第28話 大野刑事からの話
リビングに少しの間、静寂の時が流れた。
「皆さん、聞いて下さい。」
ここで大野が、全員に声を掛けるように話し始めた。
「今まで姫子さんがご家族の皆さんから詳しく聞いていた午前一時頃という時間。
実はこの時刻は、事件解決の為の非常に重要なポイントとなっていた時刻なのです。
今まで皆さんにはお伝えしていませんでしたが、それは巌さんの死亡推定時刻と重なる時刻なのです。
検死官からの報告で、昨夜の午前零時から二時の間という事が既に判明していたんですよ。
つまり巌さんは、打ち合わせを終えて数時間のうちに、亡くなっていたんです。
これまで判明していた捜査状況は、悠馬さんに不利な状況が整っていました。
まず、打ち合わせが終わる頃に巌さんと悠馬さんが喧嘩をしていた。
そして凶器のペーパーナイフから、彼の指紋も検出されている。
そう、悠馬さんが犯人だという証拠ばかりが、次々と出て来ていたのです。
ですから最初は単純に、悠馬さんから直接お話を聞けば、もう事件は解決するのではないかと思ってしまった位でした。
しかし、今は少々状況が変わってきています。
悠馬さんは、打ち合わせが終わるとすぐに一階に飲み物を取りに行った足音を、瑠璃さんによって聞かれていた。
この事から、部屋にいつまでも残っていて、そのまま巌さんとの争いをエスカレートさせていた訳では無かった事がわかりました。
次に薫さんに、部屋で寝入っている姿を見られている。
そして更に一時頃という時刻を本人が確認していて、その時刻にお風呂場に行き、瑠璃さんが入っている事を知っていたんです。
そしてその後に、実際に悠馬さん自身も入浴をしている。
つまり、ご家族の皆さんからお話を伺っていくうちに、悠馬さんのアリバイはどんどん埋まってきているんですよ。」
大野が淡々とこれまでの姫子の話をかいつまんで説明していた。
「へぇ~~。
そんなにあっさりと状況って変わるものなんだ。
でももしかしたら、悠馬自身が話したアリバイは嘘をついている可能性だってあるんじゃないのか?
それにその聞かれたり、見られたりしていた間に、犯行を行うことだって出来たかもしれないじゃないか。
そもそも瑠璃が足音を聞いたという話だけで、悠馬本人だったと特定することなんてできないんじゃないのか?
その足音が俺だったかもしれないって、確か瑠璃は話していなかったか?
そんないい加減な情報だけで、悠馬の指紋が付いた凶器がちゃんと見つかっているというのに、あっさりと状況が変わりましただなんて、なんだか随分おかしな話じゃないか!」
颯斗が大野の意見に対して、次々と反論してきた。
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