SF小説と言うものとは?

@kentarou-novel

第1話 SFは何処まで科学的でないといけないのか

 SF小説とはどのようなものなのでしょうか。今回はその辺について考えてみます。いわゆるSFファンタジー小説なるものは、本格的なSF小説とは言えないように思います。まあ、そう言うSFファンタジー小説は退屈せずに面白く読み進められるので、読者層が厚いのでしょう。本格的なSF小説を読む場合、自然科学の特に物理学、数学、天文学などにかなり精通していない読者だと、あまり理論やら理屈やらを並びたてられると読む気が失せてしまいます。然し、本格的なと言うか正統なと言うか、そう言うSF小説にはいわゆるSF的なファンタジー小説とはおのずから明確な違いがあるように思われます。本来のSF小説は、ストーリーの展開がかなりの程度正しい自然科学の知識を土台にしている必要があります。やはり「scientific」と言う言葉を蔑ろにする訳には行かないのです。自然科学の専門家でなければ冗長にも思えるようなある程度詳しく論理的かつ科学的な説明が小説の随所に求められるのです。

日本のSF小説の中では、やはり何と言っても小松左京氏の沢山の作品が群を抜いています。京都大学文学部イタリア文学科で学び、ロバート・シェクリイの「危険の報酬」と言うSF小説に出会うまでは文学や戯曲一筋でしたが、その後、SF作家としての活動を進めた作家でした。その間に、自然科学の専門家が驚くような科学的な知識を蓄えて、質の高いSF作品を書き進めたのです。これは知の巨人とも評された 立花隆氏に共通しています。立花氏は東京大学の仏文学科を卒業した後、学士入学をして哲学科でも学んでおり、基本は文系なのですが、母校の東京大学の教養学部でコンピューターのゼミを立ち上げたり、利根川 進博士が体液性免疫における抗体遺伝子の再構成系を発見してノーベル医学生理学賞を受賞した時に、利根川先生から指名されて、日本のメディアを代表してただ一人アメリカに出向き利根川先生とのインタビューを行い、利根川先生の分子生物学・免疫学の大発見について、特に分子生物学がどこまで生命の謎を解けるのかと言う問題について焦点を絞った形で、「精神と物質」と言う本に詳しく極めて科学的に綴っています。

話が逸れましたが、小松左京氏の自然科学についての知識の豊富さと深さは、文芸作家の中では群を抜いており、「日本沈没」や「復活の日」と言う地学、火山学、地震学、ウイルス学の最新の知見に根差した内容のSF小説の名作を発表しています。もちろん小説なので、かなりの部分は創作なのですが、それが不自然には感じられないほどの豊富な知識と緻密かつ論理的な考察で彩られているのです。いわゆる、異世界に行って、そこで大活躍と言ったような内容のSF的なファンタジー小説ではお目にかかれないようなストーリーが展開されて行くのです。そう言うところに、本格的なと言うか、正統派と言うか、本物のSF小説の真価があるのではないかと思います。

 僕が好きなSF小説に、カール・セーガン博士(Dr. Carl Edward Sagan)が書いた「コンタクト」と言う小説があります。カール・セーガン氏は、コーネル大学で宇宙物理学の教授や同大学の惑星研究所所長をしていた物理学(天文学)の専門家でしたが、生涯に1篇だけSF小説を書いています。その「コンタクト」と言う小説の内容については、あまりにも有名なのでここでは触れませんが、物語の最後に失意の主人公が研究の第一線を退き、コンピューターで円周率(π)を計算する場面が描かれています。セーガン博士の小説では、「円周率π(3.14159 26535 89793 23846……と言う無理数)の小数点以下のはるか彼方に、何十億年後と言う後世になってこの宇宙に誕生して来るであろう高い知性を持った種族に向けた或るメッセージが10101011100111010111…….と言う形で潜んでいた。」という結末になっています。現在では少数点以下100兆桁までは計算が進んでおり、これまでのところπの数字はランダムに続いていることが確かめられています。従って、そう言う我々の宇宙を創成した想像を絶する高度文明を持った種族が(神と呼んでも差し支えない)我々に向けて残してくれたメッセージがπと言う数字に秘められているとしたら、そのメッセージが出現して来るのは、少なくとも小数点以下1000兆×1000兆桁以上になった時なのでしょうね。こう言う発想は、なかなか数理物理の素人には出来ないものだと思います。そういう意味で、カール・セーガン博士の書いた「コンタクト」と言う小説は、途中でストーリーの運びが説明に次ぐ説明で何となくもたつく感があるのですが、SF小説としては超一流のものだと言えるかと思います。

 序に語っておきますが、「素数」と言う数も興味深い性質を持っていますね。素数は2, 3, 5, 7, 11, 13, 17……と無限に続く数ですが、現在までのところ、2486万2048桁と言う物凄く大きな素数が発見されています。此のための計算にはスーパーコンピューターが必要なのですが、世界中の素数好きの人達の24万台のパソコンを繋いで計算したそうです。例えば134587は素数ですが、それまでの素数の出方はまるっきりバラバラで規則性は見つかりません。その先も素数は不規則に出現してきます。ところが、18世紀の天才数学者オイラーが無限に続く素数を使った[22/(22-1)]×[32/(32-1)]×[52/(52-1)]×[72/(72-1)]×[112/(112-1)]×[132/(132-1)]×[172/(172-1)] ……と言う無限に続く数式を計算したところ、答えがπ/6になることを発見したのです。出鱈目に出現して来る素数がこの宇宙で最も美しい形である円を表すπとつながっていると言う訳なのです。その後、19世紀の大天才数学者のガウスが少年時代に「或る素数をそれに対応する対数で割って得られる値がその素数の「素数階段」の高さと一致する。」ことを見出しています。この大発見は、素数が自然対数の底e(ネイピア数)と繋がりがあることを示しています。その後、天才数学者リーマンが[2x/(2x-1)×[3x/(3x-1)]×[5x/(5x-1)]×[7x/(7x-1)]×[11x/(11x-1)]×[13x/(13x-1)]×[17x/(17x-1)] ……と言うゼータ関数を考え、その関数の大きさを立体的に表してみたところ、計算できる範囲内ではゼータ関数が0(ゼロ)になる点(ゼロ点)が一直線に並んでいることを発見し、全てのゼロ点は一直線上に並んでいる筈だと言うリーマン予想を立てたのですが、此の難問は未だに証明されていません。もしそうであるのなら、素数には理想的かつ完璧な調和が存在することになります。と言うことで、πにしてもeにしても素数にしても、みんなこの宇宙と密な関係を持ったものであるという訳ですね。


 これから、数回のSF論議を進め、その後で、筆者のオリジナルな科学小説とも言えるSF作品を連載して行きます。


つづく

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