第58回 On The Job Training.

 これまでの記事を総合して考えるとカクヨム発の作品は、KADOKAWAの編集者のなかでは比較的新人の編集者や中堅どころの編集者が書籍化作業を担っているという点でしょう。


 ところで編集者になるにはどのような資格がいると思いますか? 本や文芸が好きなことでしょうか? 対人スキルやコミュニケーションスキル? ほんとうのところはまずは4年制大学を卒業するというところがボーダーラインです。どんな出版系の編集の仕事をするにも、大学を卒業あるいは卒業見込みという資格が必要です。私が子どもの頃、90年代からゼロ年代では大学の進学率が100パーセントになるという見立てがベネッセのリーフレットなどに書いてありましたが、実際大人になった今、令和2年で大学への進学率は男性が57.7パーセント、女性が50.9パーセントと言われており(内閣府男女共同参画局のデータから)、全入時代とはほど遠い結果となっています。ですからこのような時代でも編集者になりたい人は大学進学を目指しましょう。そして卒業まで漕ぎ着けましょう。


 大学という場所は自らの手で学びを打ち立てていく場所です。受動的な態度では置いて行かれるし、学びを深めようとする人間であればどこまでも深淵しんえんを目指せる場所です。コストパフォーマンスを考えなければ、何者かになれるそんな場所だと思います。そこで膨大な知識や学識を高めることも重要ですが、何より本が好きならば、本をいつまででも読める空間でもあります。大学図書館は話題書や一般的な図書館にない蔵書に恵まれていますし、調べ物であれば強い味方になってくれるはずです。大学の4年間、正確には3年ほどと考えてよいと思いますが編集者を目指すのであれば、ある程度のキャリアをそこで得なければなりません。


 大手出版社に勤めている人間の多くがそういったハードルを越えてきた人たちであり、信頼できるパートナーであることをまず理解してください。知人の話では東京のとある出版社では試験が四次試験まである狭き道だという話です。

 また作家と編集者は運命共同体であることは間違いないと思います。


 おそらくカクヨム発の作品の書籍化作業は、そういった新人編集者のOJT(On The Job Training)、つまり実地トレーニングとしての側面がある可能性があります。新人の研修を終えた編集者が、仕事をしながら学ぶトレーニングとして編集をしている場合があると考えます。なので、編集会議でも比較的ゴーサインが出やすく、新人に任せつつも問題があれば先輩編集者がバックアップを取る体制ではないかと思います。ですから、失敗という果実も成功という果実も平等にもたらされます。

 人材はきんです。商業的な成功だけでなく、その影響にも目を向けたいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る