大文字伝子が行く125

クライングフリーマン

大文字伝子が行く125

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 金森和子二曹・・・空自からのEITO出向。

 増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 夏目警視正・・・警視庁副総監の直属。斉藤理事官(司令官)の代理。EITO準隊員。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。久保田警部補の伯父。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOエレガントボーイ。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

 本郷弥生2等陸佐・・・陸自からのEITO出向。

 青山たかし・・・警視庁の警部補だったが、退職して、EITOに就職。EITOエレガントボーイの一員となる。EITO準隊員。

 橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。EITOと連携を取って仕事をすることもある。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は警部。みちるの夫。

 久保田警部補・・・あつこの夫。久保田管理官の甥。

 白藤署長・・・丸髷署署長。みちるの叔父。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。EITOエレガントボーイ。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==


 午前11時。本庄病院。

 本郷弥生と伝子が病室から出てくる。

 「本郷弥生。詰まり、お前の姉はいち早くEITOの隊員となった。先日もめざましい活躍を見せた。焦らなくていい。ゆっくり養生してから参加しろ。お前の設計は素晴らしいと大蔵さんのお墨付きだ。時間はかかるが、改造されたホバーバイクは弥生が乗る。ネックレスだが、本来はエマージェンシーガールズのユニフォームの下に私物を身に着けるのは違反だが、理事官に許可を貰った。」

 「隼人のお守りがあれば、危険な任務も平気よ。」

 2人の言葉に、本郷隼人は涙した。「ねえさん、ありがとう。アンバサダー、ありがとうございます。回復に専念します。」ベッドから、隼人は言った。

 伝子が弥生に残るように言い、病室から出ると、物部がいた。2人は、待合コーナーまで歩いて来た。

 「いい姉弟だな。俺、もらい泣きしちゃったよ。」「もう涙腺が緩む歳になったのか、物部。」

 「ばあか。お前と同い年だろ。高遠から聞いたんだが、闇頭巾の残党が悪さしてたって?他の幹の残党も出る可能性があるってことか?」

 「ああ。気にしていても変わらない。私は、一旦家に帰るよ。物部は?」

 「今日は、通院日。薬局が混んでるんだ。」

 伝子は、物部と分かれると、外で待っていた、なぎさのバイクに乗った。

 正午。伝子のマンション。

 高遠は、ケチャップライスを作って待っていた。

 「ただいまー。ケチャップライスか。上手そうだ。」「おにいさま。私の分は?」

 「ない・・・と言いたい所だけど、なぎさちゃんがおねだりすることは分かってたよ。」

 高遠は3人前を作って待っていた。「病院で物部に会ってさ。残党のこと聞かれたよ。」

 「他の残党のこと考えても、どんな行動するか予想がつかないから考えても仕方ないよね。」

 高遠は、自分のPCに準備していた、New tubeの画像を2人に見せた。


 やあ、僕の大ファンのEITOの諸君。大活躍だったねえ。まさか、挙産党議員やシャー民党党首まで守るとは思わなかった。こういう時言うんだっけ?『シャッポを脱ぐ』って。高をくくっていたよ。でも、何で、鬼子母神の件は、分かったかなあ。まさか『鬼繋がり』なんて単純なことじゃないよねえ。まあ、いいさ。次の作戦?考え中。今週中に考えておくよ。ヒント?何するか分からないのに、出せる訳ないよね。じゃねえ。

 》


 「ああ、ケチャップライスにしてやりたい。」と伝子が言い」、「無茶言わないでよ。」と高遠が応えた。

 「ああ、そうだ、おねえさま。あの一門って奴は、どうしようもない奴ね。親が死んだって休暇取ってたけど、生きてたわ。辞める気だったのよ。拘束時間が長いし、きついし、出世出来ないし、って、半グレに麻薬流して貰ってたのよ。本郷二尉は、マジで麻薬の知識が無かったのに、気づいたと勘違いして、狙ってたらしいわ。全く許せない男よ、初めから自衛官になるべきじゃなかったのよ。」

 なぎさの言葉に、食器を片づけ始めた高遠は、「僕もそう思う。捕まって良かったよ。」と言った。

 「今度は、どこ狙うかな?」と言いながら伝子が食器を片づけようとすると、なぎさが「私、片づけます。お義母さまに『女の子らしくなさい』って、いつも注意されているの。おにいさま。洗い物くらいさせて。」

 「了解。じゃあ、お茶の準備だな。鬼子母神だけど、この間の支店長、思い出して、イメージ重なったんだ。それで、念の為の作戦にした。全く自信がなかったけど。」

 「そうだったのか。外れたら、私が恥かくのを承知でやらせたんだな。」「ばれたか。」

 「いい婿養子だ。」2人は笑った。

 みちるから、伝子のスマホに電話が入った。伝子はスピーカーをオンにした。

 「おねえさま。ウチの寛治知らない?」「犬みたいな言い方だな。」「じゃ、ウチの宿六。」「古いな。どうした?夫婦喧嘩したか?仲裁は署長に頼めよ。」

 伝子が軽く言っていると、電話の相手が変わった。

 「大文字君。いつもお世話になっている。ありがとう。愛宕君は、先日の『自転車正面衝突事故』の追加捜査に行ったきり、帰って来ないんだ。場所は、高尾山だ。午前中に帰って来る予定がまだだ。橋爪警部補に現場に行かせたが、いなかった。今、改めて捜索班を編成している。誘拐の可能性があるからね。」

 「そりゃあ、困りましたね。みちる、愛宕はDDバッジ持っているのか?」「携帯しています。」

 「EITOに調べて貰おう。エリア位は分かるだろうから。」

伝子はスマホを切ると、EITO用のPCを起動させた。事情を説明した。

 「5分、待って下さい。」と、渡が言ったので、そのまま待っていると、「高尾山を含めたエリアにいることは確かですね。」と渡は応えた。

 「渡、替われ。大文字君。New tubeにまたブラックスニーカーがアップロードした。見てくれ。」

 New tubeの画面に、件のブラックスニーカーのアバターが現れた。

 《

悪い悪い。歳とると、せっかちになっていけないね。東京都の区長を誘拐したよ。

明日さあ。引き取りに来てくれない?1人2000万円。『タダ』なんて言えないよね。区長の年収、そんなもんじゃない?時間?日没迄待とうか。差し詰め『走れ!メロス』ってところかな。団体で来てもいいよ。場所?内緒。じゃねえ。

 》


 「ざけやがって。」と、なぎさが画面を睨み付けて言った。

 「なぎさ。おしとやかは、どこ行ったんだ?」と、伝子は窘めた。

 「理事官。身代金は不要です。ブラックスニーカーは、エマージェンシーガールズとの対決を楽しんでいる。無論、現場には現れないだろうけど。」と、高遠は言った。

 「場所は?」「考えます。調べます。」と理事官に高遠は応えた。

 「分かった。じゃあ、大文字君、一佐と一緒にEITOに来てくれ。作戦会議だ。」と、理事官は言った。

 「了解しました。」と、なぎさと伝子は言った。

 高遠は、台所に走った。出撃だ。時刻は午後1時を回っていた。 

 オスプレイの中。

 「ブラックスニーカー、忌々しいわ。そうだ。愛宕君、どうしたのかしら?おねえさま。」

 「取り敢えず、みちるを含めた警察チームは外す。現場には、残りのチームで・・・。」

 「どうしたの?おねえさま。」「なぎさ。今、ブラックスニーカー、変なこと言って無かったか?」「全部、変よ、おねえさま。」

 午後2時。

 EITO本部。会議室。

 全員で、ブラックスニーカーが発信したNew tubeの動画を観ていた。

 「これだ!」と伝子が叫んだ時、マルチディスプレイに高遠が映った。

 「理事官。伝子さん。場所は・・・。」と高遠が言いかけるのを遮り、伝子は言った。

 「たかお(高尾)だ。」

 「夫婦揃って、同じ意見かね。」「はい。ブラックスニーカーは1番目のメッセージで『高をくくって』と言っています。そして、2番目のメッセージで『タダなんて言えない』と言っています。『タダ』とは無料、つまり、『れい円(れいえん)』です。高尾には、近くに幾つかの霊園があります。時間は不確定ですが、天気予報で確認すると、今夜から明日午前中にかけて、雨です。午後から迎撃です。」と、高遠は立て続けに話した。

 「流石、エーアイだ。大文字君。早速段取りを組もう。」

理事官の言葉に、「理事官。実は。愛宕が、愛宕警部が、事故検証の為に現場に行っていますが、戻りません。丸髷署では、捜索班を編成していますが、少し人員を割いてもいいでしょうか?偶然かも知れませんが、場所は高尾です。」と、伝子は言った。

 「私がダメだと言うとでも?結城と白藤と新町は捜索班に合流しろ。偶然とも思えんしな。」

 「ありがとうございます。」と、伝子は珍しく涙を流して言った。

 結城と新町は、すぐに出て行った。

 その時、久保田管理官がマルチディスプレイに現れた。

 「理事官。やっと経緯が掴めました。どうやら、区長達は、御池都知事を名乗る女から電話でイベントがあると誘い出され、旅館のバスらしき車に乗って、区役所を出たようです。部外秘ということで、職員も副区長も黙っていましたが、誘拐されたと告げると、事情を話し始めました。御池都知事に確認しましたが、都議会の議長と早朝から懇談していて、イベントは予定していなかったそうです。区長が皆欺された位だから、声が近いのかも知れないと、利根川氏に調べて貰いました。すると、プロダクションから喧嘩別れした。女性物真似タレントで、御池都知事の物真似が出来る女が浮上しました。来栖あきほと言う名です。本名も同じです。この女がボスかどうかは分かりませんが、一味に違いありません。」

 「了解した。今、大文字君から依頼されて、愛宕君の捜索に結城と白藤と新町を派遣した。ブラックスニーカーが呼び出した場所は、高尾の霊園だ。場所が近いから、案外愛宕警部は近い場所にいるのかも知れない。」

 「了解しました。」と言って、久保田管理官は通信を終えた。

 午後4時半。高尾山。

 自転車正面衝突事故の現場から、捜索班は虱潰しに調べていた。

 「ちょっと、不思議なんですけど・・・。」と、探し歩きながら、あかりは結城に話し始めた。

 「何だ、新町。もう飽きたのか?」「いえ。事故ですけど・・・。何で正面衝突したんでしょう?高齢者男性が、ヘルメット無着用だったから、即死した。努力義務なのに、何でヘルメットしていなかったんだ!ってマスコミは一方的に死んだ人の悪口を言っています。努力義務って、『お願い』ですよね。強制義務じゃない訳ですよね。だから、『まだ』買っていなかっただけかも知れないのに。それに、両方ともただただ走っていたみたいな論調だけど、目撃者いないから、死ななかった、ヘルメット着用の女性の言い分だけだから、遺族は怒っているって聞きました。さっき行った現場。坂道のカーブですよね。女性の方は、ブレーキかけながら走っていたって言うけど・・・。」

 「死人に口なしだな。私はおかしいと思った。スピードもそうだが、片方が左側通行で、もう片方が右側通行だと、平坦な道でも正面衝突する可能性がある。お前も知っての通り、未だに自転車が『右側通行』と思い込んでいる人が多い。自転車降りて、歩行者モードになると、右側通行だから、混同して、刷り込まれている。間違った認識の親が子供に間違って教えることもある。残念ながら、立ち消えになったけど、高遠さんや依田さん達が、交通課や生活安全課に協力してくれた『交通安全教室』では、その思い違いをお芝居で説諭してくれていた。なかなか警察官の発想では、そんな指導は出来ない。それと、坂道は上り優先だ。」

 午後6時。雨が降ってきた。警察無線が入った。指揮をとっている久保田警部補だ。

 「捜索は中止。各人現在ポイントを記録しておいて、明日午後から、雨が上がり次第再開だ。各人、クルマで直帰してくれ。」

 午後8時。高尾山付近。

 EITOの2機のオスプレイが飛来した。

 オスプレイ1号機の中。

 「もう1機は、ケーブルカー側から捜索。この1号機は、地上で捜索した範囲の続きを捜索する。みんな、機内のモニターから目を離すな。温感センサーも搭載されている、と聞きましたが。」

 橋爪警部補の提案で、EITOのオスプレイに警察官が乗り、上空から捜索することを決めたのは、つい30分前のことだった。丸髷署署長が自ら指揮を執った。

機内のタブレットから、理事官の声が聞こえた。「そうです。操縦士のジョーンズとロバートに指示を出しておきました。」

 みちるは、警察官の姿のまま、震えながら署長の腕を掴んでいた。

 「よく言ってくれた、橋爪君。天候より人間の体温体力に気遣うべきだった。」と、自分の座席から署長は、橋爪に言った。

 「署長。理事官。2号機が発見したそうです。通信を繋ぎます。それと、DDバッジの反応が出ました。愛宕警部のDDバッジです。」とジョーンズが言った。

時間を遡って・・・。

 午後2時。

 愛宕は、目を覚ました。後ろ手に縛られている。あの女には連れがいたに違いない。薄暗いが、部屋の反対側に人の気配がいる。愛宕は、わざと音を立てて、その方向に転がった。これで、脚にあるガラケーにスイッチが入った筈だ。

このガラケーは、伝子の叔父が昔開発した『大文字システム』の一つを応用した、特殊なケータイ回線で追跡信号をEITOに送ることが出来る。EITOのメンバーもDDのメンバーも身に着けることを推奨されている。大きな振動があらえばスイッチが入る。

 部屋の中に、男が入って来た。あの、三角巾の女もだ。女が部屋のスイッチを押した。

 「転がっても、助かりはしないぜ。あいつらを見ろ。」

 愛宕がその方角を見ると、スーツを着た男達が、やはり後ろ手に縛られている。

 愛宕は、無理矢理立とうとした。男が軽く愛宕を押して、愛宕は倒れた。

 愛宕が、倒れるときに体を捻ったので、DDバッジにスイッチが入った筈だ。

DDバッジとは、位置情報を発信するバッジで、携帯するだけで、余程遠隔地でない限り、EITOの方でGPS情報に変換され、エリアの位置を発信する。更に、バッジを押すことで、ピンポイントで位置情報を送ることが出来る。各人のIDが含まれているので、誰が押したかは、EITOで判断出来る。

 固まっている男達の中から、声がかかった。「愛宕君じゃないか。どうして、ここに?我々を追って?」「いえ、事件に巻き込まれたみたいです。このままじゃお役に立てませんね。」

 男は足立区長立川だ。以前の事件で顔見知りだ。愛宕は悟った。この男達は区長だ。東京23区の。

 「再会の感動は、もう1時間もすれば忘れるぜ。それで、あの世で思いだしな。」と、男は笑った。

 男が出ていく時、外の風景が一瞬見えた。どこかの駐車場か?外から施錠をされた。閂型だ。そうか。トラックか。

 立川は、皆に紹介した。「彼は、警察の人間だ。愛宕警部補・・・今は警部だったね。」

 「では、我々を助けに来てくれたんだね。」と区長の1人が言った。

 「潜入捜査というやつかね?」と、他の区長が言った。

 「いえ、残炎ながら、別口の捜査をしている時、捕まったようです。」と愛宕が言うと、皆はため息をついた。

 「でも、彼は警察官だ。何か策を見いだすかも知れない。」と、立川区長は言った。

 「勿論、頑張って、脱出しましょう。僕も努力は惜しみません。でも。その前に状況を把握したいのですが・・・。」と、愛宕は立川に目を向けた。

 午後3時半。区長達の記憶と、自分の記憶を辿りながら、愛宕は話を整理した。

登庁して間もない頃、区長たちは、それぞれ、御池都知事から電話を受け、『秘密の宴会』をするからホテルのバスが到着したら、何食わぬ顔で乗り込んで来て欲しい、と言われた、と言う。仕事は副区長に任せてバスに乗り込むと、ホテルのある場所では無く、どんどん郊外に進んで行く。やがて、自分たちは誘拐拉致された虜だと気づく。

 お昼前、事故現場に到着した愛宕は、偶然交通事故の自転車ドライバーの女に出くわす。愛宕は、丁度いいから、と当時の様子を女に説明して貰っていたが、夢中になって気づかなかった。背後に男がいたことを。女が三角巾をしていたこともあって、油断してしまった。

 気が付くと、トラックの中に転がされていて、立川区長と再会する。区長達と話をしている内に、愛宕は気づいた。誰も助けに来ない。1時間もあれば、場所を特定出来る筈だし、DDバッジを押したから・・・と思って、1つの可能性に気が付いた。

故障しているのだ。区長達のスマホは、圏外になっていると聞いたが、それだけではない。愛宕のガラケーもDDバッジも通信出来なかったのだ。

愛宕は深呼吸をした。無駄かも知れないが、後ろ手に縛られているロープを何とかするしかない。

 午後4時。千代田区の区長大石が発言した。「こんな時、よく自力でロープを何とかするよね。ガラスはどうだろう?私の腕時計の蓋はガラスだ。プラスチックじゃない。」

 港区の区長は言った。「ガラスでロープを切るのかね?うまく行くかなあ。」

結局、1時間かかって、大石区長の腕時計の蓋は、壁にぶつけたり、大田区区長西村の靴で蹴ったりして割れた。

 西村区長の靴は、ヒールで、非常に堅かったからだ。

 区長達の協力で、愛宕の後ろ手に、ガラスの破片が渡された。気の遠くなる作業が続いた。時刻は5時半を過ぎていた。

 外で、パラパラという音が聞こえる。雨だ。幸い、トラックの中だから防水だ。それに誘拐犯達が戻って来る様子はない。

愛宕は焦った。だが、ここで諦める訳には行かない。自分は区長達の『頼みの綱』であり、希望だ。

 愛宕のロープは、切れた。愛宕は区長達に礼を言い、区長達のロープを順に切っていった。

 もう午後6時だ。

 そして、土下座をし、皆に事情を説明した。ガラケーとDDバッジの両方が故障したらしい、と。EITOの配布品であることも。世田谷区長の小橋は、笑って言った。

「希望を捨ててしまったら、終わりですよ、愛宕さん。愛宕警部。」

愛宕は、目をつぶり、もう一度考えた。ガラケーは精密機械だ。DDバッジも精密には違いないが、スイッチを押すことで、現在位置をピンポイントで通信する。

 「西村区長。もう一度、ヒールをお借りしていいですか?」「勿論。」

愛宕は、角度を変えて、DDバッジ踏んだ。何度も、何度も。

 「ストップ。」立川区長が言うと、DDバッジの表面が薄く緑になっていた。

 「オンに、オンになりました。」狭いトラックの中は歓喜で溢れた。

再び静寂が訪れた。時刻が午後8時を指した。

 「もう8時か。やはり、EITOには届かなかったか。」目黒区長が弱音を吐いた。

 その時、トラックの外で音が聞こえた。いや、聞こえた気がした。

 「西村区長。」西村は、すぐに靴を脱ぎ、愛宕に渡した。

 ひょっとしたら、ひょっとしたら、と逸る気持ちを抑えて、愛宕は、音のする方角にトントンと叩いてみた。

 雨の音が大きいので、最初はかすかにしか聞こえなかったが、壁に耳を当てた。何か聞こえた。

 モールス信号だ。愛宕は、みちると共に、ひかるにモールス信号を押して貰ったことがあったのだ。

 約30分。応答は続き、扉の外で工具を使う音が聞こえて来た。更に30分。扉は開いた。みちるが真っ先に入って来て、「あなた!寛治さん!!」と愛宕に抱きついた。

 皆、微笑んで見ていた。

 翌日。午前11時。高尾山の霊園の駐車場に無骨な男達の集団が現れた。

 「遅いぞ。夕べから待機していたのに。」最初に現れた、伝子はブーメランを投げて、集団の1人の拳銃を跳ね飛ばした。

 「遅いぞ、夕べから待機していたのに。」二番目に現れた。なぎさが集団の1人の機関銃を握る手首にシューターを投げた。

 「遅いぞ。夕べから待機していたのに。」三番目に現れた、あつこが集団の1人のナイフをブーメランで跳ね飛ばした。

 「遅いぞ。人質はもう救出したのに。」四番目に現れた、みちるが言った。

 「暴れるけど、いいよね。答は聞いてないけど。」あかりは、シューターを乱れ打ちした。刀を持っていた者は、皆手首に当たったシューターの影響で痺れ、持てなくなって地面に落した。

 「区長を監禁誘拐するなんて、いい度胸だわ。たっぷりお返しをしてあげるわね。礼はいいわよ。」と、ペッパーガンを放ち、結城は言った。

 「私たちを誰だと思ってんの?エマージェンシーガールズよ。舐めて貰っちゃ困るわね。」と、水流ガンを放った日向は言った。

 「こういうのもあるのよお。」と、少し離れた所から矢を放った田坂は言った。

 「聞け!悪党ども。」と、ブーメランで機関銃を弾いた金森が言った。

 「この世に悪の栄えた試しは無い!」と、増田は、こしょう弾を投げて言った。

 「お前ら、舐めやがって・・・。」と言った男は、動けなくなった。稲森が投げ縄を投げて捕獲?したからだった。

 伝子は、声高らかに言った。「正義の戦士、エマージェンシーガールズ!!」

 エマージェンシーガールズは唱和した。「正義の戦士、エマージェンシーガールズ!!」

 縦横無尽に走り周り、戦意を喪失した集団は、バトルスティックで一気に殲滅されるのに30分はかからなかった。

 あつこが、麓で通行止めしている警官隊を呼び寄せた。

 高尾山周辺をパトロールしていた、青山と高木と本郷はホバーバイクを駐車して、降りた。

 バイクで筒井が到着した。「ケーブルカーの所に双眼鏡で様子を見ていたカップルがいたので、確保した。どうやら、今回の『枝』らしいな。」と、筒井は伝子に報告した。

 筒井はガラケーを取り出し、伝子に渡した。

 「区長達が感謝してくれた。今回は『オマケ』の事件というか、陽動は無かった。自転車事故はアクシデントだったようだ。EITOに帰ったら、簡単な報告だけで、解散していいぞ。」と、夏目警視正は言った。

 通行止めが解除され、警官隊だけでなく、登山ハイキングに来た人々もすぐに登って来るだろう。

 伝子は霊園に手を合せ、皆に号令をかけた。闘いはまだ続く。これは、その1ページに過ぎない。すっかり、EITOの隊長として息づいてしまったな、と自嘲しながら、伝子は皆と合流した。

 ―完―

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