第37話

 全員で【血祭りの暁】を乗り越えると決めたその日から、俺たちはまずできることを整理し、一つずつそれを行っていった。

 何が起こってもある程度対処できるためには、やはり力が必要不可欠だと判断し、積極的にレベル上げに勤しんだのである。


 幸い俺の能力を使えば、如何様にも雨流たちのスキルを活かせることができて、KPをゲットしやすかった。

 方法は基本的に阿川の時と似たような感じだ。


 一カ所にモンスターを集めて穴(針山が無い)に落とし、安全圏である穴の上から、雨流たちがスキルや武器などを使ってモンスターに攻撃を加える。

 仕留められればそれでいいが、できない相手はレベルの高い俺か阿川がトドメを刺すという形を取った。


 そうして何度か討伐を繰り返し、二人がレベルⅡへと上がり、阿川がⅢに上がったところで、【血祭りの暁】まで残り一日と迫った。

 そこで最後の仕上げと、物資の確保を目的に、前にひまるたちと一緒に来た、例のショッピングモールまで全員でやって来ていたのである。


 食料もそうだが、医療品や衣服などをゲットするためだ。

 衣服に関しては、俺みたいな男は着れるものならずっと着続けても何も思わないが、女はそうもいかないようで、特に確保するなら今のうちにしておいた方が良いということで、食料補給がてらに、服などを調達することにした。


「ふふん! レベルが上がって強くなったわたしの力を見せてあげますよ! ――《獣化・獣人バージョン》!」


 モンスターたちを前にして、井ノ海が胸を張りながらスキルを行使する。

 すると彼女の頭部にピョコンと狐耳が生え、臀部近くからは二つの尾が姿を見せた。


 これまでは狐そのものに化けることしかできなかったが、狐が擬人化したような恰好もできるようになったのである。

 しかも狐化した時と同じように五感は鋭いまま。


「続けて――《狐火》!」


 彼女の周りに浮かび上がる火球。それが目の前にいるモンスターたちに向かって弾丸のように放たれていく。

 次々と火球が命中し、モンスターが苦悶の表情で次々と床に倒れ込む。


 しかしその中で、まだ絶命していないモンスターが起き上がって井ノ海へと迫っていく。

 だがそこへ――ドガァッ!


 突然モンスターの死角から商品棚が飛んできて、モンスターは成す術もなく押し潰されてしまった。


「雲理さん、油断は禁物よ?」


 見れば、自分の周囲に店の中にある、あらゆるものを浮かべている雨流がそこ立っていた。そして浮かべている物たちを、縦横無尽に動かしてモンスターにぶつけていく。


 火球と違って真っ直ぐだけではないので、回避しても雨流のコントロールで追尾され潰されるのだ。

 ほんの少し前までは、ソファすら持ち上げられなかったのに、今では重い商品棚まで操作できるようになったのだから大した成長力である。


「凄いね二人とも! 僕だって負けていられないや! ――行って、僕の羽たち!」


 今度は二人に刺激を受けた阿川の攻撃だ。

 それまで羽をただダーツのように飛ばすことしかできなかったが、その応用力に磨きがかかった。


 羽が何枚も横に連なっていき円を作ると、それが丸鋸のように激しく回転し始める。

 それがモンスターの身体に触れると、カッターのように綺麗にその部分が切断された。


 攻撃力の低さが難点だった阿川だが、この方法で別格の攻撃力を得ることができたのである。


「…………俺の出番ねえや……」


 そんな無双する三人の様子を、ひまると一緒に眺めている俺。

 すでに怪物オークすらも三人なら苦戦せずに倒すことだってできているのだ。ここらで彼女たちに勝てないモンスターはもういないのかもしれない。


 少なくとも怪物オーク以上のモンスターをまだ見ていないから。


「わぁ、ミーちゃんたちつおいねー」

「そうだなぁ」

「にぃやんよりもつおい?」

「う~ん……そうかもしれないなぁ」


 レベル的に言えば俺の方が強い。

 でも実際三人でかかってこられたら一方的に倒されてしまうかもしれない。


 無論事前にカードの準備をしてからなら話は別だが、いきなり襲われてしまうと、何もできずに終了を迎えてしまいそうだ。

 それだけの力が、今の彼女たちにはある。


「にしても女ってのは強いもんなんだなぁ」


 ここ数日での成長力は、俺や阿川以上だ。それはレベルではなく、精神面ではあるが。

 モンスターは元人間だということは彼女たちも重々承知だ。それに対し、俺だって阿川だって、かなり思うところはあった。


 もちろん彼女たちも思うところがないわけじゃない。ただ覚悟をしてからの彼女たちの勢いは、まさに破竹そのもの。ただ真っ直ぐ、強くなるために邁進している。

 そういや小さい頃、お袋が言ってたっけなぁ。


『女はね、覚悟をすれば世界最強になれるわ。何たって、子供を生む覚悟を背負って生まれてくるんだもの』


 ガキの頃の俺には、お袋の言った言葉の意味は理解できなかった。けど今なら何となく分かる。

 生物にとって一番の覚悟は子孫を残すこと。そして子を生む女性の覚悟は何よりも強い。その覚悟ができる女性は、男なんかよりもずっと心が強いのだ。


 多分、そんな感じのことをお袋は言いたかったんじゃなかろうか。


 実際に、雨流たちはスパルタとも思えるようなレベリングに、一切文句を言うこともなくこなし、そしてここまでの力を得たのだから凄い。

 それもこれも誰かのためだって言うのだから、本当にマネできない。



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