第20話
「分かった。ひまる、お出掛けするぞ」
「! ほんとぉ!」
「ああ、けど約束だ。絶対に一人でどっかに行かないこと。俺か阿川の手をずっと繋いでおくこと。できるな?」
「うん! ひまるね、ちゃんとできうよー!」
ということで、俺たちは三人で学校外へ出ることになった。
すぐに準備を整えると、部室から出て左側にある外階段へと続く扉を開ける。
……よし、モンスターはいないな。
実際ここ最近では、部活棟の周囲で徘徊しているモンスターを、阿川と俺のカードを駆使して討伐してきたから大分少なくなっている。
それでも〝イセカイウィルス〟によって、再び自然発生はしているが、確実に数は減っているのだ。
俺たちは階段を降りていき、実を隠しながら裏門の方へと近づいていく。
「そういや、久しぶりだよな、こうやって外に出るの」
「あはは、もしかしてツキオもストレス溜まってたんじゃない?」
「そうかもな。ひまるのこと言えないわ」
そのまま警戒を怠らずに学校から出て行き、住宅街の方へと進む。
途中、地面や建物に血がこびりついていたり、車両が事故を起こして放置されている場面に遭遇するが、どれもモンスターの仕業で間違いない。
ここ一週間で、恐らくかなりの数の人間がモンスターに襲撃されただろうから。
そしてそれはこれからも続く。まさに阿鼻叫喚を体現した世の中になっているはずだ。
「……! 待った、阿川」
先導する俺は、後ろにいる阿川とひまるを制止させる。
大通りへ続く左の脇道へ入ろうとしたが、その先にあった光景を見て足を止めたのだ。
当然阿川が何事があったのかを聞いてきた。
「誰かがモンスターと戦ってやがる」
「え? ほんと?」
阿川も気になったのか、顔だけ出して確認する。
そこには一体のモンスターを挟み撃ちにしている二人の人間がいた。
どこで手に入れたのは、西洋の剣を二人が手にしていて、
「「おらぁぁぁぁっ!」」
二人同時にモンスターへと詰め寄り、その身体に剣を突き刺した。
モンスターは堪らず苦悶の声を上げて、そのまま絶命したのである。
「よっしゃよっしゃ、これでまたKPゲット~」
「けどよぉ、レベル上がりにく過ぎ。いつになったらⅢになるんだっての」
「だよな。まあ地道にレベリングするしかねえってこったな」
どうやらこの二人はまだレベルⅢには上がっていないようだ。今彼らが倒したのはゴブリンだ。倒してもKPはたったの〝3〟。確かにゴブリンだけを倒し続けても、結構先は遠い。手頃なモンスターなので、比較的安全に稼ぐことはできるかもしれないが。
「もっとこう一発で大量のKPをゲットできる方法ってねえかなぁ」
「そりゃ大物モンスターを狩るしかねえんじゃねえの?」
「でも返り討ちが怖いしな。あ、でも噂じゃ〝餌〟を殺すと結構なKPを得られるって話もあるみてえだぜ」
……何だと!?
思わず俺は阿川と顔を見合わせ、そのまま視線を同時にひまるへと向けた。ひまるは意味が分かっておらずキョトンとしている。
「じゃあ試しに殺してみる?」
「いや、さすがに人間を殺すのはなぁ……。お、あそこにスライム発見! ほら、行くぜ!」
「はいはい、りょ~か~い!」
二人の人物は、そのまま大通りの方へと消えていった。
「……嫌なこと聞いちゃったね」
「ああ……けど噂だろ?」
「…………本当だったら?」
阿川の言葉に胸が締め付けられる。
もし……もしだ。アイツらが言っていたように、餌となった人間を殺せば大量のKPをゲットできるとすれば、これは由々しき事態に他ならない。
何せモンスターを狩るより楽に殺せるだろうから。
本当に頭の痛くなる問題ばかりが押し寄せてくる。
こんな世の中になって、本来ならモンスターに対抗するために人間同士が手を取り合って戦う姿勢を取らなくてはならないはず。それが人間が生き続けるために必要な共存に繋がる。
しかし先程の話が真実なら、『新人種』の中には間違いなく餌を狩る奴らが出てくるだろう。
人間が人間を狩ることになるのだ。モンスターだけが敵じゃなく、俺にとっては他の『新人種』まで警戒しなければならなくなった。
「……ひまるが餌だってことを他の『新人種』に悟られるわけにはいかないな」
「そうだよね。ひまるちゃんも『新人種』だってことをアピールした方が良いよ。そうすれば無暗に手をかけようなんて思わないだろうし」
願わくばそんな凶悪な考えを持つ奴が『新人種』にいなければいい。
ただこれからはひまるも俺たちと同じ『新人種』だということにする。その方が幾分かリスクは減るだろうから。
「はぁ……とりあえず人間ともできるだけ会うのを避けていくか」
「分かったよ。ひまるちゃん、僕から手を離しちゃダメだからね?」
「うん! ひまるね、おさんぽたのしー!」
はは、兄の心、妹知らずってか……。まあ笑顔があるだけ喜ぶべきなんだろうな、ここは。
こうして俺たちは、モンスターのみならず人間にも警戒して先へ進んでいった。
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