試し読み:桜花、紺碧姫

ジャラリ、と鎖がなった。


 目の前に伸びる白木張りの廊下。

私は、ただそれを真っ直ぐに歩いていく。

ジャラリ、ジャラリ………

 私が進むたびに鳴るのは、地に繋ぎ止めるための呪文の札が張り付いている鎖。

「___様だ。」

「今年の儀式も滞り無いようで__」

うるさい、五月蝿い、煩い。

横に控える者どもの声が耳障りだ。

何が__様だ。何が儀式だ。

私はそんな名前じゃない。私はそんな………

私は………

ふと、白木張りの床が消えた。

目の前に広がる、黒々とした赫。

え、何これ。

そう思った瞬間。


"ジャラン"と、一際強く鎖が引かれた。


「ああ"ぁ"ぁ"ぁぁぁ"」

手負いの獣のような絶叫が口からあふれた。

肌を焼く灼熱。皮を裂く痛み。

 それは焼け石、などと言う生易しい物では無かった。

赫く色付いた鉄が足を裂いて、血を導く。

 そして、こぼれた私の血は燃える鉄の上で焼けることなく"芽吹い"た。


 それは一面を覆う芝桜に、天に顔を向ける向日葵に、黄金の稲穂に、そして椿をつけた大木に。


赫い道がようやく終わり、私はたまらず白木に倒れ伏した。

点々と滴る血からは、まだ作物が芽吹いては育っている。

「素晴らしい」

「やはり__は豊穣神だ。」

 何が豊穣神だ。

 敬称をつけることすら忘れた奴らに嫌気がさした。

「__百年前に捕らえた我らの先祖は優秀だ。」

「一生の安泰が約束されているからなぁ!」

捕らえた、だと?

優秀、だと?

元々、これは私の罪を償う罰だった。

刑期だって決まっていた。

それをいつしか忘れて、お前らが私を地に縛りつけ続けているだけだ。


呪いの言葉を、口の中で噛み殺す。

いつか絶対に、お前らを____。

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