第7話 薫の悩み

 けんちゃん親子と別れた後、薫が姫子を別荘まで送ると言い出した。


 その申し出を快く受けた姫子は、薫と一緒に姫子の別荘の方向へゆっくりと話しながら歩いていた。




 「姫子さんは、健太郎君の名前や別荘の事まで、すぐに色々分かって凄かったですね。


  私は、けんちゃんとお話はしましたが、あんな風に上手にけんちゃんの情報を聞くことは出来ませんでした。」


 薫が先程の姫子の様子を思い出しながら言ってきた。




 「どうもありがとう。


  実は私は、探偵のお仕事をしているの。


  だから、健太郎君から上手くお話を聞く事が出来たのかもしれないわね。」


 姫子が謙遜しながら答えた。




 「姫子さんは、探偵さんなのですか。


  そうですか。探偵というお仕事は、相手からお話を聞くことがとてもお上手なのですね。

  だってお話をしているうちに、健太郎君のお父様の悩み事まですっかり聞き出してしまいましたものね。




 分からなかった事や悩んでいる事まで、次々に分かっていって、まるで魔法を使っているかのようでしたわ。」


薫はすっかり感心していた。




 「ふふふ、そうですね。


  薫さん、実は、私は本当に魔法使いなのかもしれませんよ。




  あなたは先程からお話をしながら、何か他の事を考えているようですね。

  それでは、それを話したくなる魔法を掛けてみましょうか?」 


 姫子が、少し遠くを見ながら自分と話している薫の様子を見て、魔法と言いながらその事をたずねていた。






 「なぜ、私が悩んでいる事が分かったのですか?」


 薫は今の姫子の質問に驚きを隠さなかった。




 「…姫子さん、どうやらその魔法が効いてきたみたいですわ。」




  薫が柔らかく微笑み、そしてゆっくりと話を始めた。


 「先程の健太郎君のお父様のお話を聞いてから、私は自分の父の事を重ね合わせてずっと考えていたんです。





 私の父は、今健太郎君のお父様が悩まれている『再婚』を、数年前にしたのです。




 お父様は、再婚をする時に、姫子さんが言ったように、ちゃんと私達兄妹にそのことについて、どう思うかを聞いてくれました。




 その時兄さんは、『父さんも自分達も、もう大人なのだから、自分の思った通りに、勝手に決めてくれて構わない』と答えたんです。

 兄は、姫子さんが言ったような、自分の考えは、伝えてはいませんでした。




 そして私は、父の『再婚』と言う新事実にすっかり動揺してしまって言葉を失い、兄さんのようにすぐに答える事すら出来ませんでした。


 そして結局そのまま黙ってしまって、兄さんの意見に従うように頷いただけでした。




 でもね姫子さん。

 今日、健太郎君のお父様への姫子さんのアドバイスを聞いていた時、お父様は、私達からちゃんと意見が聞きたかったのではないかなと考えてしまったんですよ。




 あの時、たとえどんなに時間がかかってしまっても、私も自分の意見をちゃんと言うべきだったのではないかと、考えてしまっていたのです。」


 薫は、今度は姫子の目を見ながら真剣な表情で話していた。


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