第34話 隠された事実 2

「・・・瑠璃ちゃん、全然気が付いていなかったのね。

 お父さんが瑠璃ちゃんの事を傷つけることなく守ろうとしていた事に・・・




 お父さんは自分が元気だから、結婚を反対している訳じゃなかったのよ。




 昨日の夕食の時、悠馬さんが何かを言いかけて、お父さんに強く止められていた出来事があったのに・・・



 あなたは、その時にも何も感じなかったのね。






 あなたの彼が、本当にあなたの幸せを願ってくれている人であれば、お父さんは結婚を反対なんかするはずがないでしょ。



 あなたが家に彼を連れて来た時、彼の話す態度や仕草には、どこかうさん臭さや軽薄さが感じられる所があったの。





 そんな印象の男性に、瑠璃の一生を任せてしまって良いのか、私達は相談したのよ。


 

 でも、もしかしたら初対面だったから・・・、



 瑠璃をいつまでも自分達で大切にしたい、一緒に居たいと思う親心が強すぎて、彼の事を誤解しているのかもしれないとも話したわ。




 しかし彼は、それをやはり気のせいだと思う気持ちよりも、払拭するべくキチンと確認をしなければいけないという気持ちが残ってしまうような人だったの。




 だから巌は、探偵を使って彼の事を調べる事を決めたの。






 探偵からの報告は、私達の想像以上の悪い結果だったわ。



 彼は、複数の女性と同時にお付き合いをしている人だったの。

 しかもどの女性にもその人を一番好きだと言っている人だったわ。



 それだけじゃなかった・・・


 更にあの人は、多額の借金をしていて、その返済を迫られた金融機関の人達に『もうすぐ金持ちの女と結婚する予定があるんだ。そしたら、金も自由に使えるようになるから、全部まとめて返済するよ』と話していたような人だったのよ。



 

 





 あなたの事が大好きで、世界一大切にしようと思ってくれている人だったら・・・



 借金があったとしても、自分でまじめに働いて返そうと思ってくれている人だったら・・・



 そんな風に私達が少しでも納得できるような・・・



 瑠璃を大切にしようと思ってくれていると思える所がある人だったら良かったのだけれど・・・



 残念ながら彼は、全てが悪い意味で想像以上の人だったのよ。






 瑠璃の好きな人に対して探偵なんかを雇うなんてって、最初私は思ってしまっていたわ。


 けれど、この結果が分かってからは、巌さんは、やはりすごい行動力のある人だって改めて思い直したの。






 そして私達夫婦は、あなたの事を彼から守ろうと決めていたのよ。






 でも、出来るだけあなたの事を傷つけたくは無かったの。


 だからよくケンカもしていた二人だったし、自然にあなた自身が、彼と別れてくれる日が来る事を願っていたの。




 それにね、巌が探偵を使った事を、あまりあなたに知らせたくもなかったの。


 探偵という言葉に、私が最初に思ってしまったのと同じように、あなたがいい印象を持たないと思っていたから。」


 美和が静かに言った。








「ごめんね、瑠璃ちゃん。


 僕も探偵からの報告書を読んで知っていたんだよ。




 そして父から報告書の事を瑠璃ちゃんには言うなと口止めされていたのに、瑠璃ちゃんの話している事を聞いていて、思わず話してしまいそうになったんだ。



 だから夕食の時は、父から強い口調で止められていたんだよ。」


 悠馬が申し訳なさそうに言った。








「・・・そんな話、初耳だよ。






 そりゃあ、いつまでも具体的な話にならないから、もしかしたら、引き延ばされているのかなぁとは思っていたよ。


 だから、せかそうと思って夕食の時も話したのに。








 でもこの話を聞く今の今まで、本当にお父さんは、私がお嫁に行くことを待っているんだと思っていたんだよ。




 だって昨日お茶を持って行った時も、お父さんは笑顔でこう言ったんだよ。


『瑠璃ちゃんは、細かいことに気が付けるんだね。


 ちゃんと私の喉が渇いている事に気が付いてくれて、どうもありがとう。




 瑠璃ちゃんがいつか幸せな結婚をするようなことがあったら、きっと良い奥さんになりそうだね。』


 って。




 そんな風に言ってくれたら、お父さんが私の結婚を望んでいるって考えるでしょ!」








「・・・それは、瑠璃の事が好きだから言った巌さんの褒め言葉だよ。

 

 って言ったんだろ。

 

 今すぐ結婚したいと言う彼がいる瑠璃に対して言うような言い方じゃないからね。




 だから、それは今の相手との結婚について言った言葉じゃない。


 瑠璃がいつかまた、別な良い相手ひとに巡り合って、結婚をすることになったらの話だったと思うよ。」


 美和がポツリと答えた。








「・・・そっか。




 結局私が一人で、勘違いをしていたんだね。




 『早く結婚したい』その思いで頭がいっぱいになって、どんな言葉でも今の彼との結婚をする事に繋げてしまっていたんだね・・・



 私が、本当にバカだったんだ。


 そんなみんなが必死で止めようとしていた結婚をすることに夢中になって、本当に私の事を守ってくれていた大切な人を失ってしまうような、取り返しのつかない事をしてしまったんだね。」


 瑠璃が涙ながらに言い、その場に崩れ落ちてしまった。








 誰も言葉を発する事も出来なくなり、沈黙の時が流れていった。








やがて大野が意を決した表情になると、二人の近くに静かに歩み寄ってきた。


「剣持 瑠璃さん、剣持 颯斗さん。あなた方を、剣持 巌さんの殺人および遺体損壊の現行犯として逮捕します。


 これから二人には、署までご同行願います。」






「姫子さん、どうもありがとうございました。」


 二人を連れてリビングから出ていく時、大野は姫子の方を向きながら言った。

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