第13話 捜査状況

 姫子は、部屋の中の様子をざっと見回し、気になる点を確認しようとした。


すると大野は、姫子のそんな様子を気にする事もなく、いきなり事件の説明を始めた。



「それでは、事件について説明させて頂きます。



 昨晩、この部屋で主人の剣持 巌が死亡しました。



 巌の遺体は、妻の美和によって翌朝発見され、その後すぐに美和に呼ばれた全員が、部屋に集まったそうです。


 ちなみに我々がこちらに到着した時も、全員がそのままこの部屋の中にいました。




 部屋は、巌を発見した状態のまま、何にも触れていないとの事です。

 巌の変わり果てた姿を前に、誰もが口もきけなかった状況だったそうです。


 まあ、全員がすぐに部屋に集まってしまったことで、お互いに他の家族の目が気になり、何かしようと思った者がその中にいたとしても、誰も何も出来ない状況になってしまっていたとも考えられますがね。






 我々が到着した時に確認しましたが、別荘の出入り口や窓の鍵は全てかかった状態でした。


 ですから、外部からの第三者による侵入と犯行は、非常に考え辛い状況でした。




 犯行は、部屋を物色された様子もない状況であることから、金品を狙った犯行ではなかったと推測しています。




 鑑識からの報告では、巌の死亡推定時刻は、昨晩の午前零時から三時の間です。

 そして巌は、ほとんど抵抗した痕も無く、心臓を一突きにされていました。




 そして、犯行に使われたのが、このペーパーナイフです。遺体の胸に刺さった状態で発見されています。


 ナイフからは、長男の悠馬と死亡した巌の指紋が検出されています。




 巌の指紋が一番上についていました。


 そして巌の指紋のついている向きから、刺された後に抜こうとして握った際に付いたと推測しています。


 

 死因がこのナイフと明らかなので、現段階での司法解剖は不要と判断しています。




 次に、家族から昨夜の状況を確認していた時、判明した事実があります。


 巌と悠馬が昨夜の午前零時前に口論をしていたと、次男の颯斗の情報により確認されました。




 現場の状況と颯斗の話から、現在重要参考人として取り調べ中なのが、長男の悠馬です。


 現時点で分かっている悠馬の殺害の動機は、急激に膨らんだ父への恨みと考えています。

 


 実は、昨夜の巌と悠馬の口論の内容なのですが、父巌が弟の颯斗の事を仕事で抜擢しようとしていたそうです。


 悠馬は、きっとそれを不服に思い、カッとなり犯行に及んだ可能性が高いです。






 残念ながら、まだ自供には至っていません。

 なぜなら現在は、取り調べを一時中断していますからね。

 あなたへの事件の説明を上からの指示で急遽行わなければならなくなってしまいましたのでね。


 まあこれが終わったら、また私がすぐに再開して、ちゃんと自供させたいと思っていますがね。」


 大野は、手袋をした手にペーパーナイフを入れたビニール袋を持ち、一応姫子にも見せるようにしながら、一気にこれまでの事件の状況を話して聞かせていた。


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