試し読み集

試し読み:桜木琴音

耳できらめく紅のリング。

薄く笑う唇に引かれたルージュ。

劣情を煽るような赤い服を愛想のないロングコートで隠し、近くに寄る者だけにその前を開く。

そして補導の警官が見えたら、ゆっくりと場所を移動して、身体じぶんを買う人を待つ。


琴音は男娼だった。


男なのに、『琴音』という名前をつけた母も同じような職業で、琴音が同じ道を通ったのも、ある種の運命だったのだろう。

何故なら琴音は男であり、紅性でもあるから。



この世界には、男女の性のほかに色性という性がある。

運動、勉学、全てに優れた支配階級、藍性。

一般的な能力を持つ、被支配階級、緑性。

両性であり、何事にも優れるが人口の0.5%にも満たない、紫性。

そして、被差別階級、紅性。

藍、緑、紅の順に、二割、七割、一割というように人口は分かれている。

紅性が差別されてきた理由はその少なさ…だけでは無く、発情期によるものだ。

そう、発情期。動物のように、他者の性欲をかき立てるフェロモン。

それによって紅性は、藍性を月に一度、三日ほど誘う。

それは藍性の理性をぶち壊し、強すぎる劣情を抱かせるものだ。

少数の弱者に、簡単に理性を壊されるというのは支配階級としては面白くないのだろう。

そのため昔から、紅性は差別の対象だった。

そして、今も。

数十年前に『色性平等法』ができはしたが、

・複数の藍性と一人の紅性が結婚できる。

・奨学金を受け取った紅性は強制的に見合い制度がある。

と言った項目があることから、差別が根強いのがわかる。

しかし、琴音はそんな差別を甘んじて受ける気はさらさら無かった。

理性をぶち壊せるなら壊してしまえば良い。

藍性を誘えるなら誘えば良い。

それで男でも抱ける相手を探し、金をもらえるならそれでいい。

そう、思っていた。

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