第52回 マズローの欲求5段階説

 具体的に面白い小説とは何なのかを考察してみようと思います。小説というものの評価軸はお店で売れているではなく、カクヨムで読まれているに設定しましょうか。

 カクヨムというプラットフォームは各ユーザーのフォローした作品、評価した作品、レビューした作品などからプロフィールが構成されます。ですから、ユーザーのページを見れば、読まれている作品の傾向が分かるようになるとも言えます。

 面白いという評価軸は多面的な指標ですので、そもそも還元論かんげんろんにしにくく、結論も曖昧あいまいになりがちです。

 

 私はたとえばこのように仮説を立てています。面白い作品というのはターゲットの欲求を満たす物であるという点です。マズローの欲求5段階説が有名です。私たちは生きていく上でたくさんの不満を抱えています。それらを解消するために物語を読んでいます。この話とは別にして三大欲求の話をしてみましょうか。生理的欲求は食べることや眠ることで解消されます。ただし、性欲はどうでしょうか。実際に性交をすることのほかに、ポルノグラフィティを見ることや官能小説を読むことだって範疇はんちゅうに入りますよね。ただ、小説というジャンルはそうした欲求のなかの物質的欲求を解消してくれるわけではありません。

 どちらかと言えば、小説は精神的欲求を満たしてくれるものであると考えます。

 社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求です。5段階の欲求の、上のほうの3つの欲求ですね。その依り代になるものが読者の感情移入するキャラクターですね。

 このようにしてみたとき、ウェブ小説はえて下位の物質的欲求レベル(生理的欲求や安全の欲求)を刺激しつつも、一方で上位にあたる精神的欲求を刺激する作品がよく見られるという点が興味深いです。

 

 デスゲームやちょっとエッチなラブコメがまさにそうでしょう。ソードアート・オンラインもそうですが、下位の欲求レベルを上手く活用しながら、最終的に精神的欲求を満たすような物語構造になっています。デスゲームは安全がおびやかされることによってそこから始まる精神的な欲求への飛躍ひやくですね。

 また最近のVRMMO作品では、もうすでになんらかの前提で精神的欲求が満たされていないことから、その揺り返しとして新しい場所に行く物語があります。こうして見たとき、とは精神的欲求がさらに満たされる場所という設定がある場合があると思います。

 こうした側面は古来から神話に内包されてきた物語の機能であるとも言えます。英雄になる人間がとある場所から行って、通過儀礼つうかぎれいを行い、帰ってくる構造です。通過儀礼とはある種の大人になる手段なのですが、欲求という視点から見ればそれは大人の成員に加わる、社会的欲求の実現です。


 このように、欲求という段階ある視点を持ち込むことで作品を読むターゲットがどのような面白さを経験しているかを読み解けます。ターゲットが、読者がなにを快感と感じているのかを十分に理解した上で、物語をつづっていくことが大切でしょう。

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