお話です。消費される商品が多様性を謳ったときに、その限界を超える多様性は存在しないということです。多様性の外に出ることも多様性ですが、用意された選択肢を超えようとしても、それは存在しないのです。多様性のなかで売れ筋や無難さを持ったものが売れていくのです。

 一度、お店に出かけてみてどんな商品が並んでいるかを消費活動の目から覗いてみましょう。面白い発見があるかもしれません。

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