第1話 転生・天災

 五年前のあの日の出来事を、私が忘れることはないだろう。


「何なの……これ?」


 目を開けると、そこには別世界が広がっていた。

 気づけば街の高台らしき場所にいた私。

 眼下の街は、海からやってきた大きな波によって、押し流されようとしている。その時の私は知らなかったが、それは津波と呼ばれる、大きな地震が起きた際に発生する現象だった。


「あっ……!」


 夫婦だろうか。白いマントを羽織った二人の人影が、波に呑み込まれるのが見えた。

 その頃の幼かった私には、彼らの無事を願う以外にできることがなかった。


「ここは一体どこなの?」


 先ほどまで、自室のベッドでダラダラと横になっていたはずなのだが、いつの間にか眠りこけてしまって、夢でも見ているのだろうか。

 あまりにも信じ難い光景であるため、思わずそう思いたくもなる。

 しかし、残念ながらこれは現実だ。ミシミシと耳障りな瓦礫の擦れる音が、あまりにもリアルすぎる。

 それならせめて、この光景を目に焼き付けようと、私は波が落ち着くまで、その惨劇を見守っていた。


「……」


 行くあてもない私は、途方に暮れてしゃがみ込んでいると、どこからか鈴の音が聞こえてきた。

 リン、リン、と一定のリズムで、足音のように響くそれは、複数の気配と獣臭さと共に私の元へと迫ってきた。

 やがて、私の前に、大きなベルのついた杖を持った、若い男が現れた。

 先ほどの津波で居場所を追われたらしい犬や猫を大勢引き連れたその男は、私に言った。


「あの惨劇を見て、まだ、生きる気力は残っているか? それとも、ここでこのまま野垂れ死ぬか?」


 見た目以上に渋い声に、私はビクリと背中を震わせる。しかし、私の心は決まっていた。故に、臆することなく言い放つことができた。


「私は、生きたい!」

「そうか。では、一緒に来い――」


 男はそれだけ言うと、身を翻す。


 後に判明することだが、この男は魔法使いだった。

 主に、魔力を持つ獣――魔獣を専門とする獣医だが、世を忍ぶ仮の姿として、一般の動物たちの保護や、治療も行う小さな動物病院を経営している。私は、その弟子となることで、どうにか住む場所と食べるものを手に入れたのだ。

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