第19話

 ――一週間後。


 部室を拠点に移して結構な日数が経った。

 あれから大きくは世界は変容していない。塔が現れてそのままだ。アーザからも連絡が途絶えている。


 ただ俺と阿川が持つスマホの充電ができず電源がもう入らないので、そのせいで連絡が途絶えているとしたら情報を得られないので困る。

 しかしライフラインが途絶え、観ることができなかったテレビにアーザが映ったことを考えれば、液晶画面さえ近くにあれば、奴がまた映る可能性があるのではと思い、スマホは肌身離さず持っていた。


 この一週間、カードをコンプリートしては、チマチマと校内のモンスターを倒してKPを稼いでいたこともあり、今ではレベルⅢへと昇格していたのである。

 当然スペルカードもまた使い勝手が上がっていた。 


 生成時間が六時間に短縮し、嬉しいことにアルファベットカードをストックできるクリアファイルが一枚分増えていたのだ。

 できればもう二枚増えて、全部のアルファベットを三枚コンプリートできるようになってほしかったが、それは次の成長に期待だろう。


 今日まで三人ともが怪我もなく無事に過ごすことができた。

 ……が、少し考えなければならない問題が発生してしまっていたのである。


「…………食料がもう無いか」


 現状、握り飯が三つに、スナック菓子二つに飴が五つだけ。

 飲料水に関しては、まだキッチンから水道が生きているのでどうとでもなるし、保管されているものも残っている。しかし問題は食料の方だった。


「まあ別にその気になりゃ《スペルカード》で食材だって確保できるけどな」


 以前アイスはカップアイスがたった一つしか手に入らなかったが、そこはイメージを膨らませば量だって変えられたのだ。


 現在において、俺がその気になれば飲料物――『DRINK』なら、2リットルのペットボトルで十本を、一度で生み出すことが可能になっている。

 また食べ物――『FOOD』で、握り飯がニ十個分を瞬間的に出現させることができるのだ。


 これは実際にレベルⅢになった四日前に、限度を知るために試しで作っておいた。

 こうして考えても、三人で暮らしていく分には、カードを利用すれば問題なく過ごしていける。


「でもカードはいざという時のために残しておいた方が良いと思う」


 そう言うのは阿川で、俺も彼の言う通りだと思っている。

 あくまでも食料に関して、カードの力に頼るのは最後の手段にした方が良い。


「じゃあ今日は食材探しにでも行くか」

「そうだね。水もいつ止まってもいいように、確保できるなら確保した方が良いと思うかな」

「学校には一応売店があったよな? そこに行ってみるか?」

「僕が行って確認して来ようか? 飛んでいけばすぐだと思うし」

「う~ん、いや、俺が行ってくるよ。筋力もずいぶんと上がったし、俺なら一度にたくさんの食料を持てるからな。それに何かあっても《スペルカード》があれば何とか切り抜けられるだろうし」

「そっかぁ、じゃあ僕はひまるちゃんとお留守番してるね」

「ひまる……おそといきたぁい」


 ……ああ、そろそろ我慢ができなくなる頃かと思ったが、やっぱり来ちゃったか。


「えっと、ひまるちゃん、お外はと~っても危険なんだよ? ほら、お家を襲ったこわ~い怪物がいっぱいいるからね」

「むぅ……でも、ずっとここばっかであきたもん」


 まあ、実際に五歳の子供を閉じ込めているようなもんだし、この子の言い分も分かる。

 俺たちは現状をしっかりと理解できているし、身を守るためという強い意志があるから我慢できているが、さすがにそれを幼女に求めるのは酷なことだろう。


「ど、どうするツキオ?」

「どうするって言われてもなぁ……」


 ひまるをできるだけ、この部室から出さないようにしている。もちろん彼女の安全を確保するためにだ。

 せめて三階フロアでウロウロするくらいは何度か許しているが、階下に行くのはちょっと怖いということもあって、シャワー室を利用する時だけしか降りていない。


 そりゃストレスも溜まるよなぁ……。


 俺だって実は外に出て発散したいし、今回が良いタイミングだと思って外出する役目を背負ったところもある。

 けど一緒に売店に行くといっても、校舎内にあるので、そこにはモンスターがいるだろうし、広い場所でもないから何かあっても逃げにくい。あまりそういうリスクの高い行為を、ひまるにはさせたくないのだ。


「……ねえツキオ、学校にある売店ってすっごく小さいよね?」

「ん? ああ、そうだな」


 コンビニみたいな充実した品揃えなんかもないし、本当に最小限なものしかない。というか食料よりもノートやタオルといった日用品の方が多い。


「だったら、もういっそのこと学校から出て探さない? そっちの方がより多くの食料をゲットできると思うし、広い場所なら危ない時は僕がひまるちゃんを抱えて空を飛んで逃げるってこともできるよ?」

「なるほど……」


 確かに外で襲われても、最悪ひまるを阿川に任せれば、俺の中の最低限のラインだけは守られるかもしれない。

 デパートやスーパーなどにいけば、校舎よりは広いし隠れるところだってあるだろう。


「それにほら、ひまるちゃんも限界っぽいし」


 俺を見ながら頬をハリセンボンのように膨らませているひまる。すっごく可愛い……じゃなかった。まあ……しゃーないか。


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