第30話 捜査が進むとき
「俺がいつ嘘の証言をしたと言うんだ!!
ただちょっと勘違いをしていただけだろ。」
颯斗が早口で否定してきた。
「いいえ。
勘違いと言うよりは、むしろ・・・
『颯斗さんの言う通りに、私たちが勘違いをして欲しかった証言』
と言うべきなのではないでしょうか。
あなたは、その証言について私達に内容の間違いを指摘されてしまったから・・・
つまり颯斗さん自身が間違いを認めなければいけない状況になってしまってから、『勘違い』という表現を使って訂正をしているだけですよね。」
姫子は言った。
「もうこれ以上、あなたとは話す気にはなれないな。
全くあなたの言う事は、訳が分からない。
昨夜は・・・
夕食後に転寝をして、風呂に入って寝た。
ただそれだけだ。」
颯斗はそう言い終えると、姫子からそっぽを向くように座り直し、もう姫子と目を合わせないようにしていた。
ツカッ、ツカッ、ツカッ・・・。
颯斗が黙った後、流れていた沈黙を破るように、大野が家族の座っているソファーの方に足音を立てながら歩いてきた。
「もうお話しをすることがない。
そうですか、颯斗さん。
わかりました。
それでは、ここで話に一区切りを付けさせていただきまして、これから皆さんには新たなお願いをしたい事があります。
捜査協力ばかりで申し訳ないのですが、今から各自の部屋の中を順番に捜査させていただきたいのです。」
大野は、ソファーのすぐ近くまで歩いてきて言った。
「どうしてだ!
なぜ部屋の中の捜査まで必要なんだ。
父さんの部屋で事件があったんだから、そこを調べればもう十分だろう。」
大野の言葉を聞くと、颯斗が急に怒りだした。
「いえ、そういう訳にはいきません。
実は、まだ我々には探している物があるのです。」
大野がすぐに答えた。
「そうですか、分かりました。
何を探しているのかは知りませんが、もちろん探していただいて結構です。
颯斗、少し落ち着きなさい。」
美和はきっぱりと答えた。
「そんな母さん・・・、俺は絶対に反対だ・・・。
赤の他人に、しかもむさ苦しい刑事たちに、勝手に部屋の中を見られたり、荷物に触られるのは、気分が悪い・・・。」
颯斗がうつむきながら、消え入りそうな声でブツブツと言い続けていた。
「失礼します。」
リビングの部屋の扉をノックしてから、一人の捜査員が部屋に入ってきた。そして大野の近くまで歩いてくると、耳元で何かの報告をしていた。
「ありがとう、ご苦労様。」
大野が捜査員、そして家族全員にも聞こえるような大きな声で答えた。
捜査員は一礼をして、部屋から出て行った。
大野は、家族の方を見ながら、再び大きな声で話し始めた。
「皆さん、今の捜査員は、浴室の捜査をしてきた者です。
そして彼から、我々の予想を立てていた通りの報告を今受け取ることが出来ました!
やはり浴室は、
『昨夜の犯行後の血液の汚れを落とすために使用された』
模様です。」
大野は全員に聞こえるような大きな声で伝えていた。
しかしその大野の視線の向かう先は、ずっと俯いたままの颯斗だけがいた。
剣持家の全員が大野からの報告を聞き、驚きの表情を隠せずにいた。
「風呂場は、一見したところ綺麗に見えます。
しかし表面的には、何も残っていないように見える場所でも『ルミノール反応』という検査を実施すると、血液中に含まれている鉄分が、極わずかでも残っていれば、それに反応して、青白く発色し血液の痕跡を発見することが出来るのです。
今回もそれを実施させていただきました。シャワーの下に予想より少量との事でしたが、その痕跡が発見されました。
巌さんの体に凶器となったペーパーナイフが残されたままでした。ですから凶器を洗う必要はありません。
恐らく浴室は、体や衣服に付着した血液を洗い流す為に使用したものと我々は考えています。
そして、一階や外にあるゴミ箱の中には、そのような血液が付着した衣類が廃棄されてはいませんでした。
ですから、それを犯人がまだ持っている可能性が非常に高いと、我々は考えて・・・」
「もういいっ!!!」
颯斗が、うつむいたまま突然叫ぶように言い、大野の話を遮った。
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