第2話 異世界の始まりと、初めての闘い

「起きろ。起きるんだ」


「………」


誰かの声が聴こえる…。誰だろう?何だか、聞き覚えのある声だ。しかも、何だか、とても愛おしい声だ。


「目を開けられるか?…」


(サ…、サト…?)


誰を呼んでるの?その人の声は、私の耳に向かって飛ばされているよに感じたが、私の名前は、纐纈李襟。なんて、私の名前には一文字も入っていない。


「良い加減、目を覚ますんだ、サトファリア!」


「…ん…」


私は、何とか目を開けることに成功した。光が眩しい。


(おかしいな…。私…夜眠れなくて…、リビングに…リ…?)


「きゃあぁぁ!!!たすけてぇええええ!!!」


バシ――ン!!!


私は、そこにいた人に、思いっきり、ビンタを喰らわせた。


「お前…それが保護してやった奴に対する仕打ちか…?」


低い声で、私を責める男の人の声が聴こえた。ぼやけていた視界が、ようやく、鮮明になってゆく。


「…!?き!!雲母くん!?」





そう。横たわった私を支えてくれていたのは、雲母琥珀くんだった。


「俺は、ナトイレルン。剣士だ」


「ナ…?」


「ナ・ト・イ・レ・ル・ンだ!!」


「ど、どういうこと?雲母くん」


「雲母?ほう…あの坊主…こちらの記憶を持っているのか…大したやつだ…」


「何を言ってるの?」


「よく聞け。サトファリア。お前は、現実の世界で、悪魔によって襲われた。しかし、俺…いや、雲母琥珀のおかげで、お前は、この世界に転生することが出来たのだ」


「て!転生!?」


「そうだ。いわば、異世界、とでも言えばよいだろうか」


「い!異世界!?」


「いちいちうるさい娘だな…。サトファリア、そんなことより、大事な話が…」


「どうして?なんで?転生?異世界?殺された?雲母くんが助けてくれた?何?何が起きてるの?」


ぶつぶつ私はお経の様に呟き続けていた。


「サトファリア…」


「だって…そんなことあり得ない…だって、こんなことゲームや、漫画の中だけの話よ!こんなことが実際に起こっていたら、人間界崩壊よ!?」


私は、まだ、ぶつくさ言っていた。すると、しびれを切らした、ナトイレルンが、大声を上げた。


「サトファリア!!良い加減、俺の話を聞くんだ!!」


「は!はいぃぃ!!」


私は、やっと、正気に戻った。…と言うより、怒られたので、話を聞かないわけにもいかなくなったのだ。


「良いか、サトファリア。お前は、人間界では、殺された。この世界の魔物にだ。なぜなら、サトファリア、君は魔王の天敵だからだ」


「ま!魔王!?」


「…お前は、本当にうるさい娘だな…。雲母琥珀には、もっと冷静な奴だと聞いていたが…」


「だって…でも…貴方が、雲母くんじゃ…」


「ない!と言っているだろう!俺は、ナトイレルンだ。君と、魔王を倒す為に、天界から遣わされた剣士だ。君は、この世界で最強と呼ばれる、魔術師なのだ」


「わ…私が、魔術師?そんなわけないじゃない!魔術なんて、聞いたことも、勿論、使ったこともないわよ!!」


「だからこそ、俺が居るのではないか。この魔術書を読み、とにかく勉強するんだ!!そして、現実が夜のうちに、纐纈李襟を殺した魔物を見つけ出し、退治するのが、サトファリア、君の役目だ」


「…?よく…分からないんですけど…、私、殺されたの?」


「あぁ。現実ではな。だが、現実の昼間になるまでに、魔物を退治することが出来れば、纐纈李襟は死なずに済むのだ」


「…そう…なの!?」


私は、一気に明るくなった。殺された、と聞いて、絶望していた私に、その言葉は、奇跡にも近かった。


「どうすれば良いの!?どうすれば、私、元の世界に戻れるの!?」


ナトイレルンの首をグラグラ揺らしながら、私は問いただした。


「は!話!を!き!け!」


揺さぶられて、切れ切れになった言葉に、私は、何とか、冷静さを取り戻し、ナトイレルンの話を聞くことにした。





✽✽✽✽✽





「現実の纐纈李襟は、これから、毎晩、魔物によって襲われ、恐らくは、殺されるだろう」


「えぇ!!??」


「…良いから、続きを聞け」


「あ、す、すみません…」


「しかし、相手は、人間ではない。この異世界から魔王によって遣わされた魔物たちだ。人間である纐纈李襟に、敵う相手ではない。そのため、お前は、纐纈李襟が殺された瞬間にこの世界にサトファリアとして転生し、現実で纐纈李襟を襲った魔物を退治し、現代が昼間になったら、また、纐纈李襟として、暮らすのだ」


「そ、そんな…!むちゃな!!」


「無茶しないと、お前は、死ぬぞ?サトファリア」


「そ、そんなぁ…」


泣きべそをかきそうな私に、ナトイレルンは、こう言った。


「そう、悲観的になるな。サトファリア。現実では、あの坊主がお前を守るだろう。そして、この世界では、天界最強と呼ばれる剣士、ナトイレルンが付いている。少しずつでいい。強くなり、魔界を滅ぼすのだ。出来るか?」


「出来ない…と言っても、やらなきゃいけないんでしょ?」


「ふん。さすが、雲母琥珀が選んだ娘だけはあった…と言うことか…」


「え?」


「雲母琥珀は、魔王を倒すには、この娘が良い、と、この世界に転生してきた時、俺の頭にシンパシーを送って来たのだ」


「雲母くんが?」


「そうだ。まぁ、奴が、こっちの世界の記憶が残っているなら、話が早い。サトファリア、出来るな?」


「…はい。で…まずは、どうすれば…」


「まず、今夜、お前を殺した魔物を倒す必要がある。どこにいるかは、お前が知っているはずだ」


「え?知らないですけど…」


「馬鹿なのか?お前は…。魔術を使うのだ」


「ば!!」


ムッとしたが、そんなサトファリアを無視し、ナトイレルンが、一冊の魔術書を取り出し、サトファリアに差し出した。


「まずは、取り押さえろ」


「は、はい!」




サトファリアは、魔術書を開くと、第一の魔物を探す呪文を、唱えた。




「<探第一魔物ヤットルボ・プリメーロ・モンストルム>!!」




すると、魔術書が、光りだし、地図が浮かび上がったかと思うと、一点の場所で、光が点滅した。




「よし。ゆくぞ」


「はい?」


「空を飛ぶ呪文を唱えろ!」


「は!はい!え…と…」


「早くしろ!!」


「分かってるわよ!!<ヴォラーレ>!!」




✽✽✽✽✽




「き、貴様ら!!どうしてここが!!」


「ふ…。お前くらいの下等魔物でも、分かるだろう。このむ…サトファリアがどれだけ優秀な魔術師か…」


「ゆけ!!サトファリア!!」


「は!?はい―――――!!??」


ナトイレルンに背中を押され、魔物との距離が一気に近くなる。


(ど、どうすればいいっつーのよ!!)


「この小娘め!!この世界でも喰らってくれるわ!!」


「もう!!<鎖拘束カティーナ・レテニュ>!!」


そう唱えると、いきなり、魔物の体を鎖が拘束した。


「ぐぐっ!!」


「<フォルテメンテ>!!」


「グオ――――――!!!」


更に、きつく、魔物に巻き付いた鎖が魔物を縛り上げた。


「いっくわよー!!!覚悟しなさい!!私を襲ってくれちゃった魔物さん!!」


「ぐうううぅううう!!!」


「<破滅ウイルーナ>!!!」


「うわ―――――――――・・・………!!」


その呪文で、魔物は、欠片一つ残さずに、消えて失せた。


「こ…これは…」


「はぁ…怖かったぁ…」


へたへたと、サトファリアは、その場にへたり込んだ。


(なんという魔力…。やはり、この娘…ただ者ではないな…)


「ねぇ、ナトイレルン、この後、私、どうしたら良いの?」


「帰るんだ。元の世界へ。そして、また、殺されて来い」


「…恐ろしいことをサラリと言うのね…」


「また明日、で待っている…」


そう言うと、ナトイレルンは姿を消し、サトファリアもまた、意識を失った―――…。






「李襟ー。起きなさーい」


「…うん…ん…?」


「李襟、いつまで寝てるの?学校、遅刻するわよ」


「…ゆ…め…?」


しかし、その胸には、が抱かれていた。


「本当…だったの?夢じゃ…なかったの?じゃあ、今日、雲母くんに逢ったら、すべてが、分かる…?」






✽✽✽✽✽





「お、おはよう。雲母くん」


「あ、おはよう。纐纈。昨日は、大変だったな」


「…やっぱり、夢じゃないのね?」


「あぁ。俺の意志は、にはないが、こっちで、呪文の特訓をしたり、色々手伝えることがあるだろう。一緒に、魔王を、倒そう。纐纈李襟」


「…うん。うん!雲母琥珀くん!!」





こうして、私のとの二重生活が始まったのだ――…。

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