第8話田中亜弥

亜弥「大河くんさ」

大河「はい・・・」

亜弥「能ある鷹は爪を隠すって知ってる?」

大河「はい・・・・」

亜弥「邪意識!お前を解達する!」

大河「はい・・・」

亜弥「あれ・・・カッコよかったね」

大河「やめてください」

亜弥「こい!俺のナバーナ!!!」

亜弥は自分の胸の前に右腕を出すと、大河が滝の前でとったポーズを真似した。

大河「もうやめてください〜」

歩夢「アハハハハ。そんなにいじめるなよ亜弥ちゃん」

亜弥「いや!だって死にかけたんですよ?」

大河と歩夢は、亜弥が入院する病室にいた。


歩夢「1週間の入院で大丈夫なんでしょ?」

亜弥「1週間の入院って相当でしょ!」

歩夢「アハハハ。そうだね。まあまあ、二人の命が無事だっただけでも奇跡なんだから。ポジティブに行こうよ」

大河「本当にありがとうございました歩夢さん、亜弥さん」

亜弥「大河くんは1週間、私の部下ではなくパシリに降格しました」

大河「はい!なんでも言ってください。チーズバーガーセット。買ってまいりました」

大河は亜弥の前にあるベッドテーブルに紙袋を置いた。


歩夢「亜弥ちゃんも、報告書の書き方次第ではめっちゃ怒られるからね。それ、出す前に俺が一回チェックしてあげるよ」

亜弥「本当、何から何まですみません」

歩夢「気にしないで。二人とも無理せず今はゆっくり体を休めなよ」

歩夢は「一服してくる」と言うと病室を出ていった。

大河「いやー、それにしても本当に

あの時、歩夢さんが帰ってきてくれてよかったですね」

亜弥「そうだね。マジで死ぬかと思った」

大河「亜弥さんはいつ、歩夢さんがいることに気づいたんですか?」

亜弥「大河くんが時計で遊んでる時」

大河「ああ・・・すいません」

亜弥「しかも大河くん、私からナバーナ取り上げたでしょ」

大河「いや、取り上げたというか、僕のポケットに入れてたの忘れてました」

亜弥「おそろしい。しかも川で私のこと持ち上げた時、おもっ!って言わなかった?」

大河「ええ?!起きてたんですか?!」

亜弥「いや、何故かそれだけ覚えてる」

大河「すいません」

亜弥は「重くてすいませんね」と言いながら、

テーブルに置かれた紙袋を開けるとハンバーガーとダイエットコーラを取り出した。

大河「でもあの時、もし歩夢さんがウチに

ライターを忘れてなかったら・・・」

亜弥「忘れてるわけないやん!忘れたとしてもライターなんて取りに帰るわけないやん!」

大河「ええ?」

亜弥「私だけじゃ心配だったんだよ、きっと」

大河「え?」

亜弥「そんで私は歩夢さんが心配した通り、

レベル5の邪意織を見落として、大河くんを危険な目に合わせちゃった・・・本当ごめん。1番やらかしてたのは私なんだよね実は・・」

大河「いやいや、何言ってるんですか」

大河は心の中で(この娘は本当に23歳か?)と思った。

大河「亜弥さんのおかげで僕は命を救われましたし、それに僕のナバーナも分かりました」

亜弥は「そうだね、ありがとう」と言うとハンバーガーを一口食べた。

大河「他にも必要なものあったらなんでも言ってください。すぐ買ってきます!」

亜弥「ありがとう。じゃあゲーム買ってきて。自腹で」

大河「はい!今すぐ行ってきます!」

亜弥「アハハハ、嘘だよ!」


それから1週間後、

亜弥が退院するのと同時に大河の銀行口座には

平和協会から30万円が振り込まれた。

大河「さ、30万?!」

亜弥「そうそう。この間書いた報告書が受理されたから私と歩夢さんと大河くん、3人に報酬が振り分けられた」

大河「マジですか?邪意織一体でこんなに貰えるんですか?」

亜弥「邪意織一体って、歩夢さんが解達してくれた清流はレベル5だよ?普通は誰も近づかない」

大河「亜弥さんもですか?」

亜弥「自分からは行かないよ。死ぬもん。普通、レベルの高い邪意織はこんな少人数で扱わない」

大河は1週間前に自分達が置かれた状況が相当危険なものだったことを理解し、鳥肌がたった。

大河「そうだ、そういえばずっと聞くのを忘れてたんですけど、

邪意識って目に見えないんですか?」

亜弥「当たり前じゃん。見えてたら今頃、世界中の人が邪意識のこと知ってるでしょ」

大河「それはそうか。」

亜弥「少なくとも、私には見えない。

邪意識が見えるって言ってる人なんて、占い師くらいだよ。オーラとか言って。協会にもシャーマンっていう、占いとかお祓いで稼いでる人達いるけど」

大河「シャーマンですか?」

亜弥「そう。その人達は給料体系が私たちと少し違って、協会から報酬をもらうんじゃなくて協会からお客さんを紹介してもらって、そこに派遣される。で、お客さんからもらったお金の中から協会に手数料を支払ってる」

大河「ああ、なるほど。シャーマンの人たちも解達できるんですか?」

亜弥「解達どころか、ナバーナすら持ってない」

大河「え?どうやってお祓いするんですか?」

亜弥「心理学だね」

大河「心理学?」

亜弥「大河くんは、プラシーボ効果とか、カラーバス効果って聞いたことある?」

大河「ないですね」

亜弥「大河くんみたいな人は、いいお客さんになる」

大河「え、お客さんを騙してるんですか?」

亜弥「いや、それを騙してるって捉えて、そういう商売に反対してる会員と、心理学を使ってお客さんが前向きになったり、肩の重荷が取れたような気持ちになるならOKでしょって考える会員に分かれてる」

大河「へー。協会の中にも派閥みたいなのがあるんですね」

亜弥「そういうこと。で、話を戻すと多分、大河くんの質問は

なんで邪意識は目に見えないのに、私や歩夢さんは邪意識を解達できたのかってことだよね?」

大河「・・・亜弥さんって頭いいですね」

亜弥「そう?私、中卒だけど」

大河 (中卒なの?!)

亜弥「で、それは言ってみれば、カン」

大河「カン?」

亜弥「大河くんがナバーナを見つけたのはなんで?

なんとなくそれのような気がした。そうでしょ。オーラが見えたわけでもない」

大河「はあ・・・」

亜弥「滝に向かって独りで叫んでたのはなんで?」

大河「なんとなく、滝に邪意識が入ってるような気がして」

亜弥「そういうこと」

大河「はあ・・・」

亜弥「その、"なんとなく"っていう感覚を第六感として感じてるんだって言う人もいれば、それは経験則だって言う人もいる。邪意識を扱ってるうちに、大体こういう物質に人の無意識は入り込みやすいんだよなって分かってくることもあるし」

大河「なるほど。でも、じゃあナバーナは、

どこに向けて使ってるんですか?」

亜弥「なんとなく、この辺に邪意識がありそうだなーって思ったところ」

大河「マジですか?」

亜弥「マジ」

大河「どうやって解達できたかわかるんですか?」

亜弥「ナバーナに影響が出るからすぐわかるよ」

「大河くん、歩夢さんの心霊写真コレクション見せてもらったことある?」

大河「ないです・・・」

亜弥「歩夢さんはチェキ・・・じゃなくて、

ポラロイドカメラを使って解達してるんだけど、

解達すると、いつもキモい写真が出てくるの」

大河「それがナバーナに影響するってことですか」

亜弥「そうそう。私の場合は銃がすごく熱くなる」

大河「なるほど」

亜弥「ということで、これからは大河くんは私と一緒にレベルの低い邪意識の調査に行って、そこで解達してもらう」

大河と亜弥は事務所のパソコンを開いて、邪意識一覧のボタンをクリックした。

亜弥は「じゃあ、これから行くか」と言って上着を着ると、二人は大河の車に乗り込んだ。

大河「あの・・・亜弥さんのナバーナって、銃じゃないですか・・・」

亜弥「そうだよ」

大河「それって・・・銃刀法違反になったりしないんですか?」

亜弥「んー、なるかもね」

大河「なるかもねって・・・それ犯罪ですよ」

亜弥「でも銃じゃなくてナバーナだよ?」

大河「銃でしょ。普通の人から見たら」

亜弥「普通の人から見たらそうでも、ナバーナはナバーナなんだから法律で裁(さば)けないでしょ」

大河「さばけるわ!元々それ自体、本物の銃なんですよね」

亜弥「そうだよ」

大河「じゃあダメでしょ!警察に見つかったらどうするんですか?」

亜弥「普通におしゃべりするよ。てか警察に見つかるって何?何したら警察に見つかるの?悪いことした時でしょ?私、悪いことしないもん」

大河「いやあ、職務質問された時とか。荷物見せてって言われた時とか」

亜弥「大河くんは職務質問たくさんされると思うし、怪しい顔してるから荷物まで調べられるだろうけど、私、荷物見せてって言われたこと一回もない」

大河 (やば・・・頭ぶっ飛んでるな・・・)

大河「もしもの時ですよ。もし銃を持ってるのが見つかったら」

亜弥「まあ、その時は、その時の状況見て切り抜けると思うけど、

最悪、全部やってダメだったら協会に揉み消してもらうね」


大河はそれを聞くと、自分のナバーナが親からもらった腕時計だったことに心から感謝した。

大河 (ありがとう・・・ありがとうお母さん。親父・・・)

大河「亜弥さんも平和協会も恐ろしいですね」

亜弥「そうかな。でもその内慣れるよ」


大河は顔をポリポリと書くと、一息おいてから

亜弥に尋ねた。

大河「あの・・・亜弥さんはどうして平和協会に入ったんですか?」

亜弥は「あちゃー」と言って、額にある治りかけの傷口を叩いて目をつぶった。


亜弥「その質問したのって私が初めて?」

大河「あ、はい。すいません。聞いちゃまずかったですか?」

亜弥「いや、大丈夫だけど、その質問を他の人にする時は慎重にね。みんな複雑なのよ。大河くんも想像できる通り」

大河「あ・・・」

大河は自分が平和協会に入った理由を考えてから亜弥の返事の意味を理解してハッとした。


亜弥「そういうこと」



亜弥はズボンのポケットの上から

自分の拳銃を撫でると、幼い頃の記憶をよみがえらせた。


亜弥の父親は、亜弥が小学四年生の頃にアメリカのロサンゼルスで勤務することになった。


子供の頃から父親が大好きだった亜弥は

「パパについて行く!」と言って意見を曲げなかったので、

最終的に父と二人でアメリカに引っ越すことになった。


しかし英語を話すことができなかった亜弥は

アメリカに引っ越した後、

すぐに現地で友達を作ることができず

毎日泣きながら学校に通う日々を送っていた。


アメリカに引っ越してから3ヶ月程が経過し、

亜弥が日本に帰りたいと思い始めたある日、

亜弥の通う学校にRay(レイ)という男の子が転校してきた。

レイは運動神経が良くユーモアもあり、

すぐにクラスの人気者になった。

日本人の母とアメリカ人の父を持つレイは

亜弥が日本人であることを知ると、

積極的に亜弥に日本語で話しかけてきた。 


レイ「なあなあ!アヤ!アヤは納豆って知ってるよな!」

亜弥「知ってるよ」

レイ「食べたことある?」

亜弥「あるよ」

レイ「ええー!すっげえ!いいな!俺も食べてみてえ!」

亜弥「ウチにあるよ」

レイ「ええ!マジ?食べに行ってもいい?」

亜弥「え?・・・パパに聞いてみる」

亜弥はレイを家に招くと、

亜弥の父はレイを手厚くもてなした。

レイは目を輝かせながら納豆を食べると

すぐに口から吐き出した

レイ「おええー。マッジぃいー」

亜弥「子供にはまだ早いな」

レイ「お前も子供だろー!」

亜弥・レイ「アハハハ」

レイと亜弥は、日本人の血を持つ者同士、

行動を共にすることが多くなり、

いつしか二人は親友と呼べる仲になった。


二人が14歳になった時

亜弥は、レイの家庭が金銭面で問題を抱えていることを知った。

それはレイが地元のギャング集団であるキングスクロスに入団したことがきっかけだった。



亜弥「レイ!大丈夫?どうしたのその怪我?!」

レイ「これで俺もキングスクロスの一員だ」

レイの顔はアザだらけになり、服は破け、

鼻は大きく腫れて血が出ていた。

亜弥「ねえ、レイ。なんでギャングなんて入るの?やめなよ危ないから」

レイ「うるせえなあ、こっちだって色々あんだよ」

亜弥「なに?色々って」

レイ「いちいち聞くなよ。うぜえな!俺の勝手だろ」

亜弥「うざいってなんだよ!レイのこと心配してんのに!」

レイ「余計なお世話なんだよ」

亜弥「はあ?キモっ。じゃあもういいよ。勝手にすれば」

レイ「お前に言われなくてもわかってるよ」


そう言って喧嘩をした二人だったが

次の日レイは溜まり場に行くと凍りついた。

亜弥はキングスクロスに入団していた。

しかし、亜弥の手足はずっと小さく震えていた。

レイ「お前、亜弥!なにふざけたことしてんだよ!」

亜弥「別に私の勝手じゃん」

レイ「はあ?お前、俺たちが何するか知ってんのかよ」

亜弥「知らない」

レイ「お前すぐ殺されるぞ?」

亜弥「じゃあ守ってよ。それか、レイが辞めるなら私も辞める」

レイ「俺は辞められねえんだよ」

亜弥「じゃあ、私も辞めない」

レイ「おいおいおい、マジかよ。てかお前どうやって仲間に入ったんだよ。俺ですらめちゃくちゃ苦労したのに」

亜弥「レイが辞めるんなら教えてあげる」

レイ「クソ」

亜弥「じゃあ今日からよろしく。レイ」

レイ「マジかよこのバカ女」


こうして、二人はキングスクロスの一員になった。


レイ「おい、亜弥」

亜弥「なに?」

レイ「お前死にたくなかったら俺から離れるなよ」」

亜弥「お前もな!」

レイ「なんでだよ」


レイはその後、仲間達からの信頼をすぐに勝ち取り、15歳にして組織の中心メンバーになった。


たまにレイは仲間達と大喧嘩をし、

半殺しにするまで相手を痛ぶることがあったが、それは決まって亜弥のことをバカにされた時だった。

いつしか、キングスクロスの縄張りでは

亜弥に手出しをしたり、からかう人間は誰もいなくなっていた。


レイが16歳になった時

キングスクロスは隣町を縄張りとするギャング集団のウィンヤードと揉めていた。

キングスクロスの内部では、もしかすると

ウィンヤードのスパイが紛れているかもしれないという噂が流れていた。

レイは、これから起ころうとしている抗争と

仲間の中に潜む裏切り者を危惧していた。


亜弥はいつもの溜まり場でハンバーガーを食べていた。

周りではキングスクロスの仲間たちがバスケをして遊んでいた。

レイは亜弥のことをチラチラと見ながら

あたりを右往左往していた。


亜弥「なに?」

レイ「ああ、その・・・えっと。

ちょっと、散歩しないか?たまには二人でスケボーでもしようぜ」



亜弥「うん、いいよ!これ食べたら行くね。新しくできるようになったトリック見せてあげるよ。ちょっと待ってて」


レイは「分かった」と言うと

タバコを吸ってどこかに歩いて行った。


亜弥がハンバーガーを食べ終わり

レイを探していると近くで銃声が聞こえた。


亜弥「レイ?」


亜弥は慌てて銃声の元へ走ると、そこには

血を流して倒れたレイと、亜弥の父親がいた。


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