第8回 空間表現

 小説家やシナリオライターの専門学校で教鞭きょうべんる西谷あやさん。「女神転生めがみてんせいシリーズ」やその後に派生する「ペルソナシリーズ」の生みの親です。「女神転生」は西谷史さんが電機メーカーにいた頃、「デジタル・デビル・ストーリー」の元となるショートショートを書き上げたことがきっかけで形になったといいます。その西谷史さんはちょっと面白い趣味があります。それは占星術せんせいじゅつです。やっぱり、と思った人も少なくないかと思います。

 ある種のまじないや妖術ようじゅつに長けているのはさすがだなぁと思うわけですが、そんな西谷史さんが先日ぽろっとネット上で「売り物になる小説」と「売り物にならない小説」の話をしていました。

 売り物になる小説はさまざまな要素で構成されているとは思います。魅力的なキャラクター、うつくしい文章、すばらしいストーリーテリング、目を見張る世界観……などなど、どれを取っても書籍化の可能性はあるでしょう。けれど逆に考えてみましょう。


 もし、ここだけが悪ければ書籍化しない要素があるとしたら何だ? と。


 これは面白い話でした。実際に小説とは物語をつづったものではあるはずですが、おかしな点があればおかしいと指摘を受けるものです。これはどんなに上手く書けていても同じです。最終候補に残ったけれどその要素が欠落しているから書籍化はしなかったというような。

 それはなにかというと、空間表現です。詳しく言うならモノとモノの位置関係や人とモノの位置関係を正確に表そうという点ですね。まえに「ダイナミックコード」というアニメがありました。作劇は問題のない物語でしたが、作画上の空間表現があまりにひどくニコニコ動画などで拡散かくさんし、逆に話題になってしまった作品です。


 これは小説にも応用できる話で、この位置にカメラアイがあるとき、風景はどんなふうに見えていて人物はどのくらいの大きさなのかとか、道路の車線しゃせんはいくつなのかとか基本的なことをまず押さえて書かないといけないということです。つまり、当たり前に見えている空間をまず知らないといけない。書籍化の近道は正しい空間認識を持ちましょう、これに尽きるのです。あるコンテストの書籍化作業中に最初の場面と最後の場面とで家の間取りが違っていたなんて事例もあります。


 どのようにすれば正しい空間認識が持てるかといえば、たとえば周囲を観察することやGoogleのストリートビューなどを用いて作品に出てくる場所の風景を頭に入れておく、また旅行で写真を撮っておく、図面に起こすなど、いろいろと空間に気を配れますね。書くのに熟達している人はまず間取りから起こすという話を聞いたことがあります。


 ネット小説に多い一人称の文体だと空間認識が正確でなければおかしなものが見えてくることになります。ただおかしなものが見えることがフックになるホラーやミステリーなどでは敢えてそうしている場合もありますね。


 ですがここでボーダーラインとなるのは正しい空間認識です。覚えておいて損はないです。

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