第7話 サトファリアが死んだ!?

「ねぇ、李襟」


「ん?」


「雲母くんと、最近仲良いよね?」


「え!?」


あからさまに反応してしまう李襟。サトファリアの時は、ナトイレルンを、『大馬鹿』呼ばわりすると言うのに…。


「雲母くん、てっきり、かと思ってたけど、李襟とは話すんだよねぇ…。なんで?」


「なんでって…言われても…」


(応えられるわけないじゃない。毎晩現代と異世界を行ったり来たりして、魔物を倒しながら、ゆくゆくは魔界を滅ぼそうとしてる…なんて…)


妃渚ひなぎは、こ、こほん!雲母くんのことが気になってるだけでしょ?」


思わず、と呼びそうになって、慌てて咳払いで誤魔化し、からかってくるような妃渚を、李襟は、逆にからかって見せた。やはり、の世界でも、機転が利く。


「あ、バレた?だって、雲母くん、格好良すぎて、近づきがたいんだもん…。それに、この前、一人で本読んでたから、ちょっと覗いたら、『魔術について』…とかってな本だったのよー!」


(琥珀くん…もう少しこっちの人たちに配慮して、情報収集や特訓をして欲しい…)


少し、うなだれる李襟。


「でも、そこがまた、ミステリアスで良いんだけどぉ!」


(いいんかい!!)


「ねぇ、李襟、合コンセッティングしてよ!!」


「出来る訳ないでしょ!!仲がいいわけじゃないの!!」


「そ、そんなに怒鳴らなくても…」


「あぁ…ごめんごめん。只ね、ちょっと、雲母くんと話をしてたのは、ちょっと訳アリでね。理由は言えないから、申し訳ないけど、合コンセッティングできるような仲ではないの!」


「えぇー!?」


「でもさぁ、雲母くんの、弓道姿、マジ格好いいよね!!」


私と妃渚と一緒にお昼を食べていた小麻乃こまのが、瞳をキラキラさせながら、呟いた。小麻乃は、琥珀と同じ弓道部だ。琥珀の腕前は、当たり前だが、3年生も遠く及ばず、全国大会への出場も決まっていた。


妃渚と、小麻乃が、ぶつくさ琥珀のいいとこ素敵なとこ格好いいとこを、云々言っていると、その張本人の琥珀が、李襟に駆け寄ってきた。


「纐纈!!」


(げっ!!今、異世界の話でもされたら…!!)


「家のおばあ様が…!!」


「き!雲母くん!!どうかした!!??」


妃渚、小麻乃、琥珀、3人の耳が、キ―――――――――ンッ!!と鳴った。


「な、何よ、李襟。そんな大きな声で言わなくても、聴こえるよねぇ?雲母くん」


(わ…悪い…)


琥珀が、目で謝った。


「いや、先生が、学級委員長に用があると…。職員室に来てくれと言っていた」


「あ、ありがとう。今すぐ行く。じゃあね、また明日」


「え?先生に呼ばれただけでしょ?なんで、午後の授業出ない風になってんの?」


「あ…いや…風邪ひいたのを、直接伝えるって、言って置きながら、忘れてたの!」


「風邪?ひいてるの?」


「今ひいたの!!」


⦅無茶苦茶だな…君は…⦆


こそっと琥珀が呟いた。


⦅仕方ないでしょ?緊急事態…なんでしょ?⦆


⦅あ、あぁ…。兎に角、急いで来てくれ!⦆


「じゃあね!」


そう2人に告げると、元気よく、李襟は走って2人の元から離れた。


「「あの子、風邪ひいてると思う?」」






✽✽✽✽✽






「琥珀くん、何があったの?」


「纐纈、大変だ。今宵、レベル150に達したサトファリアに、魔界からの刺客が送られてくることが分かった。おばあ様の弓道魔術の魔境に映し出されたらしい」


「刺、刺客?」


「マテライダの側近たちが、恐らく、10匹程度、まとめてサトファリアを襲ってくる。昼間の間に、君に覚えておいてもらいたい呪文がいくつかある。出来るか?」


「いくつか…って、幾つ?」


「8つほどか…」


「8つ!?嘘でしょ!?呪文言ってる間にやられちゃうわよ!!」


だんだん、サトファリアに似て来た李襟。


「そんなことを言っていても仕方があるまい!やらねばやられるぞ!!」


「んもうぉ!!簡単に言ってくれちゃってぇ!!やればいいんでしょ!やれば!!」


そう言って、李襟は、雲母家に向かい、即席に魔術を叩きこまれた。


「何を言っておる!!娘!!そんな呪文で10匹もの魔物を倒せると思うたか!!」


「何言ってるのよ!!そっちが言えって言ったんでしょ!?」


「もっと魔力を込めろと言っておるのじゃ!!」


「~~~~っっ!!!!んなこと言われたって、今の私はサトファリアじゃないのよ!?」


「この魔境に、写し出された魔物は、異世界の魔物を忠実に映し出す。その魔物に、この現代で勝てなければ、異世界でも勝てるはずがあるまい!!甘っちょろい娘じゃ!!」


「分かったわよ!!琥珀くん!!もっと、強い矢を打って!!魔力たっぷりで頼んだわよ!!」


「…っ!分かった!!ゆくぞ!!」


「来い!!!」


「てやー!!」


思いっきり、琥珀が、弓やを引いた。恐ろしいほどのパワーが込められているのを、ひしひしと、感じる李襟。


そんな、特訓を、4時間に及んで行った。


「しまった!纐纈!!もうこんな時間だ!!もしかしたら、纐纈の家に、魔物が現れているやも知れん!!すぐに戻らねば!!」


「え!?家族も襲われるかもしれないってこと!?」


「十分にあり得る!!」


「なんでそれをもっと早く言わないのよ!!このすっとこどっこい!!」


「…………纐纈李襟…、キャラが壊れて来てはいないか?」


「うっさい!早く戻らなきゃ!!ううん!!こうなったら、今すぐ、ここから転生するわ!!行ってくる!!」


「無事、戻って来いよ!!李襟!!」


「うん!琥珀!!<転生レインカラナチオーネ>!!」





✽✽✽✽✽





「ぬ!現れたか!!サトファリア!ナトイレルン!!」


「あんたたち!人間界まで巻き込もうをしたわね!?そんなこと、私とナトイレルンが絶対許さないんだから!!ね!?ナトイレルン!!」


「あぁ!!…しかし…お前は、この状況をどう見れば、そんな強がりが言えるのだ…」


「強がりでも言わなきゃやってらんないわ!!」


そこに群がっていたのは、10匹などと言う情報とは、余りあるほどの誤報だった。その数、200匹いるだろうか…。それも、レベル30以下はいない。上に至っては、レベル80にも達しそうだ。


いくらレベル150に達したサトファリアと、サトファリアが異世界にいない間、黙々と修行をしてきたナトイレルンでも、この数とレベルはさすがに厳しいと言わざるを得ない。


「兎に角!レベル30から50までの魔物は、ナトイレルン、あなたに任せたわ!!」


「し、しかし!そんなレベルの奴ら、数匹しか…!」


「うるっすわい!!ゆうとおりにしろ!!」


「えぇい!この口の悪い小娘め!!言い方はないのか!?」


「そんなこと、気にしてる場合!?行くわよ!!」


レベルの低い、魔物たちを、ナトイレルンは、切り刻んでゆく。しかし、最初に現れていた魔物たちの数が、何匹切っても、切っても、減ってゆかない。


「くそ!どうなっている!?」

「ふ、そんな方を向いていて良いのか?ナトイレルン!!」


「ぐあぁっ!!」


剣を地に刺し、ナトイレルンが膝から崩れ落ちた。


「ナトイレルン!?」


「構わん!!闘いを続けろ!!」


「くっ!でも!」


「<針雨強ピオッツァディアーギ・フォルテメンテ>!!」


「キャ―――――――――!!」


「グオッィィッぃぃぃぃ!!!」


2人の体に、無数の針の雨が降り注いだ。強烈にスピードのある針の雨だ。2人の体に確実に致命的になる穴が開いてゆく。その呪文は、あるべくしてあるのは、サトファリアのみ使えるはずの呪文だった。針の雨は、強さを増し、ナトイレルンの利き手である右手を中心に刺さり、剣を握るのすら困難になってきた。


「サ…サト…」


「……………」


―――…サトファリアの動きと声が途絶えた。


「サ…サトファリア…?まさか…そんな…」


敵の数は、半数も倒していない。


「はっ!はっ!はっ!サトファリアも、この数、このレベルの魔物相手では、お前など、いてもいなくとも同じだったということか…。残念だったな。ナトイレルン。サトファリアの息の根はまだ止めない。マテライダ様に差し出すからな…」


今回、サトファリアたちを襲って来た魔物たちの本官と思われる魔物、≪コルドフィン≫が、倒れ込む、ナトイレルンの耳に、そう囁いた。


「マテライダ!?まさか、マテライダはサトファリアの秘密を知っているのか!?」


「秘密?さぁな。俺は知らんが、マテライダ様には、ナトイレルン、貴様は殺しても構わんが、サトファリアは生きて連れて来いと言われている。つまりお前の命は、ここで仕舞、ということだ…」


「…な…」


「!?」


「サトファリア!貴様!まだ口を利ける力が!?」


「…口を…利ける…?…冗談じゃないわ!私のこの<輪郭コントールノ>にすべての魔物を誘い込む演技よ!!」


「な!?はっ離れろ!!離れるのだ!!」


≪コルドフィン≫が叫んだ時には、もう遅かった。


「<輪郭以内総焼尽コントール・エントロ・トゥート・ブルーチャロ>!!!」


「「「「「うっっっっぎゃ――――――――――――っっっ!!!」」」」


魔物たちは、サトファリアの作戦により、あっけなく、その大量の味方を失うはめになった。





マテライダの……ならず…。




右腕に、重傷を負ったナトイレルンは、とりあえず、サトファリアの元にずり寄った。


「ほ…本当に…無事、なのか?サトファ…」


「無事なわけないでしょ!!このアホンダラ!!剣士のくせに数匹しか殺せないって何!?あんた、本当に私のパートナーなの!?だったら、だったら、もっと強くなりなさいよ!!」


「!!…す…すまない…」


「ク…兎に角…貴方に<グリアーレ>…を…」


「…?サトファリア…?サトファリア。サトファリア!!」


サトファリアは、ぐったりとうなだれ、動かない。死んで…しまったのだろうか…?ナトイレルンは、もの凄い不安に襲われた。


「サトファリア!!サトファリア!!しっかりするのだ!!サトファリア!!サトファリア―――――――!!!!」
















「うっるさ―――――――――い!!少し休ませなさいよ!!この大馬鹿剣士!!私だって相当傷を負ったのよ!!あんな体力と精神力のいる呪文を使って、すぐ動けるはずないでしょ!!」


「…これから…お前を心配するのは一切やめよう…」

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