第9話能ある鷹

大河「亜弥さん、亜弥さん!」

亜弥はハッとして意識を車内に戻した。

大河と亜弥が到着したのは、空港だった。


大河「亜弥さん、亜弥さん。空港って警察とか麻薬犬とかいっぱいいますよね?」

亜弥「ちょっと、キョドらないでもらっていい?」

大河「すいません」


亜弥は携帯で邪意識一覧を開くと、邪意識レベル1のボタンを押した。


挨拶魔(ハイジャック) 危険度レベル1

この邪意識は人間に入り込むとされている。

邪意識が入り込んだ人間は、目に映る生き物が皆、親しい友人のように見えるという。その結果、見ず知らずの他人や動物ですら優しく、元気な挨拶をするということが判明した。挨拶を返す人間に対しては親切にするが、挨拶を返さない人間に対して、あからさまに悪い態度を取る、陰で暴言を吐く、誹謗中傷をする、その人の価値を下げる発言を繰り返すなどの復讐をする。物理的な危害を加えることはない。



亜弥「大河くんのその時計って、今動いてないんだよね」

大河は「こっちの話ですか?」と言って右腕につけた銀の時計を亜弥に見せた。

亜弥「そっちしかないでしょ」

大河「ああ、そうなんです。てかよく気づきましたね。多分修理すればまた使えると思うんですけど、結局、動かなくなってから一度も修理せずに普段はこっちの時計使ってるんですよね」

大河は左手の黒いデジタル時計を亜弥に見せた。

亜弥「うん、じゃあ多分分かった。それ解達したら多分針動くよ」

大河「マジですか?なんでわかるんですか?

亜弥「カンだね」

大河「そんなことまで分かるんですか?」

亜弥「いや、正しいかどうかはやってみるまで分からない」

大河の右腕につけた時計は4時を回ったところで針が止まっていた。



空港の中を歩いていた二人は、土産屋のところに、

道行く人に明るく挨拶をし、丁寧な接客をする一人の男がいるのを見かけた。


亜弥「あれかな?」

大河「あのやけに明るい店員ですかね?」

亜弥「ワンチャンあるね」

大河「確かに。人は普通あんなに心を込めて客に挨拶しない。しかもこんなに大勢の人が行き交う空港であんな笑顔を一人一人に振り撒いてるなんて怪しすぎる」

亜弥「それは偏見だよ大河くん・・・」

大河「いや、僕のカンがあの人には邪意識が入ってると言っています」

亜弥「かもね。じゃあ、私が話しかけに行くから、その隙に時計の光をあの人に当ててみて」

大河「わかりました」

大河は、天井から伸びた光を時計に反射させると、それを誰もいないところに向けて光の位置を確認した。


亜弥「あ、すいませーん。化粧品探してるんですけど」

亜弥は店員の男に声をかけた。

「いらっしゃいませ。化粧品でしたらこちらにございます」

男は爽やかな笑顔を亜弥に見せると、化粧品の並ぶ棚まで案内した。

それに合わせて大河も二人が見える場所まで移動し、そこにしゃがんだ。

亜弥「ちなみに、お兄さんのおすすめとかって聞いてもいいですか」

男「おすすめですか、そうですね。今回は贈り物用ですか?それともご本人様用ですか」

亜弥「ああ・・・ええっと、、ご本人用です」

男が「そうでしたか。それでしたら・・」と言って棚に手を伸ばすと

大河の腕時計の光が、男のズボンに当たった。

男「お客様の場合はもう既にお肌もすごく綺麗ですので、日頃から良いものをお使いかと思うのですが」

亜弥「いえいえ、そんな。ありがとうございます」

亜弥はそう返事をしながら大河に向かって目で合図を送った。

大河「え?何?」

男「こちらはいかがでしょうか?」

亜弥は男から渡された化粧品を受け取りながら大河の方を向いて両方の眉を上げ下げした。

亜弥「えええー!かわいいー!これ、素敵ですね」

大河 (え?なに?目?目に当てんの?)

男「かわいいですよね。お客様にとてもお似合いですよ」

亜弥「ええー本当ですかあー?とか言って、それってみんなに言ってるんじゃないんですかあー?」

男は「いえいえ」と言うと自分の顔に当たる光を手で遮ってから

「こちらの商品は本当にお綺麗なお客様にだけお勧めしてます」と言った。

大河「・・・何も起きないぞ。時計も何も変化ない・・・」




数分すると、亜弥は化粧品の入った袋を持って店から出てきた。

大河「なに買ってるんですか!」

亜弥「いやあ・・・あの接客は購買欲を上げますわ」

大河「亜弥さんもああいうの引っかかるんですね」

亜弥「なに騙されたみたいに。あそこまで親切にしてもらったら何も買わずに帰れないって気持ちになっちゃうよね」

大河「なにやってるんですか」

亜弥「いいじゃん別に。私のお金なんだから。てか彼じゃなかったね・・・」

大河「そうみたいですね。ていうか僕気づいたんですけど、

店の外から一生懸命働いてる人の顔に時計の光あててるって相当な変質者ですよ」

亜弥「アハハハ、確かに。大河くんが逮捕されるね。でも銃持ってるわけじゃないんだからいいじゃん」

大河「やめてくださいよ」

亜弥「アハハハハ。ごめんごめん。じゃあ次はプランBで行きますか」

大河「最初から別のプランがあるなら言ってくださいよ」

亜弥「まあ、その前に次の目星をつけないとね」



大河と亜弥は再び辺りを見渡しながら歩き出した。

大河は前方に、一人の警察官とリードに繋がれたシェパードを見つけ、顔を背けた。


大河と亜弥がその警察官を通り過ぎようとした時、警察官は二人に声をかけた。

警察官「お!おはようございます!」

亜弥はにっこりと微笑み「おはようございます」と返した。

大河 「・・・(やばい!警察だ!亜弥さん!だから言ったじゃん!)」

大河は誰が見ても分かるほど明らかに動揺していた。


警察官「すみませーん。ちょっといいですか?

今、館内の厳戒警備中でして、ご協力いただけませんか?」

亜弥「ああ!そうですか!全然大丈夫ですよ!」

大河 (ちょっと亜弥さん、まずいでしょ)

大河「厳戒警備?なんでですか?」

警察官「なんで?仕事だから。お兄さんもしかして、そんなこと気になるってことは危ないものとか持ってるんじゃない?」

大河「は、はあ?!持ってませんよ!いいですよ。じゃあ好きに調べてください!」

警察官「そうさせてもらいますね」

亜弥「えー、怖い。悪い人とかいたんですか?」

警察官「そうなんですよ、テロリストとか、密輸してる人がいるみたいで・・・急いでるところすいません。一応皆様の安全の為に」

亜弥「そうなんですね。お勤めご苦労様です」

亜弥は敬礼をすると、警察官はニコッと笑い敬礼を返した。

警察官「で、お兄さん、ちょっと触るけど我慢してね」

警察官は大河の服やズボンのポケットを細かく調べた。

大河「なんなんですか、お巡りさん、これってちなみに任意ですよね。僕に協力する義務はないんですよね」

警察官「何かやましい物を持ってる奴ほど、そう言うんだよ」

しばらく警察官は大河のボディチェックをしたが、何も見つかることはなく、「何もないね。残念」と言った。

大河 (ざ、残念?なんだこいつ。こんな奴が警察やってていいのか?」

警察官「お姉さんもごめんなさい。念のために、リュックの中見させてもらっても大丈夫ですか?」

亜弥は「大丈夫ですよ」というとリュックを警察官に渡した。

警察は亜弥のリュックの中をくまなく探したが何も怪しいものは見つからなかったので「ご協力ありがとうございました」と言って亜弥にお辞儀をし、大河を睨みつけてから去っていった。


大河「なんだあれ!ガン飛ばしてきた!」

亜弥「まあまあ、そんな怒りなさんな」

大河「ていうか!あやさん、どうやって銃隠したんですか?」

亜弥「ポケットに入れっぱだよ」

大河「はあ?!」

亜弥「なに、はあ?って」

大河「ボディチェックされたらどうするんですか?!」

亜弥「でも、されなかったよね。ビビってリュックに入れてたら逆に捕まってたよね?」

大河 (頭・・・・・・ぶっ飛んでる)

大河「その肝っ玉というか・・・無茶というか・・馬鹿というか」

亜弥「ばか?」

大河「いえ!すいません!その強気はどこからきたのかなと思って」

亜弥「んー。まあ、育ち」


その時、亜弥から滲(にじ)みでる何かが、大河に亜弥の常人離れした経験値を感じさせ、大河は頭からつま先まで衝撃の稲妻が走ったような感覚を覚えた。


大河 「・・・なんか生きてきた世界が違う気がするんですけど」

亜弥「まあ、違うよね。育った国も環境も違うし」

大河 (この人は本当に23歳なのか?)

亜弥「でさあ、あの人に時計の光当ててみようか」

大河「え?警察にですか?!」

亜弥「そう」

大河「まずいですよ。亜弥さんの銃が見つかったらどうするんですか」

亜弥「だから、キョドらないでもらっていい?」

大河「すみません」

亜弥「じゃあ、プランBね」

大河「プランBですか?」

亜弥「うん、名付けて、プラン・アイソレーション」

大河「どういう意味ですか?」

亜弥「大河くんが一人で警察に話しかけに行って、話しているすきに彼の目に時計の光を当てる」

大河「無理ですよ!」

亜弥「無理じゃない。最初から決めつけるな」

大河は亜弥の気迫に少し怯んだ。

大河「ていうか、なんでさっきから目に光当てるんですか?」

亜弥「私は、あの邪意識は人の眼球に入り込むと思う」

大河「眼球・・・だから目に・・・」

亜弥「そういうこと」

大河「でも、もう一回話しかけに行くのはきついですよ。不自然じゃないですか?」

亜弥「やるの?やらないの?できるの?できないの?できるけどやらないの?どれ?」

大河「や・・・やります」

亜弥「じゃあ、はい」

亜弥はリュックの中からボールペンを取り出して大河に渡した。

亜弥「これ落としましたよって言って警察に渡しな」

大河「え?さっき盗んだんですか?」

亜弥「バカ?私のボールペンだよ」

大河「バレるじゃないですか!」

亜弥「あの警察も同じボールペン持ってたじゃん。安物の。どこでも売ってるやつ」

大河「そんなとこまで見てたんですか」

亜弥「見るでしょ」


大河は先ほど車内で話していた亜弥の言葉を思い出した。


亜弥「普通におしゃべりするよ。てか警察に見つかるって何?何したら警察に見つかるの?」

大河「もしもの時ですよ。もし銃を持ってるのが見つかったら」

亜弥「まあ、その時は、その時の状況見て切り抜けると思うけど、

最悪、全部やってダメだったら協会に揉み消してもらうね」


大河は亜弥の頭の回転の速さに再び鳥肌が立つと、

ボールペンを受け取り、警察官の元まで走って行った。

大河「あの!すいません」

警察官「お!こんにちは!どうされました?ってさっきのお兄さんか」

大河「あの、ボールペン落としましたよ」

警察官「盗んだ?」

大河「おい、ふざけんなよ」

警察官「なに?」

大河「さっきからお前態度悪いよ、そんなんで公務員やってんの?」

警察官「税金返せってか?あれ、ちょっと待って」

警察官は大河の両腕を見ると「なんで両手に腕時計してるの?」と言い、大河の右手を持ち上げた」

警察官「高そうな時計だね。盗んだ?」




亜弥「大河くん!!!!」

次の瞬間、大河は警察官の胸ぐらを掴んでいた。


警察官「はい。終わり」


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