第29話 そこの違和感があるのです!!!

「颯斗さんのおっしゃる通りです。


 そうですよね。ですから颯斗さんの言ったように、もしかしたら本当は、他の方の足音だった可能性もありますよね。



 確かに断言をすることなんて出来ないです。


 実際に見たと言う確たる証拠がない話な訳でしたから、皆さんは何処か頼りなく話されていたので、私も最初は真実かどうか半信半疑で聞いていました。」


姫子がゆっくりと話し出し、颯斗の問いに答え始めた。





「ところで颯斗さん、あなたはこれまでの話を聞いていた時、何を思いながら話していましたか?





 実は、私にはずっとあなたのお話にだけがあったのです。






 皆さんからお話を聞いていて、最初は、会話の少ない、やはりどこか距離のあるご家族なのだと思っていました。


 しかし会話が進むうちに、確かに言葉は少ないかもしれないけれども、決して距離のある家族ではない。


 ちゃんとお互いを思いやる気持ちを持った家族であったと思い直していました。


 そしてその絆が、お互いの行動をそれとなく感じられるような間柄にまでなってきているのだと思い始めていました。



 ですから皆さんのお話の中で聞くご家族の話は、直接その姿を見たという確証が無かったとしても、恐らくその予想は当たっている話だったとして、途中から皆さんの話を聞き始めるようになっていました。






 ですが話の中で、どこかがいました。




 その人の話す予想は間違っている。


 いいえむしろ、敢えて私達をその違う方向に誘導しようと話しているかのような方が、家族の中にずっといたのです。」




 姫子は、先程からずっと颯斗を見つめながら話していた。




「なんだよ、その顔は。

 俺が風呂に入った順番の話で、因縁でもつけてくるつもりなのか。


 それは俺の勘違いだったとさっきちゃんと訂正したじゃないか。」


 颯斗がイライラしながら答えた。





「それだけじゃないですよね、颯斗さん。




 そもそも他のご家族の方と、あなただけが違っていたのですよ。


 そう。話している話の意味が、全然違っていたのです。」


 姫子がきっぱりと言った。






「どういう事だよ。あんたは、さっきから何を言っているんだ。

 言っている話が、俺にはさっぱり意味が分からないな。」


 颯斗が答えた。




「そうなんですか?

 ご自分では気が付きませんでしたか?




 それでは無意識におっしゃっていたのかしら。

 颯斗さん、


 『』のですよ。




 他の家族からは、ご家族全員の潔白を信じたいという気持ちから、相手を思いやる発言が数多くされていましたよね。


 時には、余計な事を伝えたくないという気持ちから、言えなくなってしまっていたケースもありました。




 どうしてあなただけがこんなに違っているのでしょうか?


 颯斗さん、そうは思いませんか?」


 姫子が問いただすように聞いていた。






「捜査の協力をする為に俺が親切にしてやった話を、そんな悪意に満ちていた内容と言うあなたの方が、どうかしているんじゃないのか?」


 颯斗が姫子を睨みつけながら答えた。






「だからね、颯斗さん、そこなんだ!


 そういう話にこそ、違和感があったと姫子さんがずっと言っているんだよ。




 まず、巌さんと悠馬さんが揉めていたという話。


 これも結局、いつもの巌さんの言い方だったとあなた本人も認めていたね。




 次に、風呂の鍵が掛かっていた話。これも姫子さんに指摘されるやいなや、自分じゃなかったとまたもやすぐに訂正をした。




 つまりあなたは、自分が言っていた話が、結局自分でもすぐに誤りだと認めてしまうような話なのに、わざわざ私達に話して聞かせていたんだよ。

 


 それが、捜査協力の為に親切にして下さっていた話だとあなたはまだ言い続けるつもりなのですか?



 そのような話や態度にこそ、違和感があると姫子さんはずっと言っているんだよ。」


 大野が強い口調で言った。






「大野刑事のおっしゃる通りです。


 どうして颯斗さんは、そのような証言を繰り返しているのかが、私はずっと気になっていました。








 颯斗さん、知っていますか?




 嘘というものは、いつかは必ずばれてしまうものなのですよ。




 そして嘘というものは、一度でもついてしまうと、その嘘を真実だと思わる為に、つまりを合わせる為に、今度は他の嘘もさらに繰り返し言い続けなければいけなくなってしまうものなんです。






 それでも人は、嘘をつく。




 なぜって……




 それは、どうしても知られたくない事が、その嘘の先に隠れているから。」


 姫子が颯斗の目を見ながら静かに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る