第6話 暴かれたサトファリアの秘密と強さ

「昨日は大活躍だったらしいな」


「琥珀くん。おはよう」


朝の挨拶もそこそこに、李襟は、琥珀に、ナトイレルンの気いしていたことを、訪ねた。


「ねぇ、琥珀くん。ナトイレルンが言ってたんだけど、私の魔力は強すぎるって…。それって、何か理由があるの?」


「…ナトイレルンとやらも気付いたか…」


「…って言うと?」


「確かに、君の強さ、つまり魔力の強力さには、秘密があるのだ」


「秘密?」


「君は、元々魔界の魔術師なんだ」


「え!?魔界の!?ど、どういうこと!?」


「話せば少し長くなるが、良いか?」


「うん。構わないよ」


「ならば、話そう。天界での裏切りがあった頃、キンリジライが率いたのが、マテライダと言う魔力を持たないと呼ばれる魔王の側近だ」


「魔力を持たない?」


「あぁ。産まれた時から、マテライダは、魔力を持たなかったと言う。しかし、マテライダは、天界に好きな女がいたらしく、裏切る前にその女のお腹に、自分の子を宿したのを知らぬまま天界を裏切ったらしい。その女は、天界の王、ラートインスの娘、ユメリスと言う女神だったのだ。そのユメリスが、マテライダを止める為、密かに自分の魔力を総べて込め、産んだ娘が、サトファリアだったんだ」


「え?でも、その後、数万年も天界と魔界との闘いは続いているんでしょう?それに、私が魔術師になるまで、人間界からずーっとありとあらゆる人間が、異世界へ召喚され続けている…。それなら、サトファリアは、もう…」


「いや、サトファリアは眠らされていたんだ。天界の<眠部屋ソーノ・カーメラ>と言う世界で。そこは、身体的な成長をある意味妨げながら、しかし、魔力を蓄えることが出来る、部屋だ」


「…じゃあ、サトファリアは、目覚めた…って…こと?」


「あぁ。そう言うことになるな。人間界で、とんでもなくサトファリアの器に相応しい人間が生まれ、ユメリスが、サトファリアの封印を解いたんだ。それで、君がサトファリアとして転生したと言うわけだ」


「じゃあ、もしも、私が魔界に…魔王に負けるようなことがあれば、天界は…」


「あぁ。終わる…だろうな」


「そんな遠回しに言わないで。天界が終わるんじゃない。魔界が総てを支配する、ということでしょ?」


「…そうだ。こんなこと言ったら、纐纈にものすごいプレッシャーを与えることになるが、君…いや、サトファリアが、天界最後の救世主だ。君の言う通り、サトファリアが、やられたら…死ぬようなことがあれば、天界だけではない。人間界も、滅びるだろう…」


「そう」


「!?」


「なら、やるしかないわね。私、いえ、サトファリアが…」


「君は…強いんだな…、纐纈…。普通なら、死ぬのを恐れたり、自分が倒せるはずがないと怯んだり、自分の運命…いや、宿命を恨んだりするものだ。だが君は、臆するところがまるでない」


「だって、私は、この数万年で、最強の魔術師なんでしょ?だったら、私がやるしかないじゃない!怖いだのなんだの言ってられないわ!」


「…よし!今日も、学校が終わったら、雲母家で特訓だ。いいか?」


「分かった」






✽✽✽✽✽





その夜、李襟は、深い眠りについていた。昨夜は、魔物がやってくることを察知し、抜け目なくベッドにすら入っていなかったと言うのに…。


「………」


魔物は、天界で、<ソーノ>を生み出した魔物だった。つまりは、李襟は、眠ったのではなく、眠らされているのだ。現実世界で、完全にその…李襟の命が絶たれれば、異世界への転生も不可能になる。<ソーノ>は、使える魔物が極めて稀だ。それは、天界を裏切り、悪と化した魔物の子孫が使えることは、ほぼない。天界を裏切った、キンリジライの直属の魔物にしか使えないのだ。そのレベルは、30に及ぶ。


端的に言ってしまえば、まだ、数回しか転生していないサトファリアが勝てる相手ではない。マテライダは、時間をかけることを止め、一気にサトファリアの始末を最優先にしたのだ。


その魔物が、マテライダの命で、<ソーノ>を使い、現実世界で李襟…いや、サトファリアの命を絶とうとしたのだ。


「ふ…。このような娘…、この≪ミッドカファイレ≫にかかれば…」


「…それはどうかしら!?」


「!?」


「<転生レインカラナチオーネ>!!」


李襟は、<ソーノ>にかかったふりをしていたのだ。人間界で闘う訳にはいかなかった。人間を、魔界に引き込む恐れがあったからだ。





✽✽✽✽✽





「この小娘…!!俺の<ソーノ>を回避するとは!」


「黙ってやられるわけないでしょ!!あんたの弱小魔術なんて、回避するのは簡単だったわ!!」


「くッ!弱小魔術だと!?俺はレベル30の魔物だぞ!貴様のような口先だけの転生したばかりの魔術師に何が出来る!?はっはっはっ!!ゆくぞ!!<炎包フエーゴ・エンボルトゥーラ>!!」


「キャ――――ッ!!あ!熱い!!」


メラメラと、サトファリアの体が燃え出した。


「ふ…。あっけない…」


「………どうだか…?」


「な!なに!?」


「<冷雨ピオッザフレッダ>!!」


極寒の雨が降り注いだ。その水で、サトファリアの炎は完全に消えた。しかし、サトファリアは、かなりの重傷を負った。


「サトファリア!!」


「ナトイレルン!!おっそいわよ!!この大馬鹿!!死ぬとこだったじゃない!!」


「相変わらず口の悪い女だな!!」


「うっさい!癒しの呪文を唱える間だけでも、時間を稼いで!!」


「分かった!!≪ミッドカファイエ≫!次は俺が相手だ!!テヤ!!」


キン!バキ!ギン!!


2人の剣が相対する音が、響き渡る。しかし、


パキ―ンッ!!


「くっ!」


ナトイレルンの剣が、≪ミッドカファイエ≫に跳ね飛ばされ、ナトイレルンは丸腰になってしまった。


(くっ!あんの馬鹿!!)


「<グアリーレ>!!」


癒しの呪文を唱え、完全に復活したサトファリアは、ナトイレルンに叫んだ。


「ナトイレルン!貴方の剣を、貴方の手に帰還させる!!呼び込む準備を!!」


「ど、どうすれば!?」


「んもぅお!!あんた、本当に剣士なの!?自分の剣を手に吸いついて来るようなイメージを持つの!!出来るわね!?」


「いちいち人を馬鹿にせんと、指示できんのか!?」


「うるっさい!!行くわよ!!<帰還リトールノ>!!」


数十メートル突き飛ばされた剣が、ナトイレルンの手に帰還した。


「ナトイレルン!!この魔物の弱点は無いの!?」


「この魔物は術師だ!サトファリアの魔術より、俺の剣の方が効くだろう!!」


「じゃあ、貴方の剣に呪文をかける!!」


「そんなことはさせない!!<強化縛付拘束ララッフォツァーレ・グラーストック・レテニュ!!」


「ひゃ―――――っ!!」


強力に、サトファリアが拘束された。ナトイレルンは、必死でその縄を剣で引きちぎろうする。


「し…しば…縛られたって…呪文…くらい…」


「ふ。そうはさせるか!!<口塞ボーカ・ブロッカーレ>!!」


「むぐぐ!!」


≪ミッドカファイエ≫の呪文で、サトファリアの口が塞がれてしまった。はっきり言って、ナトイレルンの剣の腕は、サトファリアと共に強くなる。つまり、サトファリアの呪文が無ければ、強化も、進化も、成されないのだ。


「サトファリア!!」


「この小娘がいなければ、貴様ごときの剣士、倒すのは造作ない!出来るものなら、かかって来い!!」


「くっ!」


ナトイレルンは、一応、剣を構えるが、いきなり、レベル30の魔物に勝てるほどの腕は、今のナトイレルンには、正直、なかった。


(どうすれば…)


(聞こえる?ナトイレルン!)


「サ!」


(し!静かに!これは、<通信テレパシア>と言う頭の中で唱える呪文。貴方にも私の声が聞こえるし、私にも貴方の声が聴こえる。そして、例え、<テレパシア>でも、実際に唱えるのと同じ効果がある)


(な、なんと!?サトファリア、お前、そんな力まで…!)


(私、現実でも相当実践を踏んでるの!舐めないでくれる!?)


(で、どうすれば…)


(このレベル30を相手に、普通の呪文では太刀打ちできない。方法はただ一つ。ブラックホールへ堕とす!)


(ブラックホール!?しかし、その入り口を開けるには、魔術師がレベル150には達していないと…。ま、まさか…!?サトファリア、お前、もう、レベル150に達していると言うのか!?)


(知らないわよ!!)


(なにぃぃぃいいい!!??)


(でも、この状況で助かるには、これしか方法がない!!やってみるしかないわ!!)


(む…かなり危ういが…仕方あるまい!唱えてみてくれ!!)


(行くわよ!!<黒穴落アベクロネグロ・ゴッチョラーレ>!!)


「!?な、なんだ!?何が起きた!?」


≪ミッドカファイエ≫の足元に、黒い穴が広がりい出した。


「ま、まさか!これは…!<黒穴アグヘロネグロ>!?そんな馬鹿な!?サトファリアのレベルが150にまで達しているとでも言うのか!?そ、そんな…あ、ああぁぁぁぁぁあっぁあああああ!!!!」


≪ミッドカファイエ≫は、ブラックホールへ、消えていった。




「ふぅ…」


口を塞がれていた、サトファリアが、大きく息を吐いた。


「サトファリア…お前は、化け物だな…」


「その言い方はやめて欲しいわ。とでも、言ってちょうだい!」


そう言って、長い髪をかき上げ、にっこりと笑った。



こうして、あれよあれよという間に、サトファリアの魔力は、レベル150にまで、達していたのだった―――…。

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