第15話 庭園の様子

(ふむ、巌さんの部屋の中は、きちんとしているわね。

 一晩過ごした男性がいたとは思えない位、整っているわ。


 ベットメイキングは、少しも乱れていない。 

 となると巌さんは、昨夜ベットには入っていないという事かしら。)


 部屋に入ってから、大野が説明を始めるまでの間に見ていた部屋の様子から、新たな事実を発見する事は、出来なかった。


 姫子は、事件が起きたのに、その殺害現場以外は、とても綺麗に整っているという自分にとっては奇妙にも感じる現場から、静かに出て行った。





 次に庭に出た姫子は、そこに植えられている植物の種類の多さに驚いていた。そして植えられた植物達によってなされている庭園の演出に感銘を受けていた。



 「この庭は、一年中どこかで花が咲いているように、木々や草花が植えられているのね。


  それぞれの季節の植物が決まった場所で、春には春の季節に花が咲くという具合に、ちゃんと工夫して植えられているわ。」


 今が見ごろの春のエリアは、桜・ハナミズキの花が終わった所だった。だがそれらの花を終え、新芽が出てきている木々の下には、ちゃんとアネモネ、ラナンキュラスが植えられ、今はそれらが美しく咲いていた。



 そして庭の中心の少し小高くされた花壇には、巌も好きなスズランが、ひと際目立つようにその可愛らしい花を満開に咲かせていた。




 庭に出てきた姫子は、整えられた散歩道に沿って、別荘の周りをゆっくりと歩いて回っていた。


 誰も別荘を訪れる家族がいない時期でも、庭園には定期的に業者は入っているとの事だった。

 そしてその話の通り、手入れが行き届いていたその庭園は、雑草も無くとても美しい景観をしていた。




 姫子は、庭をゆっくりと観察して回った。

 そして、春の花が切られている箇所が少しあった以外は、結局どこにも人が触れたと思われる跡を見つける事が出来なかった。


 植え込みの花壇の中や、家の近くの土が踏み固められたりしているような場所もどこにも無かった。


 

(外からざっと確認した時に見つけられなかったから、実際にこうして庭に出て来て、その様子を調べてみたけれども、薫さんの望むような結果は、残念ながら発見する事ができなかったわ。



 やはりこの別荘に、外部の人間が近づいた痕跡を発見する事はできなかった。)





 姫子は、薫の願い通りの結果が出る事を共に願い、今まで時間がかかったとしても出来る限りの努力をしていたのだった。



「薫さん、ごめんなさいね。

 どうやら事件の真相に近づく為には、やはり家族の皆さんから昨夜の話を聞いていくことになりそうだわ。」




 姫子は一つ大きく深呼吸をすると、神妙な面持ちになりリビングへと向かっていった。










 部屋のノックをしてから、姫子はリビングへと入っていった。


 「失礼致します。純情姫子と申します。」


 姫子は、最初に挨拶と軽い会釈をした。






 三十畳程の広さがあるリビングの窓よりの場所には、ウォールナットの一枚板で木目が美しい洋風の大きな机が置かれていた。その上には、クリスタルガラスの水差しとグラス。そして先程まで庭で咲いていたのであろう花々が飾られたクリスタルガラスの花瓶が美しく置かれていた。




 その机の周りには、革張りでダークブラウンの、ゆったりとしたトリプルのソファ二台と、シングルのソファ二台が、囲むように配置されていた。




 そのソファに、美和、颯斗、薫、瑠璃が座って待っていた。






 「姫子さん、よろしくお願いします。」


 薫は、姫子がリビングに入ってきた姿を見て、ソファから立ち上がり、少し表情を和らげて挨拶をした。




 「初めまして。巌の妻の美和です。


 そして、彼らが次男の颯斗と、次女の瑠璃です。」


 美和が紹介すると、席に座ったままペコリと二人が軽くお辞儀をしていた。



「先程、こちらに来た大野刑事から言われました。

 これから、あなたが私達の話を聞いて下さるそうですね。


 


 昨日の迷子の男の子の話を、薫さんから聞いています。

 薫さんがとても信頼している方ですので、私達もできるだけ協力させていただきますね。」


 そう言うと、美和が少し緊張した面持ちで立ち上がり、姫子に挨拶をした。




「どうもありがとうございます、美和さん。



 そうですね。これから私と一緒に話すことで、皆さんの昨夜から今までの状況を一緒に思い出していきたいと思っています。


 ですから、何か気が付いたことがあれば、他の方に私が話を聞いている時であっても、何でもご意見を仰って下さいね。




 あっ、気が利かなくてすみませんでした。私が話し始めてしまったので、立たせたままになってしまいましたね。


 お二人とも、どうぞ席に座って下さい。」


 姫子が、美和に話しながら、全員にこれからの話の進め方を説明していった。


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