第33話 隠された事実 1
「姫子さん、一体どういう事なのですか?
姫子さんが颯斗の言う事が真実だと言うのなら、巌さんは、颯斗に殺されたのでは無いと言う事なのですか?
それでは、巌さんは、どうして昨夜亡くなったのですか?
・・・もしかして、
姫子さんには、私は聞いていませんでしたが、ご家族が話して下さった情報があったのですか?
そう。強い発作を起こすような何かの持病でも、巌さんにはあったのですか?」
颯斗の話と、その後の姫子の話を聞いた大野には、昨夜の巌が亡くなった状況を考えることが出来なくなっていた。
そして、現在の捜査の進捗状況に不安を抱き始めると、皆の沈黙を破るように姫子に矢継ぎ早に質問をしてきた。
「いいえ、そうでは無かったと思います。
巌さんに持病があったと言う話は、私もご家族から伺ってはいません。」
姫子がはっきりとした口調で言った。
「そうです。
颯斗さんの昨夜の巌さんの部屋の状況を聞いた時から、分かっているはずなんです。
もうお気づきですよね・・・
今、私の話している話の意味を分かる方が、ご家族の中にも、もう一人だけいるのです。
颯斗さんが『父さんが部屋で亡くなっていたのを発見した』と言った時からずっと、その死の原因が、自分にあるのではないかと思っていた人が、この中にいるのです!」
「ごめんなさい!!!
そう!!!きっと私のせいなんです。
昨夜私、
・・・お父さんにお茶を持って行ったんです。」
瑠璃が姫子の話の途中に、泣きながら割って入ってきた。
「ええ、瑠璃さん。やはりあなただったのですね。
巌さんの机の上には、空のティーカップが一客置かれていました。
私が部屋に入った時に確認しましたが、そのカップからは、まだ
あなたは先程、庭に花瓶用の花を摘みに行ったとだけ話していました。
でも本当は、ハーブティーを作るための花も一緒に摘んでいたんですよね。
あなたは花瓶に花を飾った後に、ダイニングでハーブティーを作って、お父様の所に持って行ったのですよね。」
姫子が瑠璃に話す口調で、リビングに居る全員に聞えるようにゆっくりと話していた。
「はい、その通りです。
お父さんのお部屋にハーブティーを持って行きました。
悠馬兄さんが下にペットボトルを取りに行っていたので、お父さんもきっと喉が渇いているだろうからと思ったんです。
隠したりして、すみませんでした。
だって、だって・・・朝起きたら、お父さんの部屋で殺人事件が起きていたんですよ。
だから、そんな恐ろしい事件があった場所に、昨夜ちょっとでも入っていたという事を刑事さんにも、家族にも知られたくなくって、つい言えなくなってしまったんです…。
だって、自分はただお茶を持って行っただけなんですから・・・
・・・でもでも『兄さんが部屋に入った時には、お父さんがもう死んでいた』って話したから・・・、
兄さんは、お父さんを殺してなんかいないって言っていたから・・・
昨夜、お父さんは誰かにペーパーナイフで突然殺されてしまったのではなかった!
もしかしてって自分のした事が本当に怖くなってきていて・・・」
瑠璃が消え入りそうな声で姫子の話に答えていた。
「・・・そうですか。
瑠璃さん、よくご自分から話して下さいました。
ありがとうございます。
去年この別荘で、瑠璃さんがカモミールティーを作ったという話を、私も薫さんから聞いて知っていました。
その話の中で薫さんは、自分は花を見るだけだけれど、瑠璃さんは、花の他の楽しみ方も色々知っている人だと嬉しそうに話してくれていましたよ。
ですから、巌さんの部屋でティーカップを見つけた時、私は、あなたが入れたのではないかと思っていました。
そしてダイニングの食器棚に、カモミールの茶葉が入った瓶があるのも確認していました。その瓶からは、巌さんの部屋のティーカップの残り香と、よく似た香りがしていました。
ですから先程の瑠璃さんのお話を聞いた時には、私は違和感があったのです。
なぜ花を摘みに行った話をするだけで、お茶を入れた事には触れないのかと。
その事の理由を私はずっと考えていました。
更にもう一つ、気になっている事があります。
庭の中央に可愛らしく咲いているその花が、最近切られた形跡があったというのに、リビングの花瓶の中には、その花が飾られていないという事も・・・。」
姫子は、ここまで話してから、真剣な顔つきになって瑠璃の方をしっかりと見つめ、話を続けた。
「瑠璃さん、あなたにここでどうしても確認しておきたいことがあります。
スズランが、その可愛らしい見た目とは裏腹に、少量でも人を死に至らしめる程の毒を持つ花だという事を、あなたは知っていたのですか?
スズランの中の『コンバラトキシン』という成分が、呼吸停止や心不全を引き起こす原因となっているのです。
その毒は、青酸カリを十五倍も上回るとも言われる程の、強い毒性を持っているのですよ!」
「そんな・・・
そんなに強い毒を持つ花だったなんて、全然知らなかったわ!
本当よ!私は、そんな事は知らなかったの!」
姫子の話の途中に瑠璃は叫ぶように言った。
「そうですか、知らなかった。
でもあなたは、スズランの花を摘んで、カモミールティーを入れる時に一緒に煎じましたよね。」
姫子は、キッパリと瑠璃に言った。
瑠璃は、力なく一つ頷いた・・・
「知らなかったとおっしゃっていたので、お伝えしましょう。
ヨーロッパでは、スズランの入った花瓶の水を誤って飲んだ小さな子供が、亡くなった事件も実際に起きているのですよ。」
「本当ですか!
私は、ただスズランについては、少し具合が悪くなる位の花なんだという知識しかありませんでした。
まさか、まさかこんなことになってしまうなんて・・・。
本当に今でもまだ信じられないのよ。
昨日、お父さんと悠馬兄さんが喧嘩をして、打ち合わせが終わってしまったでしょ。
あんな大きな声で怒るなんて、お父さん、本当にまだまだ元気だなって思ったんだ。
でもそれと同時に、お父さんがこんなに元気すぎるから、まだ誰も結婚しなくても、何も気にならないんじゃないかなってくやしく思ってきたの。
自分は、一日でも早く結婚したいって夕食の時にあんなにお願いしていたのに、自分が元気だから、お父さんは全然そう思ってくれないんだって。
だから、もしもお父さんが少し具合が悪くなったらいいんじゃないかって考えたのよ。
そうすれば、少しは気弱になって、自分も早く孫の顔が早く見たいって考え始めててくれて・・・
私の結婚の話も進んでいくんじゃないかなって・・・
そう考えたんだよ。
そんな時に、バイトをしていて聞いた話がすぐに頭の中に浮かんで来たんだ。
『具合を悪くする花と言えば、スズランだ』って。
その思い付きを実行しようと、そのまま庭に花を摘みに行ったんだ。
そしてせっかく庭にでてお花を摘むならって、花瓶にも花を飾ろうと一緒に摘んだの。
まさかお父さんが、こんな事になってしまうなんて・・・。
こうなる事が分かっていたなら、絶対にお茶に入れたりなんてしなかったのに・・・。
本当に、本当にごめんなさい。」
瑠璃は、泣きながら必死に謝っていた。
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