第4話ナバーナと妖精の粉


平和協会のホームページから

会員ログイン情報を入力した大河は

真っ先にホームページの1番端に表示されている"邪意織一覧" をクリックし、検索窓に "水, 自殺"と入力した。


パソコンの画面には

検索の結果1件の邪意織がヒットしました。

と書かれており、その下には

"妖精の粉(ピクシーダスト) 危険度レベル7 【ライフクローザー】"と表示されていた。


大河がデスクで調べ物をしている席の奥では

亜弥が携帯のテレビ通話で会員の打ち合わせに参加していた。


「それじゃあ、今日から亜弥ちゃんよろしくお願いしますね。まずは一緒に協会の研修動画を見てもらって、基礎から少しずつ教えてあげてください。報酬とか、事故処理については山田さんから質問があれば、分かるところは亜弥ちゃんの方で答えてもらって、難しいところは個別の詳細動画で見てもらうか、他の会員に説明を受けるように案内してください」


「はーい、わかりました。よりによって、なんで私が自分のことをエセ霊媒師呼ばわりした男を指導するのか納得できませんでしたけど、頑張りまーす」


亜弥は朝から不機嫌だった。

亜弥の隣で打ち合わせをしてる様子を見ていた田中彰人(たなかあきと)は大河の方を見て、

「山田さん、今日は大変そうだなあ」とつぶやいた。


大河の元にはガタイのいい40代前後の男が近づき、大河の肩を叩いていた。

「お!大河くん、いきなり勉強熱心だねえ!

真面目でやる気に満ちてていいですね!

でも、そのクローザーだけはやめておきな。

ハッキリ言って、近づかない方がいい。

つい最近も、うちの会員がコイツにやられたばっかりだ。まだ若くてやる気に満ちてたのに」


大河の頭には、千田一樹の顔が浮かび上がってきた。汗だくになりながら名刺を大河に渡してきた彼はあの時間の瞬間、真っ青な顔をして固まっていた。


「コイツはクローザーの中でも最強だよ。神出鬼没なうえに意識レベルの低いやつじゃ簡単に解達(ゲダツ)できないんだ」


大河はパソコンの画面に映される文章にもう一度視線を戻した。


妖精の粉(ピクシーダスト) 危険度レベル7【ライフクローザー】

この邪意織は粉に入り込み、それを摂取した人間に多幸感を与える。邪意織を体内に取り込んだ人間はまるで、幼児になったように振る舞うことが確認されている。

また、普段よりも食事が美味しく感じる、音が美しく聞こえる、景色が綺麗に見えるなど、人の感受性を向上させるとも言われている。

日常の出来事に対して感動し興奮することで、身体は多くのエネルギーを消費する為、その邪意識が活動する為には大量の水を必要とする。

顕在意識と共存している間もその特徴がよく見られ、これを体内に摂取した者はよく喉が渇くと言われている。

気分の高まりは粉の摂取後7日目になるとピークに達し、「自分の背中には羽がある」といったような幻覚を見るという。その結果、多くの人間が7日目になると突発的に高い場所へ上り、そこから飛び降りるということが判明した。


関連する邪意織が1件ヒットしました。

ピーターパン


「もし仮にでも」

大河の後ろで男は言った。

「もし仮にこのクローザーを解達したら協会から報酬がもらえるんだけど」


男はパソコンの画面の報酬額と書かれたボタンを指でポンと叩いた。

「それがいくらか知ったら、このクローザーは今、大河くんが近づいちゃいけない邪意織だってわかるよ」


大河はそこに表示された報酬額に目を丸くした。

「さ、、、三千万円?どっからそんなお金が?!」

「大河くんは平和協会の収入源をまだ知らないのか。でも月会費は払ったんだろ?」

「いえ、最初の月は会費が無料だと言われました」

「そうなのか。まあ、そこらへんは、これから亜弥ちゃんが色々教えてくれると思うから

ゆっくり覚えていくといいよ。

クリーナーをメインでやりたいんだっけ?最初からクローザーを狙わずに、まずはレベル1の邪意織から調査に行くんだよ」


男はぺージの戻るボタンを指でタッチした後

危険度レベル1 と書かれたボタンを叩いた。


【馬喰(ホースイーター) 危険度レベル1】

この邪意織は馬の多くいる地域で確認される。

馬の飼い主の顕在意識に入り込み競技馬の世話を疎かにさせると言われている。


大河がページを見ていると、打ち合わせが終わった亜弥が大河の座るデスクにやってきた。

「あ、アユムさん。お疲れ様です。

大河さん、お待たせしました。とりあえず、会員ページの中身はザックリ確認してもらえましたか?」

男は亜弥に挨拶をすると、「じゃあ、今日から頑張ってね」と言って大河の肩を再びポンと叩き、建物の外に出ていった。


「ああ、まあ、はい。なんとなく」

大河は1ヶ月前に亜弥と喧嘩した日のことを謝りたいと思っていたが、亜弥がそれに関しては何も触れずに自分を1人の新人として接してきたので、気まずいと思いながらも、自分からはその話を切り出すまいと思っていた。


「じゃあ、さっそくですけど今度は会員ページから、平和協会の説明動画を見てもらって、理解できなかったところをまとめておいてください。今日はそれで終わりですから、大河さんの自由なタイミングで休んだり、切り上げてもらって大丈夫です。私は隣にいますから、困ったことがあれば声をかけてください」

大河は「わかりました」と返事をすると、

"はじめに"と書かれたボタンをクリックし、動画を再生した。

亜弥は大河の隣のデスクに座ると「溜まっていた報告書を片付ける」と言って、携帯で作業を始めた。



大河はそれから一言も亜弥と会話をすることなく、一日中デスクのパソコンで協会の動画を見続け、熱心にメモを取った。

部屋は暗くなり、とうとう事務所には大河と亜弥の二人だけになった時、

亜弥は「ふうー」と息をつくと大河に尋ねた。

「見終わりましたか」

「はい、見終わりました」

「お疲れ様でした。じゃあ、まとめたデータを私に送ってもらったら、もう帰って大丈夫ですよ」

「わかりました。え、田中さんはまだ帰らないんですか?」

「これに目を通して、回答をまとめたら帰ります」

「え!そうなんですか? 」

大河はそれなら先にそう言ってくれればもっと早く終わらせたのにと思ったがそれを口には出さなかった。

「それは、ぼくのせいで田中さんも遅くまで残らせてしまってすいません」


「大丈夫ですよ。 一応これで報酬もらってますから。私の報酬は大河さんの成長具合で高くもなれば、低くもなるので」

「そうですか、じゃあぼくも頑張りますので、また明日もよろしくお願いします」

「はーい、じゃあ、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

大河が事務所を出るとき亜弥は「あ、あと」と言って大河を呼び止めた。

「あと、私のことは下の名前で呼んでくれて大丈夫ですよ。田中さんは私の他に彰人(あきと)さんもいるし、ここで田中さんって呼んだら二人とも振り向いちゃうから」

「わかりました。じゃあ僕にも敬語じゃなくて大丈夫ですよ。僕は亜弥さんって呼ぶので、その代わり亜弥さんは敬語やめください」

「んー。そうだね。そうする。じゃあ今日はお疲れ、大河くん」


大河は家に帰ってからシャワーを浴び、ベッドに寝転がると携帯に自分が残したメモを何度も読み返した。


・ナバーナ = 邪意識を超意識に解達(ゲダツ)させる道具 

 (別名ニルヴァーナと呼ばれる会員の武器的なもの)

・解達って何?→悪霊が成仏する的なもの

・意識 = 顕在意識と潜在意識の表裏一体。

コインみたいな。

 顕在意識 = 普段感じてる意識(コントロールできる)

 潜在意識 = よく分からない無意識(コントロールできない)

 潜在意識には邪意織と超意識がある。

 邪意識は、悪さをする。

 顕在意識と共存することを好む。

 超意識は、いいヤツ。邪意織を解脱する。


明日からやること

・自分自身のナバーナを手に入れる必要がある

 どうやって?→田中さんに確認する

・邪意識を解脱して自分の意識レベルの階級を上げてもらう(必ず危険度レベルの低い邪意識を扱う)

 ・・・

 ・・

 ・


大河はメモを一番下までスクロールすると、

最後に書かれた言葉のフォントを大きくした。


"ピクシーダストを解達する"




次の日、大河は家から車で約1時間半程かけて平和協会の事務所に出勤した。

「おはようございます」

「大河さん、おはようございます」

そこには事務係のような空気を感じさせる男がいた。

「あ、おはようございます・・・えっと、」

「田中です。アシストメインで活動してます。

よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


大河が自分のデスクに行くと、パソコンには亜弥の残した付箋が貼られていた。

付箋にはこう書かれていた。

「お疲れ!もらった質問の回答をしておいたので、それを確認し終わったら連絡 please. Aya」


「あの・・・田中さん」

「アキトでいいですよ。ここの人達はみんな下の名前で呼ばれるのを好んでるんです」

「ああ、彰人さん、あの・・僕の教官の亜弥さんってどんな人ですか?」

「ああ、亜弥ちゃんはですね。協会の中でもトップランクのクリーナーですよ」

「クリーナーっていうのは、邪意識を解達する仕事がメインの人のことですよね」

「そうです、そうです。専門用語が多すぎるから最初は大変だと思いますけど、分からない言葉とかあったらなんでも聞いてくださいね」

「ありがとうございます。助かります」

「確か亜弥ちゃんは意識レベル5とかだったと思います。レベル7が一番高くて、そこまで階級が上がると・・・」

「クローザーと戦えるんですよね」

大河が興奮気味に言うと彰人は笑って答えた。

「誰も戦いたい人はいないですけどね」

「そうなんですか。ちなみに亜弥さんは、いつから会員になったんですか?」

「えーと、確か亜弥ちゃんが来たのはまだ、高校生の時だったから、5年前ですかね」

「え?亜弥さんって何歳ですか?」

「23とかだったと思いますよ」

「え!若っ!年下じゃん」

大河は目を丸くして驚いた。


「大河さんは、何歳でしたっけ?」

「28です。てっきり僕と同じくらいの歳か、僕より年上かと思いましたよ」

「最近の女性はみんな大人っぽいですからね」

大河は「へえー」と言うとペットボトルのフタをあけ、コーヒーを一口飲んだ。

彰人が「あと帰国子女らしいですよ」と言うと、大河は口に含んでいたコーヒーを口からこぼした。

「どうりで、なんかちょっと普通じゃない感じがしたのか」



亜弥が残した資料と動画を午前中に全て確認した大河は、亜弥にテキストメッセージを送信した。

「お疲れ様です。今読み終わりました」

すると、すぐに返信が来た。

「了解。じゃあ今から向かう。ランチを取った後ここに集合で!今日はたくさん眠れる日になります。ご覚悟を〜」


亜弥の返事と、送られてきた位置情報のリンクをみた大河は「ナバーナかな」と呟いた。

パソコンの画面に目を戻した大河は昨日自分が残した質問とそれに対する亜弥の回答をもう一度読んだ。


ナバーナはどこで貰えますか?

→もう既に持ってます。http/dream_dive/videos/heiwa_kyokai.io


大河はリンクに貼られていた動画の

"もう一度再生する"のマークをクリックした。

動画には、AIロボットのようなキャラクターが登場し、「ドリームダイブについて紹介します」と言った。


「ドリームダイブとは、自分の潜在意識と会話をする為に睡眠を繰り返すことで、何度も夢を見にいくことです。

自分のナバーナを見つける為にドリームダイブを行う場合は通常1時間の間に5回夢を見る必要があります。5回目に見た夢で人は自分のナバーナの正体が分かるといいます。しかし、短時間で浅い睡眠のみを何度も繰り返す行為は身体と脳に大きな負担が掛かると考えられており、医学的に推奨されていません。ドリームダイブを行う場合は必ず、近くに信頼できる会員を置き、自分が夢から覚めたとき、その夢が何回目に見た夢だったのかを確認しましょう。また、途中で気分が悪くなったり、悪夢を見たりなどの理由で続行が難しい場合には必ずドリームダイブを中止して安静にしてください。ドリームダイブ後にトラウマが残る場合は専門の医師に相談する、信頼する人間にカウンセリングを依頼するなどして治療することを推奨しています。また、睡眠薬を使用してのドリームダイブは平和協会では固く禁止されています」


大河は動画を見終わると亜弥に「寝るのは得意です」と返事をした。


昼食をとり終えた大河は亜弥から指定された場所を目指して車を走らせた。

大河が到着したのは、ビジネスホテルだった。

ホテルに着くと亜弥がロビーで携帯を見ながら待っていた。

「お疲れ様です」

「お疲れ。ご飯はちゃんと食べた?」

「食べました。カルボナーラ」

「いいね、じゃあやりますか」

亜弥は立ち上がるとエレベーターの方に向かって歩いた。亜弥の手には部屋の鍵が握られていた。

「僕のナバーナを探しに行くんですか?」

「お!正解。さすが真面目くん。今日は私の他にもう1人、アユムさんって人がアシストに入ってくれる」

「アユムさん?ってどんな方ですか?」

「昨日朝、大河くんと話してた人。ガタイがいい」

「あー。あの方か」

「武井歩夢(たけいあゆむ)さん。元私の教官で、元レベル6のクリーナー」

「レベル6?」

「そう。私よりも遥かに腕が立つベテラン」

大河はこの娘はそもそも腕が立つのかと疑問に思った。

「ちなみに、協会内にレベル6の人は歩夢さんしかいないから」

「え?!そうなんですか?じゃあ7の人は?」

「3人いる。どこにいるか知らないけど。基本的に会員が事務所に出勤するのはネット使うのが苦手な人達か、トレーニング中の新人しかいないから。あとはみんな各地に散らばってそれぞれ活動してる」

「そうなんですね。だから会員の数は多いのに事務所は小さいんですね」

「そうそう。よく会員数まで調べたね。それに事務所は定期的に移転するし」


大河と亜弥は5階でエレベーターを降りると、

そのフロアの1番奥の部屋に入った。

部屋にはシングルサイズのベッドが綺麗に二つ並んでいて、窓の近くには丸いテーブルがあった。

そして、そこに歩夢が座ってテーブルの上に置かれたパソコンで作業をしていた。

「おー!大河くん。お疲れ。合流できたみたいだね」

「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」

「おおー!よろしく。ていうか亜弥ちゃん。この部屋禁煙じゃん」

「すえませんでした」

歩夢は笑って「その若さで親父ギャグはキツイよ」と言いながら鏡の前に置いてあるタバコとライターを取って立ち上がった。

それを見て亜弥も「私も一服しよーっと。大河くんも吸うよね?」と言ったが大河は手を横に振って答えた。

「もう吸ってないんです」

「あら、禁煙中?」

「そんなところです」

「じゃあ、悪いけどすぐ戻ってくるからちょっと待ってて」

「はい。お気遣いなく。ゆっくりで大丈夫です」

亜弥は「ありがとう」と言うと歩夢と一緒に部屋を出て行った。


大河は「ふうー」と息をつき、清潔感のある白いベッドに腰をかけた。




人が三人入れるほどの小さな喫煙所で亜弥は煙を吐きながら、歩夢に尋ねた。

「今日、見つかりますかね」

「どうだろうなあ」

「私も最初は大変だったから」

「だね。亜弥ちゃんはあの時まだ高校生だったしね」

「その節はどうもご迷惑をおかけしました」

「過呼吸になってたもんね」

亜弥は苦笑いをしてから

「それは大河くんに言わないでください」と言った。

「アハハハ。分かってるよ」

二人はそれから少しの沈黙を挟み、大きくタバコの煙を吐いた。


大河は、テーブルの上に置かれたパソコンの画面を見ていた。

「タブ開きすぎだろ・・・」

パソコンの画面には動画サイトが開かれており、検索窓には "睡眠用 リラックス音楽"と入力されていた。


大河は別のタブで開かれているページがなんなのか気になったが、開かれたタブが多すぎるせいで他のページのタイトルは縮小され見えなくなっていた。

マウスを触って他のページを見てみようか考えていた時、ドアをノックする音が聞こえ、

「鍵忘れたー」という亜弥の声がした。

大河はすぐに「はーい」と返事をすると立ち上がってドアを開けた。


「お待たせ。ごめんね」

「いえ、ぜんぜん大丈夫です。お帰りなさい」

「じゃあ、さっそくやりますか。ドリームダイブ」

「はい」


亜弥はベッドに座ると「動画はもう見てくれた感じだよね?」と言った。

「はい。見ました」

歩夢は少し笑ってから言った。

「いいね。それなら話が早い。今から大河くんには寝てもらう。大河くんが寝たらタイマーで10分測るから、それを6回繰り返してもらう」

「6回ですか?」

「そう、6回。最初の睡眠では夢を見ないから」

「なるほど。分かりました」

「アラームが鳴ったら俺たちが一度体を起こすから、そしたら、すぐにまた寝るんだ」

「はい。二度寝は得意です」

「二度寝、三度寝はよくても四度寝、五度寝が気持ちいいとは限らない」

「気分が悪くなったら無理しないですぐに言って」と亜弥が念を押すように付け加えた。

「分かりました」

亜弥は「じゃあ、さっそく電気消しますね」と言って部屋の電気を全て消し、カーテンを閉めた。

歩夢は動画サイトで音楽を再生した。

大河はベッドに横たわると目をつぶって部屋に優しく流れる音楽に耳を傾けた。

その音楽は川の優しく流れる音の裏に、瞑想の際によく流される音楽に似た静かな音が混ざっていた。

大河は最初、亜弥と歩夢が息を殺して自分が眠るのを待っている状況が気になったが、真っ暗な部屋に流れる優しい音楽に耳を傾けているうちに段々とリラックスしていき、あっという間に眠りに落ちた。


トンディンドン トンディンドン トンディントンディン♪


「10分だ」

亜弥と歩夢が大河を起こそうとする前に大河は目をパチっと開けて体を起こした。

「もう10分経ちましたか、あっという間過ぎて一瞬に感じました」

亜弥と歩夢は大河がそう言い終わる前に

「おやすみ」と言って大河の体をすぐにまた倒した。

大河は「あ、そういう感じなんだ」と思いながら再び眠りについた。


気がつくと大河は、亜弥と二人でレストランにいた。亜弥は店員を呼ぶと

「Can I have the Big-big cheeseburger and two carbonaras, please? And I’ll have a diet coke 大河くんは、飲み物何がいい?」

と言った。

大河は亜弥が英語を話していることに驚いたが

「あ、じゃあ亜弥さんと同じのを」と答え、

亜弥は「Two diet cokes, please」と言った。


大河は自分が英語を話せず、年下の女性である亜弥に注文してもらったことを少し恥ずかしいと感じながらも、亜弥に対して異国の環境で物怖(ものお)じすることなく注文していることに尊敬の念を覚え、頼り甲斐を感じた。


大河はここ数日間ずっと気にかけていたことについて勇気を出して亜弥に尋ねた。

「それで、この間のこと、もう怒ってないんですか?」

「私を詐欺師って言ったこと?エセ霊媒師って言ったこと?二度と来るなって言ったこと?」

「めっちゃ根に持ってるじゃないですか」

「冗談だよ。怒ってないよ」

大河が亜弥にあの日のことを謝ろうとしていると、金髪に青い目をしたウェイトレスが

銀色のフタを被った大きな皿を二人のテーブルに持ってきた。

亜弥は目を大きくして小さく胸の前で手を叩くと「うわー!来たー!さ!早く食べよう!」と言ってフタを開けた。

そこには一丁の拳銃が入っていた。


「うわああああ!」

「起きたか。ちょっと早いけど。早速悪夢を見たのか?」

亜弥は心配そうに「大丈夫?」と大河に尋ねた。

「夢か・・・」

大河は「大丈夫です」と言うと再び目を閉じた。


大河は小川のほとりに腰を掛け、そこで遊んでいる子供を眺めていた。

勢いよく川の中に手を入れた子供は、小さなオタマジャクシを捕まえた。ビチビチと暴れるオタマジャクシを両手で包んだ子供は「おもしろーい」とはしゃいでからそれを川に落とした。

水の中に入ったオタマジャクシはすぐに子供から逃げようとしたが、子供はすぐに川に手を入れてそれをもう一度捕まえた。

オタマジャクシは子供に捕まえられる度に体を大きく動かして、その小さな手からすり抜けたが、何度やってその度に子供に捕まえられていた。

無邪気に遊ぶ子供を大河は黙って眺めていた。


気がつくと大河の隣には歩夢が座っていて

「カッパだよ」と言った。

「今、なんて言いました?」

「カッパだよ。あれが本当のカッパの正体だ」

「え?」


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