第77回 新文芸を考えてみる

 今回はカドカワの新文芸ジャンルについて書いてみたいと思います。まず定義から簡単に述べます。新文芸とは「ネット上で発表された作品を書籍・電子書籍化して出版する小説の総称」ですね。ここに含まれるのはネット小説、ボカロ小説、フリーゲームの小説化です。新文芸がジャンルとして新しいのは、従来の一般文芸では新人賞を介して新人を発掘していたことや編集者の目に留まったことなど、実力と運が必要だった時代からウェブ上の広い書き手にその門戸が開かれたことでしょう。

 カドカワは小説家になろうやエブリスタといった小説投稿サイトへの視線をカクヨム発足以前から向けていました。

 

 ネット小説の最大の特徴はそのライブ性でしょう。閲覧数やランキングが可視化かしかされていることで読者の反応がわかりやすく、その変化を読み取って作家は内容を調整したり、微修正を行ったり、良い物語を組み立てられます。こうしてみたとき、読者もまた作家の最大のパートナーになりうる構造を持っています。読者と作家の距離感がものすごく近いこと、これがネット小説の世界です。


 今や新文芸ジャンルも一般的な書店でそのコーナーを見かけることが増えました。カクヨムが出来る前にはカドカワでもそうしたネット発の小説コーナーをまず書店に作ってもらうというのがひとつの到達ポイントでした。そのポイントを越えたところに現在があります。概ねカドカワの新文芸は根付いたと言っていいと思います。


 ここで新文芸のターゲット層を調べました。ライトノベルのターゲット層がティーンエイジャーなのに対して新文芸は30代男女となっています。ボカロ小説は女子中高生です。新文芸ジャンルは社会に出てから酸いも甘いもかみ分けられるようになった、いい大人のための文芸ジャンルと言えそうです。30代というのは男性であれば仕事をきちんと先輩の指導なしで熟せるようになったり、結婚を考えたりするような年齢でしょう。そうしたライフプランが固まってくるときですから、そういう成長と成熟を物語のプロットに据えるのがいいかと考えます。


 私の専門はSFですから、読んでいる参考資料における2015年に30代から40代のだった男女は、男性であればセカイ系作品が中高生のときに流行ったものになります。2000年前後の頃ですね。電撃文庫では「イリヤの空、UFOの夏」、漫画作品では「最終兵器彼女さいしゅうへいきかのじょ」、映像媒体では「ほしのこえ」です。であるならば現在より7年先を行く年齢の人であればセカイ系作品はまだ現役です。ただその世代はすでに新文芸のジャンルターゲットからは外れていくでしょう。また、私の年齢の34歳であれば「涼宮ハルヒの憂鬱ゆううつ」が有名で、であるならば現在ラブコメが流行っているのも頷けるわけです。

 さらにもっと世代を若返らせます。今現役の大学生であれば、なにが直撃世代かと言えば伊藤計劃いとうけいかく虐殺器官ぎゃくさつきかん」や「ハーモニー」が共通体験としてあるわけですね。SFの世界ではそうしたわばポスト伊藤計劃(この言葉はもう誰も使いません)は柴田勝家しばたかついえらを指すようです。柴田勝家はこのまえのフジテレビ系「世にも奇妙な物語」でも原作を担当しています。SFジャンルではこうした流れは早いものなので、いまさらそれらしい伊藤計劃的なものが脚光を浴びるというのは難しそうではあります。しかし新文芸ならどうでしょうか。


 そうして見たときに本格国際謀略ほんかくこくさいぼうりゃくものや、リアリズム重視のミリタリー作品やスパイ作品が今後SFの場合では新文芸で成功する可能性があります。冒険小説と呼ばれる小説が日の目を見るかも知れませんね。


 参考文献:KADOKAWA井上伸一郎に聞くWEB発の新ジャンル 新文芸

 URL( https://store.kadokawa.co.jp/shop/pages/special_articles_01.aspx ) 

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