第34話
「――ふぅ。長い旅路だった。何だか何もかもが懐かしい……」
学校の裏門に帰って来た俺は、思わず黄昏ながらそんな言葉を口にした。
もちろんただのノリではあるが……。
「何をバカなことを言っているのかしら? もしかして脳みそがモンスター化したの?」
「センパイって時々意味の分からないことを言いますよねぇ。良い病院を紹介しましょうか?」
二人の部活メイトが辛辣な件について。
ちょっとひまる成分と阿川成分が足りなくて、つい口走っただけなのに、そんな冷たいあしらい方をしなくても良くない?
男の子だって言葉のナイフで泣くことはあるんだぞ。
「と、とにかくさっさと部室に行くぞ。一応周りを警戒しろよ。モンスターがいるかもしれないんだからな」
二人に注意を促し、部活棟へと接近していく。
幸いモンスターには発見されず、外階段の方まで向かうことができた。
そのまま二人のキャリーバッグを俺が持って三階まで上っていく。
「その……重くないかしら、大枝くん?」
「こう見えてもレベルⅢで身体能力だって上がってるしな。このままバベルの塔も登れそうだ」
「ふふ、それではいずれ神の裁きを受けて崩れ落ちる運命なのね。何だかあなたらしいわ」
「それどういう意味かな? 俺は神様に嫌われてるって言いたいの?」
「あら、そんなつもりじゃなかったのだけれど、好かれていると思っているの?」
「……まあどちらかっていうと嫌われてるっぽいよなぁ」
別に今まで生きてきて「神様ありがとー」と思うようなことはなかったし。感謝してほしいなら毎年買っている年末の宝くじに当選させてくれ。
「大丈夫ですよぉ。たとえセンパイが神様に嫌われてても、わたしはず~っと好きでいてあげますからぁ」
「へいへい。便利で扱いやすい男だからだろ? ったく、少しは先輩として敬ってもらいたいもんだ」
「ぶぅ、そんなこと言ってないじゃないですかぁ」
言わんでも分かる。お前のような魔性の女が、俺のようなどこにでもいるような男に惚れるわけがないからだ。
「ほれ、着いたぞ」
外階段から中に入るための扉を開け、大丈夫だと思うが、一応廊下にモンスターがいないか確認してから入る。
俺は部室の扉を叩き、「おーい阿川ー、帰ったぞー」と口にした。
するとガチャリとロックが外れる音がして、扉が開く。
「待ってたよぉ、おかえりツキオ!」
そこには天使のような笑顔を見せる阿川の姿があった。
ああ……俺はこのために戻ってきた。
無意識に阿川の両手を取った俺は、阿川の顔をジッと見つめながら言う。
「阿川、是非ともそこは、ご飯にする? お風呂にする? それとも僕? って言ってほしぐへぁっ!?」
突然襟首を後ろから引っ張られ、不細工な声が出てしまった。
見れば雨流が能面のような表情で服を引っ張ってやがったのだ。
「な、何しやがるんだよ! 一瞬息が止まっただろ!」
「いつまでもそんなとこで立ち往生されては邪魔でしょう?」
「え? あ、雨流さん! 良かったぁ、無事だったんだね!」
「ええ、お久しぶりね、阿川くん。ところで……ひまるさんは?」
「あ、そうだ! ひまるはどうした?」
少なくとも見回す範囲にはいない。
「ベッドでおねんねしてるよ」
まだあれから目を覚ましていないようだ。
俺は「そうか」と言い、持っていた荷物を部屋の中に置くと、ベッドがある隣の部屋と向かう。
そこには気持ち良さそうな顔で寝息を立てる我が妹がいた。
俺はそんなひまるの頭を優しく撫でていると……。
「ん……ぅ…………にぃ……やん?」
「あ、悪い。起こしちゃったな」
「…………ふわぁ」
「まだ寝てていいぞ」
「ううん……おきうぅ」
上半身を起こし目を擦ったあと、「んっ」と両手を俺の方へ差し出してくる。
これは抱っこの合図だ。
俺は羽のように軽いひまるを抱き上げ、三人がいる部屋へと向かった。
「あー、うーちゃんとネーちゃん!?」
ひまるが、二人に気づきパァッと嬉しそうに破顔する。女同士ということもあって、二人には結構可愛がられていて、ひまるも懐いているのだ。
ひまるを下ろしてやると、二人に向かって駆け寄っていく。
「キャー、起きたんですねひまちゃん! 相変わらずカワイイですぅ~!」
「こんにちは、ひまるさん。元気そうで何よりだわ」
三人が仲睦まじく再会を喜び合っている中、阿川が俺のところへやってくる。
「こんなふうに、部員みんなが揃うなんて久しぶりだね」
「そうだな。これから賑やかになりそうだ」
「はは、でも合宿みたいで僕は嬉しいな。でも本当に雨流さんが無事で良かったよ? 大丈夫だったの?」
「多分毒にやられてたみたいだな。俺が行かなかったら、今日一日もたなかったかもしれん」
「はぁ~、それなら猶更良かったよぉ。ツキオはやっぱり頼りになる部長さんだね!」
「こっちも何もなかったか?」
「うん。ひまるちゃんは寝てたし、ツキオがいなかったから、ちょっと暇だったけどね」
ここにはたくさんの本があるが、どれもほとんど読破したものばかりで、阿川はせっかくだからとスキルを使って特訓をしていたそうだ。
少しでも俺の役に立つためらしく、そんな健気な阿川の心遣いに全俺が泣いた。
まあでも……こんなブチ壊れた世界で、またこの光景を見ることができたのは幸運なんだろうな。
俺が守りたいと思う者たちが、全員人間として生き残っているのだから奇跡に近いかもしれない。
だからできれば、この光景が今後も続いてくれればと思う。
しかし俺のそんな想いを打ち砕くかのように、突如としてスマホの画面に明かりが灯った。
電源は切れたまま。その状態で勝手に画面が表示される理由は一つしかない。
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