第38話

「よーし! ここら一体のモンスターは殲滅できましたよぉ! センパーイ、わたしの活躍ちゃ~んと見てましたかぁ!」


 ハイハイ、見てたからキャピキャピしながら俺に向けて手を振るなよ。

 現在ショッピングモールの二階に上がって、立ち塞がっているモンスターたちを一掃していたところだ。


 阿川とひまるを連れて来た時は、モンスターの多さとこっちのレベルを考慮して、さすがに攻略することができずに、俺のカードを駆使して食料だけ確保して、早々に離脱したが、これだけの戦力があれば真正面からでも戦える。


 注意するのは、背後からのバックアタックがないことと、遭遇したことのない敵に相対することだ。

 いくら力では勝っていても、大量のモンスターに挟み撃ちされれば、一気に攻め落とされてしまう危険性が高い。


 また初めて敵対するモンスターについても注意が必要だ。どんな能力を持っているか分からないし、下手をすれば見た目で判断できないくらいに強いかもしれない。

 その時は一旦退いて、相手の情報を得てからの攻略になる。


 まあ、相手が一体の時は、ゴリ押ししてみて勝てそうだったら、そのまま押し切ることもあるが。


 実際何度か獣型――大型の犬のようなモンスターと遭遇し、全員で集中攻撃すれば簡単に倒すことができた。

 そうしてモンスターを排除しつつ、目的地である服屋に到達し、女子たちのテンションが物凄く上がっている。


「ツキオはどうする? あっちには男物の服があるよ?」

「……俺はいい。部室にもまだ着れる服あるし。阿川はどうなんだ?」

「う~ん、そうだね。僕も今ある服でいいかな」


 だよなぁ。夏ってこともあるし、一日に何枚も着こまないし。


「センパーイ! これどうですかぁ?」


 服を持ってきた井ノ海が、自分の身体に当てながら俺に意見を求めてくる。

 夏に相応しい涼し気な薄いオレンジ色のワンピースだ。


「お前が気に入ったならもらっときゃいいんじゃね?」

「むぅ、そこはちゃんと似合うかどうか言うのが男の子ですよ!」

「…………似合ってると思うけど」

「あは! じゃあこれももらっちゃいまーす!」


 上機嫌に服を畳んでカバンに入れていく井ノ海。


「大枝くん、あなたのセンスに不安はあるけれど、一応聞いてみるわ。この服、どうかしら?」

「雨流、お前もか……いや、だから不安だったら別に俺に聞かなくても――」

「どうかしら?」

「…………似合ってます」

「あら、そう? ならこれを頂きましょうか」


 いちいち何で俺に聞いてきやがる。俺にファッションセンスなんてありゃしないのに。

 男の意見を知りたいなら、阿川にも聞けよな。阿川なら間違いなく俺よりも良い意見を言ってくれると思うのに……。


「あはは、二人とも楽しそうだね!」

「ていうかさっさと選んでほしい。時間をかけ過ぎだ。これから医療品と食料も確保しに行かないといけないってのに」

「けどこういうのも必要なんだよ。ずっと部屋にこもってたり、モンスターを倒したりするだけじゃ、やっぱりストレスだって溜まるだろうしね」


 それに付き合わされる俺たちのストレスはどこで解消すればいいのか……。


「にぃやぁん! これにあうぅ?」

「おお! 世界で誰よりもお前が似合うぞ! 可愛い過ぎて兄ちゃんはどうにかなっちゃいそうだ!」


 さすがは我がマイラブリーエンジェル! 何を宛がっても似合ってしまう。将来はきっと男が放っておかないほどの美人さんに……いやっ、この子に邪な視線を向けてくる男は俺が皆殺しにしてやるぅ! あるいは全員カードで去勢してやらぁ!


「相変わらずのシスコンね。あれはどうにかならないのかしら……」

「無駄ですよぉ。あれも含めてセンパイですし。でもあの優しさをもっとわたしたちにも向けてほしいですよねぇ」


 二人の女子が何やら俺をジト目で睨みつけているが、俺はひまるの可愛さに夢中だ。それにこの笑顔! やっぱりここに来て良かったぜ!


 そうして女子勢が満足するまで服や下着などを物色したあと、医療品店へ向かい、必要なものを手分けして確保していく。

 女子二人は、化粧品が置いてあるところにも寄っている。こんな状況でも身嗜みは欠かせないようだ。女子ってのは本当に大変である。男に生まれて良かった。


 最後に一階に降りて食料をゲットして終わりなのだが……。


「あれ? ツキオ、あそこで誰かが戦ってるよ!」


 一階フロアにある本屋の入口で、モンスターと戦っている四人の男女を確認した。

 二人の男女がモンスターと戦っているが、残り二人の女子は、身を寄せ合い距離を離しつつ、ただ二人の戦いを見守っている。


 動きから見て、どうやら戦っている二人は『新人種』っぽいが……。


「あ、センパイ! 後ろの二人に近づくモンスターがいますよ!」


 確かに井ノ海の言う通り、二人に近づいているゴブリンがいた。


「ツキオ!」

「ああ、あの二人気づいてないな。仕方ない、加勢する。阿川、援護を頼む!」

「任せて!」


 俺がサバイバルナイフを両手に持ちながら疾走し、その背後から羽ダーツが俺を追い越してゴブリンへと迫っていく。


「「ギャギャッ!?」」


 羽ダーツが身体に突き刺さった直後、ゴブリンの声で、二人の人物がようやくゴブリンの存在に気づく。

 それと同時に、二人は揃って「きゃあぁぁぁっ!?」と悲鳴を上げて尻もちをつく。


 あの程度で驚いて腰を抜かすのか!? 


 その態度で、彼女たちが戦闘に慣れていないことを知る。

 俺はすぐさまゴブリンに接近し、素早く一体ずつ首を刈っていく。

 切断された首から噴射される血を見て、腰を抜かしている二人の人物の顔色が真っ青になる。


 そこへ――。


「梨花! 香苗!」


 先程まで戦っていた二人の男女が駆け寄ってきた。

 そして男の方が、俺に向けて血に塗れた剣を突きつけてくる。


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