第14話 姫子の見解
「今までの捜査のご説明、どうもありがとうございました。
ところで大野刑事、お話頂いた説明の中で、私が感じた疑問を質問してもよろしいですか。
巌さんと悠馬さんの口論は、その後に殺人事件が起きてしまうような・・・、
つまり巌さんの身に危険が及ぶと感じさせるような、ひっ迫した内容のものだったのでしょうか?
そしてもしもそのような状況だったならば、なぜ颯斗さんはその声を聞いた時に、すぐに部屋に様子を見に行かなかったのでしょうか?」
姫子は、大野の説明を聞いて思った疑問を素直に口にした。
「そうですねぇ・・・。
颯斗が聞いたのは、巌の怒った声だったそうです。
『なぜ、そこで颯斗が部屋に様子を見に行かなかったか。』ですか・・・
そういえば、確か巌は、自分の意見に相手を従わせたい時に、そういう威圧的な話し方をすると悠馬が説明していましたね・・・」
大野が姫子の問いに答えようとしていたのだが、明確な説明が出来ずに少し萎縮しながら答えていた。
「そうですか、大野刑事。
今のご説明から考えると、それでは颯斗さんも、悠馬さんと同じように、これは父のいつもの声であると考えて、その時は部屋まで様子を見に行かなかったという事でしょうか。
では次に、そうなって来るとまた新たな疑問が浮かんでは来ませんか?
そう、それなら巌さんの怒り声が聞こえたという話をもう一度詳しく確認させて下さい。
巌さんの怒った声を聞いたそうですが、聞こえた声は、ただそれだけだったのでしょうか?
『巌さんは、ほとんど抵抗した痕も無く、心臓を一突きにされていた』との事でしたよね。
では巌さんは、息子の悠馬さんが目の前で自分にナイフを向けても、抵抗する事も、誰か他の家族の助けを求める事もしなかったという事なのでしょうか?
そういういつもの怒り方と状況が違うと思うような緊迫した声や助けを求める声を、颯斗さんは聞いていなかったという事でしたね。
だから、颯斗さんはその怒り声を聞いた時に、巌さんの部屋には行かなかったのですよね。
このような状況の予想について考えを進めていくと、大野刑事のして下さった説明には、何か違和感を感じませんか。」
今までの捜査状況に対する問題点を指摘するかのような質問が姫子から続き、大野は言葉に詰まって、ついには黙り込んでしまった。
「大野刑事、色々質問をしてしまいまして、申し訳ありませんでした。
疑問を持ってしまうと、それをすぐに追求してしまう癖がありまして。
大野刑事がまだ確認されていない事まで、刑事に矢継ぎ早に聞いてしまって、申し訳ありませんでした。
そうですよね。私自身で、ご家族の方からそういった当時の状況については、これから直接確認していけばいいことでしたね。
実際の現場を見せていただきましたし、大野刑事から捜査状況のご説明もいただきました。
ご説明、どうもありがとうございました。
先程申し上げましたように、大野刑事からの説明を聞いて、私はご家族の皆様に、幾つか直接確認したい事が出てきてしまいました。
さて、大野刑事。
これからの捜査は、私達でどのように進めていきましょうか?」
姫子は、話を進める為に質問内容を捜査状況ではなく、捜査の進め方に変えて、大野に聞いた。
「私は、悠馬ともう少し話をしたいと思っていましたので、また二人で別室に行きます。
ですから、その間に、あなたが直接確認したいことがあるようでしたら、リビングに他の家族が待機していますので、そちらでも捜査を進めておいて下さい。」
大野は、別々に捜査を進める提案を姫子にさらりとしてきた。
「ありがとうございます。
わかりました、それでは、リビングに待機しているご家族の皆様の所に行って、私は話を聞いてきます。
後、リビングに行く前に、念のためにこの部屋の中の気になる点の確認をして、次に家の外を一周回って庭の様子も確認して来てもよろしいでしょうか?」
「分かりました。
何か気になる事があるようでしたら、自由にそうして下さい。
あなたが現場を捜査する事は、部下には先程伝達しましたので、また足止めを食らうような事は、もう無いと思いますよ。」
大野は意地悪そうに言うと、巌の部屋から足早に出て行ってしまった。
大野刑事は、ずっと姫子と距離を取るように接していたことに加え、姫子の確認したい点について、それが何であるのかを聞いてこなかった。
そして次の捜査も姫子と一緒ではなく、別に動くという対応をした事を踏まえ、大野刑事は、一緒に捜査をすすめていける刑事さんではないようだと、姫子は判断した。
大野刑事は、どうやら上から命令されたので、言われた通りに姫子を現場に入れなければいけないと、仕方なく行動していただけのようである。
突然現場にやってきた姫子。
そのような彼女の行動は、いつでも手放しで受け入れてくれる刑事ばかりではない。
時として、自分が捜査に参加することを嫌がる刑事だっているのだ。
そのような対応の方が、本当はむしろ当たり前なのかもしれない。
しかし、一緒に捜査を進め、何事も話し合える黒川とのあまりの対応の違いに、姫子はやはり寂しさを感じていた。
でも、そんなことで落ち込んでいる場合ではないのだ。
『真実の追求』この大切な目標の為にと気持ちを入れ直して、姫子も捜査を開始した。
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