今宵も夜だけの異世界へ

第1話 纐纈李襟の死

その夜は、突然やって来た。

なんの、前触れもなく、なんの、知らせもなく、なんの、構えをする暇もなく…。


私、纐纈李襟はなぶきいえりは、今年5月23日、16歳になった、高校1年生だ。


その日、学校で、あることが起きた。しかし、それは、まったく、この夜に起こることとは、結びつかない…そう思っていた。





「纐纈」


「…き、雲母きららくん…!?な、何?」


私は、あからさまに動揺してしまった。なぜなら、話しかけてきたのは、入学式から、雲母琥珀きららこはくと言う、男子生徒だったからだ。


突然、話しかけられ、あからさまに驚きはしたが、私は、なんとか、平静を装おうとした。私は、学級委員長。の雲母くんが、話しかけて来たということは、私に、何か相談があってのことか…?と、考えたからだ。


相談に乗るには、自分が冷静である必要がある。…と、態度に出してしまったが、今からでも、遅くはない。冷静に、彼の相談に乗ろうではないか。


しかし、雲母くんは、とんでもないことを言い出した。


「君、と言うものを信じるか?」


「はい?」


私は、あっけにとられた。やはり、雲母くんが、ぼっちの理由が分かる。この人は、多分…変人だ。


「私は…ゲームや、漫画、アニメは、ほとんどやらないし、見ないので、信じるも何も、興味すらないの。ごめんね」


「そんなことは聞いていない。を信じるか?と聞いている」


「…どう違うの?」


「違うだろう。どっからどう聞いても、違うだろう」


「どうだろう…。私には、同じに聞こえるけど…」


「…ならば、君は、自分で体験するまで、信じない、と言うのだな?」


「…体験?バーチャルのゴーグルでもかけさせられるのかしら?」


私は、少し、腹が立ってきた。いつまで、こんなくだらない話に付き合わなければならないのか…。


「ならばいい。少しでも、でも役に立てれば…と思ったのだが…」


「はい?」


「いや、もういい。気にしないでくれ」


(はぁあ!?)


訳の分からない、話に付き合わされたうえ、それについて、なんの説明もなく、気にするな?なんじゃそりゃ!!


私は、ご立腹だったが、なんとか、心の中に…いや、お腹の中に仕舞い、その日の学校生活を終えて、家に戻った。




「何だったのよ!あれは!!」


私は、家に帰ってから、雲母くんへの怒りを、自分の枕にぶつけた。ボフッと壁に叩きつけられた枕が、ぽとりと、寂し気に落ちた。


「異世界!?体験!?そんなもの、ある訳ないだろう!!」


私は、ベッドにダイヴした。


「ふー…」


と、少し息を吐き、悲しくなった。


なぜ?


それは…、私が、雲母琥珀に恋をしていたからだ。雲母琥珀は、ではあったが、なぼっちだった。その容姿は、素晴らしかっのに…。183㎝の長身、クシャッとした癖のある、少し長めの髪型。顔は、小さくて、目は切れ長。非の打ちどころがなかっない、美少年。しかし、まるで、協調性がないからか、部活は、数多ある個人種目でも、誰しもが、一度は、憧れたことがあるのではないかと思われる弓道部。しかも、珍しく、小学校1年生の時から叩き込まれた、まぁまぁの…いや、かなりの、腕の持ち主だった。


私は、その弓道をしている姿を一目見て、…簡単に、恋に墜ちてしまったのだ。


しかし、今、私は、自分の本能を疑ってならない。あの美少年が…あの弓道有段者が…、のくせに、陰では、私のように、キャーキャー言われている彼が、私に話しかけてくれたことが、何より、嬉しかった…、のに…。


!?!?ふざけんな―――!!!人を馬鹿にして――――!!!あんな人だとは思わなかったよ―――――!!!」


私は、完璧に、からかわれたのだと思った。雲母くんは、私の気持ちを知っていて、からかってやろう、などど思ったのだろう。学級委員長である、私をからかえば、他の男子や、女子にだって、私は、笑いものにされてしまうだろう。


そんなことの為に、私に話しかけて来たのかと思うと、もう…どうしようもなく悲しかったのだ。





その夜、私は、中々寝付けなかった。


泣いていた。明日、どんな顔で、雲母くんに逢えばいい?


『どうせからかったんでしょ?』


って、ツンケンすればいい?


『まぁ、そんなに気にしてないから、安心して』


って、大人ぶればいい?


『昨日はよくもあんな訳の分からないこと言ってくれたわね!!』


って、怒ればいい?





そのどれも、出来そうになかった。私は、それでも、雲母くんが…すきだった。





そして、寝付けなかった私は、ベッドから這い出し、キッチンへ向かった。冷蔵庫を開けると、麦茶を取り出して、コップに注ぐと、ぐびぐび一気に飲み干した。



ガシャ――――ンッ!!


「!?」


リビングの方から、ガラスの割れるような音がした。


「な、何!?」


私は、驚くと同時に、言い知れぬ恐怖におののいた。その恐怖は、現実に、私の元へとやって来た。


「お前が……いや、纐纈李襟か…」


「…え…?サ…?え…?」


そこには、ナイフを持った見るも恐ろしい化け物が、佇んでいた。


「お前を、生かしておくわけにはいかない。魔王様の世界制覇に、恐ろしく邪魔な存在だからな…。悪いが、死んでもらうぞ!!」


「キャ――――――――!!!」


















こうして、高校1年生、纐纈李襟は、短い生涯を終えた―――…。















はず、だったのだが―――…。

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