第26回 【オファーの瞬間】を読み解く④ メディアワークス文庫編集部

 メディアワークス文庫といえば、「ビブリア古書堂こしょどう事件手帖じけんてちょう」が代表格ですね。過去にメディアミックスでドラマ化されました。今も、かどうかはわかりませんが、フジテレビの月曜9時台のドラマはそれこそテレビでは象徴的しょうちょうてきなものです。メディアワークスと言ったら、「ビブリア古書堂の事件手帖」のイメージが定着した出来事だったと思います。今回はこのページです。(https://kakuyomu.jp/info/entry/offer_interview_vol.4


 メディアワークス文庫編集部の記事では、小説でしか表現できないことを書こうというのが論旨ろんしですね。編集者Dさんはマンガ編集者であった経歴から、小説でしか書けないことをすごく考えています。映像的な小説の良さも説明しながら、一方でキャラクターに湧き起こる感情や思考、その向こうの関係性を書くのが小説に向いているとも言っています。


 小説を書き始めた頃はト書きのような作品を書いてしまいがちですよね。しかし、そこに「具」を詰めた作品を書けるようになれば一段レベルアップします。「具」とは感情や思考です。感情の話題はよくTwitter上でも議論が起こっています。感情は「私は悲しい」と書いて良いのか? いや「頬に涙が伝った」と書けば良いのか? と言った話題が最近では上っています。こういう話題は上級者ほど寛容かんような立場を取る性質のものなので、答えは収束しゅうそくしないのですが、書き手にとっては切実な問題なので私の思うところを書くと、感情表現それ自体が豊かな作品は魅力的に映ります。「私は不安だった」や「私は楽しかった」と書くと、どうしてか、はじめて心を手に入れたロボットのように見えてしまいますよね。


 そうした不器用さを演出するのであればそのように表現してください。しかし、もっと書ける人はこのように書くかもしれません。「私はコートのすそをぎゅっとつかんだ」「私は笑いすぎて涙が出た」など。

 こうした感情表現に関しては、フィルムアート社から「感情類語辞典かんじょうるいごじてん」が出版されており、どうして感情表現が必要なのかという問いの答えも載っています。いちど手に取ってみてはいかがでしょうか。


 今回の記事は、「屍介護」という作品へのオファーがきっかけに、次回作のオファーが来たという売れっ子作家の流れだと思いました。出版に足る十分な筆力とコンテンツの面白さが評価されているようです。

 重要視されているのは冒頭のつかみです。つかみをいかに作るかは常に考えなければいけません。第一話の山中で死体を埋めている不穏ふおんなシーンから、第二話の聴覚に訴えかける描写へ、というつかみになっていますよね。


 五感から入ってくる情報の取捨選択しゅしゃせんたくは感情描写の基本です。感情描写のそうした勉強ができている人は効果的なつかみを考えられるのかも知れませんね。

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