第14話 秘密
「サトファリア、貴様正気か?」
1人、立ちはだかる、サトファリアを目の前に、マテライダは、まず、そう言った。
「マテライダ、貴方に私は倒せない…」
「何をふざけたことを…!それはこちらのセリフだ。よくもまぁ、お前のような小娘がこのマテライダ様に挑もうなどと…。見当違いも甚だしい!」
マテライダは、思った通り、発動されていた。もはや、サトファリアを自分の子供だとは微塵も記憶にない。
「見当違いかどうかは…闘ってみないと分からないんじゃない!?」
そう言うと、サトファリアは、スチカサートの弓を射た。…と同時に、呪文を唱えた。
「<
マテライダは、鋭い速度で飛んできたその矢を、瞬時に避けた。…が、マントが、火だるまになり、身を守っていたマテライダにとっての鎧が、早くも失われた。
「…そんな攻撃で、俺様を凌駕したつもりか?」
「えぇ。思ってないわ」
「ほう…。ならば、今度は俺様からだ!<
「<
サトファリアは、次は、ナトイレルンの剣で、雷を真っ二つに切った。
「ふっ…。すべてをなげうち、たった一人で魔界に乗り込んできた意志の強さだけは認めてやろう。だが、キンリジライ様に発動された我に、お前が敵うはずなかろう?」
「そうね…発動したのが、貴方だけならね…」
「何?」
「私は、私自身を発動したのよ!!」
「なにぃ!?」
驚きを隠せないマテライダ。
「今の私に、ラートインスも、ヘティーナも、ユメリスも、みんなどうでも良いの。天界の行く末すらもね!」
「何だと!?ならば、ならばなぜ我らと闘う!?そんな無駄なことをするより、我らの元に来い!!お前ほどの強さがあれば、天界など、…いや、人間界すら、あっという間に魔界の天下ではないか!!」
「そうね…。でも、それは無理みたい…」
「どういうことだ…!?」
「貴方も、キンリジライも、シャートラスも、知るすべはなかったでしょうから、今ここで、教えてあげるわ。私は…私こそ、天界の生みの親、女神ディリスメリ!!貴方たちを消滅させるために、ここに蘇ったのだ!!」
「き…貴様が、女神ディリスメリだと!?」
「ほう。名前くらいは憶えていてもらえたようだな…。久しいな。マテライダ」
「ディリスメリ…。お前…どのようにして、この世に生まれ変わった…」
「そんなことも分からぬか…。キンリジライの発動など、その程度のものなのだな…!」
「貴様!キンリジライ様を侮辱すると只では済まさんぞ!!」
「サトファリアは、ただ発動したわけでない。私、ディリスメリとして発動したのだ!!」
「なっ!」
「ふふふ…。少しは恐ろしさに気付いたか?マテライダ」
マテライダは、その言葉に、促されるように、一歩、後退した。
そう。女神ディリスメリは、空、大地、海、すべてを総べる、偉大なる女神だったのだ。その力は、天界の王、ラートインスの1億倍とも云われ、大いに崇拝された。その女神ディリスメリの消滅は、あっけなかった。ある時、空が曇り、大地が枯れ、海が干上がった。その時、そのすべてから命を注がれていたディリスメリは、息も出来ず、鼓動を鳴らす術もなく、手足も動かなくなり、次第に弱り、終いには、目を開けることすらも出来なくなった。
空が曇ったこと、大地が枯れたこと、海が干上がったこと。それを天界中が、不安視した。天界に何か、起きたのではないか…と。
そこで、ディリスメリは、最後の力を振り絞り、何故、空と大地と海がこうなり果てたのか、<
まだ、キンリジライがディリスメリを恨む前、シャートラスとの間には、もう、マテライダも生まれ、ディリスメリの腕に抱かれたこともあった。
しかし、マテライダから、魔力を奪ったのが、ディリスメリだったのだ。キンリジライがこれ以上、悪事を犯さぬよう、自分の妻だけでなく、2人の間に生まれた、強大な魔力を持って生まれただろうマテライダを、自由にはしておくことは、ディリスメリには出来なかった。キンリジライが魔界を作るつもりなら、なおのこと。
そして、マテライダの魔力を奪ったディリスメリは、ラートインスに、キンリジライに殺されたように見せかけ、自分を<
「ディリスメリ…様!?」
ディリスメリが目覚めた時、ラートインスとヘティーナは、酷く驚いた。呪文を、解いた覚えはなかったからだ。そして、その姿に、またもや2人は驚かざるを得なかった。もう数万年前に<
「ラートインス、ヘティーナも…。この数万年、よくぞ、キンリジライたちからの裏切りによる、攻撃、襲撃から、天界を守り続けてくれたな…。しかし…、お前たちでだけでは、もはや、キンリジライたちからの攻撃から、天界を守り、その上、魔界を滅ぼす術はないだろう…」
「しかし、ディリスメリ様、貴女も、とてもキンリジライたちを仕留められるようなお体では…!そ、それに、そのお姿!ユメリスの娘、サトファリアではありませぬか!一体、どういうことなのですか!?」
「突然のこと、何も説明せず、<
「な、なんと…!?」
「あの2人は、確かに愛し合っていたようだ。それは、私がマテライダの魔力を封じたから。しかし、魔力を持つユメリスとマテライダの子供が生まれれば、キンリジライたちがまた、その子供を悪用しかねない。だから、私はユメリスと、マテライダの意識を奪い、サトファリアが生まれたように見せかけた。ユメリスをも裏切るような真似をして…悪かった…。だが、この天界を生んだのは私。そして、天界を裏切るものを出したのも、やはり、私なのだ」
「そんなことは!!我らの力が及ばず、こうなってしまっただけのこと!ディリスメリ様にはなんの落ち度もございません!!このラートインス、ヘティーナ、他、天界の天使で、この天界を守り抜いて見せます!!」
「……できるのか?」
「…え…?」
「それが、出来ていたら、数万年も、このような闘いが続いたはずが無かろう。このディリスメリが弱ったのは、間違いなく、キンリジライの魔術のせいだ。空、大地、海…それらを奪えば、このディリスメリの命が失われる…。奴らは、それを知っていた…」
「何故、キンリジライにそのようなことがわかったのですか!?」
「奴は…天界の生まれではない。むろん、魔界の生まれでも…。奴は、人間だ」
「!!??」
ラートインスは言葉を失った。そんなはずはない。人間が、天界の王、ラートインスを脅かすほどの魔力を持つはずがない。
「…まだ、分からぬか?ラートインス…」
「………」
ラートインスは頭の中で、ありとあらゆる可能性を探った。しかし、その頭に、浮かんでくるのは、空想ですらない。妄想ですらない。予想ですらない。まるっきり、心当たりがない。
そして、ディリスメリが、重い口を開いた。
「雲母…琥珀…と言う子供を…知っているな?」
「雲母…琥珀…。ス…スチカサート…?」
ラートインスは蒼白した。
そう。ずっと、雲母家は、魔界から人間界を守って来たのではない。魔界は、人間界から生まれたのだ。その発端が、雲母家の存在だったのだ。キンリジライは、雲母家の末裔。もともと、人間界から、魔界がうまれたのだ。
琥珀は…魔界の使者―――…だった。
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