第6話就職祝い
大河はスーツ姿で実家に帰ってきた。
「あれ?今日誰かの誕生日だったっけ?」
冷蔵庫の中にあるケーキを見て大河は和彦に尋ねた。
「俺と絵里ちゃんにとってはとてもめでたい日だな」
「え?結婚記念日?」
「それは毎日がそうだろう」
「気持ち悪い。・・・なに?」
絵里は2階の部屋から高級そうな紙袋を持って降りてきた。
「あんたの就職祝いでしょうが」
大河「ええええ!!!」
和彦・絵里「就職おめでとう!!」
絵里は大河に紙袋を渡すと和彦と揃ってパチパチパチと拍手をした。
和彦「大変だったー!手がかかったー!長かったー!」
絵里は笑いながら「いやー、あっという間だったよ」と言うと
和彦はそれに続いて「あっという間だったー!!」と言った。
大河は突然の二人からの祝福に驚いた。
大河「ええ!ありがとう。やめてよ泣いちゃうから」
絵里「開けて開けて!」
大河は紙袋から四角い箱を取り出すと、ゆっくりフタを開けた。
和彦「ジャジャーン!」
箱には銀色の腕時計が入っていた。
絵里「大河もサラリーマンになるということで、かっこいい時計をつけなさい」
和彦「良いだろう。俺と絵里ちゃん二人で選んだ!めっちゃ楽しかったよね」
絵里「買うまでに3時間もかかったよ」
絵里は「さ、じゃあお祝いを始めますか」といって冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出した。
左腕を見た大河の腕には黒いデジタル時計が付けられており、
時刻は15:22を表示していた。
歩夢「おかえり」
亜弥は冷蔵庫からペットボトルの水を持ってくると大河に差し出した。
亜弥「じゃあ、最後に見た夢。覚えてる限り全部話して」
亜弥は携帯を取り出すとメモ帳を開き、両手でテキストを打ち込む準備をした。
大河「大丈夫です。わかりました」
歩夢「分かった?」
亜弥「拳銃とか言わないでよ?」
大河「いえ、大丈夫です」
大河はベッドから立ち上がり靴を履いた。
大河「でも・・・行かなきゃいけない場所があります」
大河の車は小さなアパートの前に止まっていた。その隣にはもう一台、歩夢の車も並んでいた。
大河「すいません。汚い部屋ですが」
亜弥は1ヶ月ぶりに入る大河の部屋を見て、大河と初めて会った日のことを思い出した。玄関で靴を脱ぐと亜弥は壁の一部に修理された跡が残っていることに気がついた。
亜弥「ボロっ。こんな部屋だったっけ?」
歩夢「そうか、亜弥ちゃんは一回来たことあったのか」
亜弥「その話はしないでください」
歩夢と亜弥が部屋に上がると、大河は小さなベッドの下に腕を伸ばし、四角い箱を取り出した。
亜弥 (あ、あれは・・・バクダン・・・)
亜弥はその四角い箱の中身を知っていた。
大河は自分と紗綾香の写った写真を箱から取り出した。
それを見ると歩夢と亜弥は二人とも黙って苦い顔をした。
大河は「これです」と言うと
写真の下に隠れていた腕時計を二人に見せた。
亜弥・歩夢「腕時計?」
大河「はい。5回目の夢を見た時、一番最初に見たのはこの腕時計でした。そこから色々あったんですが、最後にはこの腕時計が僕のものすごく大切なもののような気がしました」
歩夢「それが5回目の夢が大河くんに教えたナバーナの正体ってことか」
大河「そうだと思います」
亜弥「じゃあ確認しよう」
大河「どうやって確認するんですか?」
歩夢「邪意識に向かって使うしかない」
亜弥「そう。これから大河くんは私と一緒に邪意識の調査に行く。そこで大河くんのその腕時計を使って邪意識を解達できたら、それがナバーナだって分かる」
大河「・・・・・・もし、・・・もし違ったら?」
亜弥は突然真顔になって「殺される」と言った。
歩夢「アハハハ。レベルの高い邪意識ならな」
歩夢「ナバーナを確かめるときは危険レベルが低い邪意識に使うんだ」
大河「なるほど・・・」
亜弥「じゃあ、早速近くの邪意識の調査に行こう」
歩夢「え?今から?もう夜だぞ」
大河「・・・・・・行きましょう」
歩夢「勘弁してくれよー」
亜弥「そうだよね、歩夢さんご家族いますもんね」
歩夢「家族いなくても普通6時には家に帰るんだよ。しかも今から帰っても8時になるぞ」
歩夢「ていうか大河くんいつも本社行くのに何時に出てるんだよ家・・・」
亜弥「そうしたら、歩夢さんはもう帰ってもらって大丈夫です。元々今日アシストをお願いしたのは大河くんがダイブでパニックになっちゃった時の為だったので。邪意識なら私がついてればほぼ間違いなく大丈夫だと思います」
歩夢「そうか?まあ、俺も2時間のドライブを楽しんだだけになっちゃうけど、そうさせてもらおうかな」
大河「すみません」
歩夢「まあいいよ。大河くんの家も通勤の苦労も知れたことだし」
亜弥「今日はありがとうございました」
歩夢は「それじゃあ」と言うと大河の家を出て車に乗り込んだ。
亜弥は早速、携帯で会員ページにログインすると、"位置情報から探す"というボタンをタップした。
3件の邪意識がヒットしました。
・清流 危険度レベル 5
・カッパ 危険度レベル 3
・インターホン 危険度レベル 1
亜弥は"インターホン"をタップすると説明を読んだ。
インターホン 危険度レベル 1
この邪意識は住宅のインターホンに入り込み、夜中に何度もインターホンを鳴らす。人間に危害を加えることはないとされている。意識の成熟度が低い為、イタズラをしている邪意識だと考えられている。
亜弥は"マップを拡大する"のボタンをタップした。
亜弥「ここから15キロか・・・しかも反対方面」
亜弥は時計をチラッと見てから天井を見上げた。
大河「あの・・・亜弥さん」
大河が亜弥に声をかけると亜弥はビクッとしてから「なに?」と返事をした。
大河「あの・・・今言うことじゃないかも知れないんですけど・・・」
亜弥「なに?」
大河「この間はごめんなさい」
亜弥「なにが?」
大河「いや・・・その、色々ヒドイこと言ってしまって・・・」
亜弥「ああ、いいよ別に。慣れてるし・・・」
大河「あの時、亜弥さんのことを信じてればって今でもずっと後悔してるんです」
大河は銀色の腕時計を見て俯くと、涙が溢れそうになった。
亜弥「いやいや、いきなりあんな話をした私も悪いよ。それに私もヒドイこと言ってごめん。奥さんのこと、大河くんが協会に入るまで知らなかったんだ・・・」
大河「いえ。それでも・・・ここまで付き合ってもらってありがとうございます」
亜弥「まあ、一応教官だしね。私も」
大河「これからもよろしくお願いします」
亜弥「はい、よろしくお願いします。じゃあさっさとナバーナを確かめて今日は帰ろう」
亜弥は携帯に目を戻すと「それじゃあ」と言って大河の顔を見た。
亜弥「カッパとインターホン、どっちがいい?」
大河「カッパとインターホン?」
亜弥「そう。カッパは、この間私がそこの川で解達したやつ。その後の調査として、まだ他のカッパの邪意識が残ってないか調べる。たまに、解達した邪意識でも一部が解達仕切ってなくて、レベルの低い邪意識として漂ってる時もあるから」
大河「カッパは確か危険度レベル3でしたよね」
亜弥「うん。でも近い。あと私の方が強い」
大河「インターホンは?」
亜弥「わからない。でも他の会員によると、カッパより弱い。というか、人に危害を加えないから安全」
大河「でも遠いんですか?」
亜弥「そうそう」
大河は時計を見てから、歩夢が言った言葉を思い出した。
「普通6時には家に帰るんだよ。しかも今から帰っても8時になるぞ」
大河は少し考えてから「カッパにしましょう」と言った。
川まで歩いてきた大河と亜弥は1ヶ月前と同じように携帯のライトで足元を照らしながら暗闇の中を歩いた。
左腕にはデジタルの時計を、右手には両親からもらった銀の腕時計をつけた大河を見て亜弥は「なんかそういうサッカー選手いたよね」と言った。
2人が川のほとりを歩いていると突然、
ゴオーンという大きな音とともに強い風が二人の間を吹き抜けた。
大河と亜弥はブルっと体を震えさせた。
亜弥 (あれ?これって・・・)
大河が「出てきませんねー!カッパ!」と言って亜弥を見ると、
亜弥はその場に立ち止まり携帯を見ていた。
亜弥の顔は携帯の明かりで真っ白く照らされていて、
大河は亜弥の表情にはどこか怯えているような雰囲気を感じた。
亜弥の携帯の画面には
清流 (クリアドラゴン) 危険度レベル 5
という文字が表示されていた。
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